341)面会
黒騎士の正体を掴む為、深夜の王城に侵入したクマリ。
そこで……皇女エリザベートを襲いに来たと勘違いした一級冒険者のフワンと戦い合う。
互いの誤解が解けた途端……フワンは脱力して、その場にごろ寝したのだった。
「あーあ、馬鹿みたいです~。ジル姉の為に頑張って起きてたのに~! 馬鹿馬鹿しいので、私はもう、ふて寝します~」
「お、おい……! い、良いのか!? 私は、黒騎士を狙っているんだぞ?」
「どーぞ、どーぞ! ご自由に! 先輩の言う通り、紛らわしい黒ちゃんが全部悪い!」
「く、黒ちゃん!? それは黒騎士の事か!?」
「そ~です。黒ちゃんは黒ちゃんです。でも……先輩、黒ちゃん狙いなら、何でこんな所に? 此処には黒ちゃん居ませんよ?」
恐ろしげな黒騎士を適当な名称で呼ぶフワンにクマリは驚き問うと、彼女は立ち上がって答えた。
「うん? 下調べでは……この奥の貴賓室に居る筈だが……?」
「あー、だから先輩、この廊下を通ってのね~。この階の貴賓室にはジル姉と、私達関係者しか居ないよ? 本当、紛らわしいわ~」
「……ちっ……。無駄足だったか……。しかも同業者に見つかるとか、恥も良いトコだよ。それで……奴は何処に?」
「多分ですけど……黒ちゃんは、いつも船の方に居るみたいです~。先輩が調べた貴賓室にはオニルちゃんが居ますよ、連絡係としてね」
黒騎士が貴賓室に居ないと知らされたクマリは舌打ちしながら問うと、フワンは隠す気も無く答える。
「船って、上に浮かんでるアレか……。侵入は難しいな……」
「あー、だったらダメ元で、黒ちゃんに直接頼んでみればどうですか~。運が良ければ招待してくれるかも~。そうと決まれば貴賓室に居るオニルちゃん繋いで貰いましょう~!」
「お前……狙おうとしてる奴に頼むとか……色々おかしいぞ!? そもそも、黒騎士は仲間じゃ無いのか?」
今から襲おうとしている黒騎士に頼むと言うフワンに、クマリは突っ込むが……対する彼女は、急に真面目な顔で冷静に答える。
「……先輩、何を言ってんですか? 黒ちゃんはたった一人で国落し出来る子なんですよ? しかも片手間で。
私も皇国で散々見ましたけど……黒ちゃんの強さは、大嵐やら大地震レベルです。そんなの相手に“狙う”なんて出来る訳無いでしょう?
それに……黒ちゃんは、そもそもロデリア王国の為に、ギナル皇国を倒したんですよ? どちらかと言えば黒ちゃんと仲間なのは、先輩の方です。黒ちゃんが本当は誰か……心当たり有るから、こんな泥棒みたいな真似してるんでしょ?」
「喰えないな、お前……呑気な振りして、色々御見通しって訳か……。お前の名前、確かフワンって言ったな?
フワン、お前の言う通りさ……。黒騎士の正体に私は心当たりが有る。黒騎士が私の考える奴なら……国落しでも大厄災でも簡単に出来るだろうさ。
でも、そいつは死んだ筈……死体も、この目で見た。そして……国を挙げて、そいつを死んだ事にしている……。
しかし……私には、色々納得出来ないんだ。だからこそ、直接問い質したい」
口調を変えて静かに問うたフワンに、クマリも真摯に答えた。
「……黒ちゃんには黒ちゃんの事情が有るんでしょう……。私も黒ちゃんに頼みたい事在るから、ご一緒しますよ~」
「……良いのか、お前……皇女殿下の護衛だろ?」
「先輩だって王子様の護衛でしょ~? ジル姉の横にはオニルちゃんとリベちゃんも居るから大丈夫。大体……この国で一番ヤバいのって先輩ですから~。その先輩がジル姉狙いじゃ無いなら、何の問題も無いんで~」
付いて来る、と言うフワンにクマリは問うと……彼女は軽く答える。こうしてクマリはフワンと共に、貴賓室に向かうのだった。
◇◇◇
「……それで、護衛任務を放棄して俺の元へ来たと? とんだ冒険者達だ……」
「固い事言わないの~、どうせ黒ちゃんが全て守ってるでしょう~?」
「それとこれは別だろう……」
フワンと共にAIのオニルが待機する貴賓室に来たクマリ。
そこに居たオニルは女性型のアバターだったが、クマリはオニルを最初に見た時から、この姿だった為に違和感は無かった。
何だかんだでオニルとの付き合いが長くなったフワンが、遠慮なく黒騎士との面会を求める。
そして、上空に浮かぶ戦艦ラダ・マリーに居る黒騎士と、スクリーン越しでは有るがフワンとクマリは面会する事が出来た。
スクリーン上で黒騎士は、深夜に呼び出したフワンとクマリを皮肉を言ったが、対するフワンは全く堪えず言い返す。
「そうそう! 黒ちゃん、お願いが有るんだけど?」
「……貴女のお願いは、どうにも怖いんだが……。まぁ、聞こう」
「ありがと~。黒ちゃん、近々亜人の国アメントスへ行くんでしょう? その時、私も連れてって~!」
「……フワン殿、皇女殿下の元から去っても構わないのか?」
「うん……。正直、寂しいけど……黒ちゃんがジル姉を助けてくれたしね。これからは、リベちゃんやオニルちゃんが守ってくれるし。
ジル姉の方はもう大丈夫だろうけど……今度は逆に黒ちゃんが、キース君の敵になりそうだから……私が助けに行くの」
問うた黒騎士に、フワンは迷いなく言い切った。それを聞いた黒騎士は……。
「……ククク……男を守る為に俺を利用した上で戦うとは、随分なお願いだな? それに……俺の強さは知ってる筈だが?」
「黒ちゃんは私のお願いを必ず聞く。だって、黒ちゃん……戦う女の子は絶対守るもの。ギナル皇国のジル姉みたいにね。
そして、相手が強いとか……そんなの関係無いわ。世界に喧嘩を売った黒ちゃんなら分るでしょう?」
「…………」
冷やかした黒騎士だったが、フワンはニコニコしながら核心を突いた答えを返す。
図星だった為、黒騎士は何も言えなかった。そんな彼をクマリは黙って観察する。
「それじゃアメントス行きはお願い~。私の用事は終わったから、後は先輩と話してね。おやすみ~」
フワンは言いたい事を言った後、クマリに手を振って貴賓室を出て行った。
残されたフワンは、何も言わずスクリーン向こうの黒騎士を見つめる。
「…………」
「……どうした、クマリ殿……。俺に話が有るのでは?」
押し黙ってスクリーン越しに自分を睨む様に見つめるクマリに、黒騎士が声を掛ける。
(……明らかに声も態度もレナン君とは別人だ……。そして、あの遺体……どう見てもレナン君本人だった。だが、どうにも納得できない……)
声を掛けて来た黒騎士に、強い違和感を感じたクマリは……思案した結果、問い掛ける
「なぁ、アンタ……。そんな格好してるけど……本当はレナン君なんだろう?」
「……レナン……白き勇者と呼ばれた少年……。だが、彼は死んだ。……貴女も彼の遺体を目にした筈……それが真実だ」
「確かに……あの遺体はレナン君だった。……なら、アンタは一体誰なんだ? その兜、外して見せてくれないか?」
「……俺は黒騎士……ただそれだけの存在……。故に、素顔を晒す必要は無い。貴女の用がそれだけなら失礼する」
「お、おい! 少し待ちな……」
“ブツッ!”
クマリに素顔を見せる様に頼まれた黒騎士は、応える事無く明確に拒否して……一方的に映像を切った。
「……マスターとの面会時間は終わりました。お引き取り下さい」
「ちっ! 分ったよ!」
残されたクマリは、AIのオニルに追い出され止む無く貴賓室を出るのだった。
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