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340)深夜の王城

 「……全く、妹ちゃんも色んな事が有った為か……嘘が下手になったね。それ自体は喜ばしい事なんだけど……」



 深夜の王城にて……崩れた屋根の上でクマリは昼間のソーニャとのやり取りを想い出して呟く。


 今、クマリは……とある目的の為に、この場に居た。



 「妹ちゃんの下手っぴな嘘や、お子様王子の慌て様から……アイツ等は何か隠してる。それは、あの黒騎士の事に違いない……。

 黒騎士はマリちゃんの魂と、レナン君の心臓を奪って力を得たって話だが……馬鹿弟子の為にも、真実を確かめないと……!」



 そう呟いたクマリは、崩れた王城の屋根から、城内に侵入した。どうやら彼女は黒騎士の正体を、自分の目で確かめる心算だ。



 クマリが掴んだ情報では……ロデリアに戻った黒騎士は、王城の貴賓室で滞在しているらしい。



 この時間なら、黒騎士も鎧を脱いで部屋で眠っている筈だと、クマリは考えたのだ。



 黒騎士が滞在する貴賓室は事前に調べて有る。クマリは、その部屋に忍び込み……黒騎士の正体を確かめる心算だった。



 王都崩壊に伴い、王城は半壊したがアルフレド王子の指示で、先に城下町の復興を優先させた。


 とは言え、王城が崩れない様に最低限の補修を行われている。

 

 その為、王城内で快適とは言えないが過ごせる部屋が残っていた。



 黒騎士は、王城内のそんな貴賓室の一室に居る。その情報を掴んでいたクマリは崩れた屋根から貴賓室に続く廊下へ降り立つ。


 

 通常なら貴賓室へ向かう廊下は、深夜でも照明で照らされている筈だったが……半壊した城内は照明など皆無だった。



 深夜を照らすのは空に浮かぶ二つの月が照らす月灯りだ。



 暗い月明かりの中、クマリは息を殺して廊下を進む。そんな中……何かが、クマリに向け投擲された。



 「クソ!」



 クマリは舌打ちしながら投げられた何かを、腕の鉤爪で払い落とす。



 “キン!”



 「……居るの分ってるぞ? 姿を見せな……」


 「流石~大先輩~」



 鉤爪で払い落としたクマリは、潜む誰かに向け声を掛けると……。



 底抜けに明るい声を上げて、ナイフを手にしたフワンが現れた。




 「……お前……今日、広間に居た奴だな? 確か一級冒険者のフワンとか言う……」


 「はい~ジル姉の護衛として、ロデリアに来ました~。大先輩に名を覚えて頂き嬉しいです~」



 現れたフワンに見覚えが在ったクマリが問うと、彼女はいつもの調子で嬉しそうに答えた。



 「何だよ、その先輩って?」


 「だって“仮面のクマリ”って言うと……私らの業界では、超有名じゃないですか~。そんな御方にお会い出来て、今日のお昼は嬉しかったです~。

 でも……先輩、その時……随分と面白くないって雰囲気だったじゃないですか~。王子様の護衛なのに、放棄しちゃって~。だから、来るなら今夜だと思ってました~」


 「……面白いな、お前……。そういや、聞いた事が有る……。やたら腕の立つ冒険者バカップルが居るってな。お前は、その片割れだな? 男の方はどうした?」


 「現在、遠方出張中です~。そんな訳で、この私は愛しのキース君の元へ行く為~こうして頑張ってます~。それじゃ、行きますよ~」



 問うたクマリに対し、フワンはニコニコしながら答えながら……ナイフを構え突進する。



 “キン、キキン!”



 フワンは何処から出したのかナイフをもう一本手にして、クマリに向かい猛攻を掛ける。

 

 対するクマリは両腕の鉤爪で受けながら呟く。

 


 「中々やるね……。でも、これはどうだい?」


 「きゃああ~」



 そう呟いたクマリは、フワンに向け風魔法を放つ。まともに魔法を受けた彼女は吹き飛ばされて悲鳴を上げた。しかし……。



 「やられました~、お返しです~」

 


 吹き飛ばされたフワンは呑気に言いながら、空中で身を翻して難なく着地すると同時にナイフを投擲する。



 「む!?」


 「次々行きますよ~」



 投げられたナイフを鉤爪で払い落としたクマリだったが、フワンはニコニコしながら休む間もなく間合いに入り、短杖を向けた。



 「は~い、雷刃」


 「ちぃ!」



 隙無く向けられた短杖にクマリは、舌打ちしながら蹴り上げると天井に向かって、フワンの雷魔法が放たれる。



 「躱されましたか~。えーい」


 “キン!”



 短杖を蹴り上げられたフワンは、全く動揺せず片手のナイフを斬り付けたが、クマリは鉤爪で防ぐ。



 「シッ!」


 「おっと~」



 クマリは、もう片方の鉤爪で薙ぐが……フワンは後方に宙返りしてあっさりと躱す。



 「……お前……その実力、本当に一級冒険者か?」


 「お褒め頂き光栄です~。私は特級のキース君と良く遊んでるから~愛の成せる結果です~。私も先輩に質問させて下さい~。……どうして、こんな事を……?」

 


 問うたクマリに、フワンも質問で返した。



 「何故だと? 決まってるだろう、こんな欺瞞が耐えられねェのさ」


 「成程……先輩は、正しい判断が出来る人だと思ってました……。ですが、そんな狭い思想を持たれていたとは……本当に残念です」



 吐き捨てたクマリに対し、フワンは口調を変えて呟いた。



 「幾ら先輩でも……あの人に近付けさせる訳にいかない……!」



 そしてフワンは、笑顔を消して声を上げ……ナイフと短杖を構える。


 明らかにフワンの纏う空気が変わった。今までの彼女は本気では無かった様だ。



 「お前も、アイツに従わされてるのか。だったら、余計に問い詰めないとな……!」



 対するクマリも、不敵に言い放って……自身の体に風魔法を付与して全力でフワンを迎え討つべく構える。



 目の前の呑気そうに見えるフワンは、クマリが会った強敵の中で……マリアベルやティアに並ぶ強者だ。



 極度に緊張した空気の中……フワンとクマリは同時に叫びながら仕掛ける。



 「先輩……覚悟!」「生意気な!」



 “ギキン!!”



 フワンとクマリは互いの武器を、高い金属音と共に打ち付け押し合う。



 「……先輩程の人が……どうして、あの人を狙う!?」

 「知れた事! アイツは危険だ!」

 「何を馬鹿な事を!」「愚かなのはお前達だ!」

 


 武器を突き合わせてフワンとクマリは、一歩も引かず言い合う。



 「違う、ジル姉は!」「いや、黒騎士は!」



 「「……うん……?」」



 命を賭けた問答の中で、互いに叫んだ名前が全く一致しなかった事に……フワンとクマリは激しい違和感を覚え、首を傾げあう。



 「……えーっと……あの~先輩、ちょっと聞いて良いですか?」

 「……奇遇だな、私も同じ気持ちだ」

 「先輩が狙ってるのって……もしかしてジル姉、いや皇女エリザベート様じゃ無い?」

 「何で、私が皇女様を狙うんだよ? 私のターゲットは黒騎士だ」

 


 「「……はぁー……」」



 武器を突き合わせていたフワンとクマリだったが……守りたい対象と、狙う対象が全く別人だったと知り、激しく脱力して大きな溜息を付くのだった。



 「……はぁ~、全く先輩ったら紛らわしい! 昼間、あんな態度で出て行ったから、憎きギナル皇国って事で、ジル姉を襲いに来たと思うじゃない!」


 「知るかよ! 明らかに危なそうな奴って言えば、あの黒騎士しか居ないだろ! 大体、今日来た皇女様なんて、どう見ても人畜無害じゃないか!」



 フワンは疲れ切って座りながら、盛大にクマリに文句を言う。


 文句を言われたクマリも、負けじと言い返す。



 フワンに取ってクマリは……王城広場から忌々しそうに護衛任務を放棄した挙句……深夜の王城に忍び込んで来た事より、皇女エリザベートの刺客と決め付けてしまったのだ。


 対するクマリは、いきなり闇討ちして来たフワンは、黒騎士の配下だと思い込んだ。



 「あーあ、馬鹿みたいです~。ジル姉の為に頑張って起きてたのに~! 馬鹿馬鹿しいので、私はもう、ふて寝します~」



 座り込んで文句を言っていたフワンは、その場でごろ寝するのであった。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は5/11(水)投稿予定です、宜しくお願いします!

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