32)浮つく心
所変わって、アルテリア伯爵領に居るレナンはある事で少し落ち込んでいた。
「はぁ、一体どうしたんだよ、ティア……」
彼が落ち込むのは理由が有る。最近ティアからの手紙が返って来ない。レナンが気に掛けて沢山手紙を出しても全く音沙汰なしだった。
いや、最近になって漸く手紙が届くと思えば、レナン宛では無く父トルスティンや兄エミルに宛てた手紙の中に極めて短く、レナンの事が書かれている様な状況だ。
レナンは王都に居るティアに何か有ったのでは、と心配し兄エミルに相談すると、王都の学園に伝手が有る兄はティアの様子を調べてくれた。
それによると、ティアの様子はレナンの予想に反し極めて元気そうだ、という事だった。
……但し……聞き逃せない状況も同時に伝わった。それはティアが最近、上級生の男子生徒と共に居る事が多くなった、と言う事だった。
その様子はとても楽しそうで親密そうに見えるとの事だった。その様子を聞いた時、レナンは平静を装ったが内心激しく動揺し、そして落胆した。
直ぐにでも王都の学園に行きたかったが、生憎レナンは父トルスティンより、このアルテリアから出る事は厳禁されている。
レナンの落ち込みを察した兄エミルとその妻メリエは“学生なんだからそういう時も有る”と励ましたが、対するレナンは何か嫌な予感がして気が気じゃない。
連絡が付かないティアに対し焦るレナンはティアと仲が良いミミリにも確認してみる事にした。アルト市の食堂でバルドとミミリ、そしてレナンが集まって、ティアについて話し合う。
「……私の方にも突然、ティアちゃんから連絡が来なくなった……」
「やっぱりそうか……」
レナンの予想通り、ミミリの方にもティアから手紙が途絶えている事も分った。その時期は春頃からとの事でレナンがティアとの手紙が途絶えた始めた時と同じ時期だと言う。
レナンはエミルが人伝で聞いたティアの近況をミミリとバルドに説明した。
「……ティアに男!? あの色気もねェ能天気冒険バカに限って其れはねぇだろ!?」
「バル君……幾らなんでもティアちゃんに失礼でしょ! でも……ちょっと心配……王都って怖い人多そうだから……ティアちゃん変な事に巻き込まれてないかな……」
「「「…………」」」
バルドの半信半疑な声に対し、ミミリは心配そうに呟き、レナンを含め3人共黙ってしまった。レナンは父のトルスティンにも相談したかったが、生憎父は遠方の領内に視察中だった。
「……何だろう……凄く……胸騒ぎがする」
そう呟いたレナンは言いようも無い不安が胸中を支配するのを止められなかった。暫く考えていたレナンだったが、有る事を決意しバルド達に声を掛ける。
「バルド……ミミリ……僕は何かとても嫌な予感がするんだ……君達に是非頼みたい事が有る……どうか聞いてくれないか?」
「何でも言ってくれ、相棒!」
「他でも無い、ティアちゃんの事だからね……。レナン君、私達にどうか手伝わせて!」
「二人とも恩に着る。君達にお願いしたい事と言うのは……」
力強く話す二人にレナンは有る依頼を頼んだ。それはバルドとミミリにティアの様子を見に行って貰う事を依頼したのであった。
こうしてバルド達はティアが居る王都へ直ぐに出発するのであった。
◇ ◇ ◇
一方のティアだが……今の彼女は持ち前の天真爛漫さを失い熱に浮かれていた。
彼女は先月出会ったルハルト公爵家が次男のフェルディという子息に心を奪われていたのだ。フェルディは背が高く目鼻立ちの通った美青年でカールしたブロンドを持っていた。
ティアとの出会いは、学園に一人歩いていたティアにどういう訳か、フェルディの方から熱心に話しかけてきた。
初めは訝しんでいたティアだったが、紳士的で洗練された態度で近付く美青年のフェルディにあっと言う間に心を許し、いつしかティアの方がフェルディに夢中になっていた。
ティアはフェルディの事が気になり出した時、真っ先にソーニャに相談した。すると彼女は満面の笑顔で、ティアの両手を握りながら嬉しそうに話した。
「良かったわね! まさか、あのルハルト公爵家のフェルディ様の御心を射止めるなんて……フェルディ様は沢山の御令嬢が憧れる御方よ! 凄いわ、ティア……正に運命の出会いね! とにかくおめでとう!」
そう言ってソーニャは涙目でティアを祝福した。ソーニャにフェルディの恋を応援してくれた……。
その事よりティアは益々彼に夢中になり、気が付けば冒険者や騎士になる夢や、ミミリやジョゼとリナ親友達の事、そして何よりレナンの事など、忘れてしまっていた。
今日もティアはフェルディが居る中庭の白く趣のある東屋に向かう。
「やぁ……よく来てくれたね、僕の愛しいティア……」
東屋にはフェルディが待って居た。ティアは大人びて洗練された美青年のフェルディを見て頬を染めて俯きながら呟く。
「わ、私も、貴方に早く会いたかったわ……フェルディ……」
東屋でのティアとフェルディは手を繋ぎながら語り合う。
「……考えて貰えたかい、ティア……僕と共に暮らす事を……もう、僕は君以外の女性と生きる事なんて考えられないよ……。今週末から始まる夏季休暇……どうか僕と過ごしてくれないか……。美しいエリワ湖畔の別荘で……僕は君と特別な夜を過ごしたいんだ……」
「で、でも……フェルディ……私にはレナンと言う婚約者が……」
熱っぽく語るフェルディに、顔を真っ赤にしながら消え入りそうな声で呟くティア。対するフェルディは真剣な眼差しで囁く。
「ティア……君の婚約者は弟君なんだろう? 弟では、君を愛する事なんて出来ないよ……。僕は誰より君を愛している……。だからこそ僕は君と本当の意味で結ばれたい……その意味を良く考えて欲しいんだ……」
フェルディはティアの手にキスをして、情熱的に語った。ティアは赤い顏をして頷くのであった。
やがて午後の授業を報せる鐘が鳴り、ティアは名残惜しそうな顔をしながらフェルディに手を振り去って行った。
対する彼も爽やかな笑顔で見送りながら、ティアが完全に見えなくなると途端に悪態を付いた。
「……田舎臭い馬鹿女め……さっさとレナンとやらと別れてくれば良いのに……遊びとは言え、全く下らない茶番だ……」
フェルディはそう言い捨て東屋から出て行った。そんなフェルディの呟きを陰で聞いている者達が居た。
東屋の木陰で聞いていたのはティアの友人のリナとジョゼだ。
フェルディに夢中になり最近、益々様子がおかしいティアを止める為、フェルディの正体を掴んでやろうと陰ながら彼の様子を伺っていたのだ。
「……やっぱりリナちゃんの言う通り……ティアちゃん……騙されてるんだ……」
「これで分っただろう? フェルディの奴は昔から女癖が悪いって有名だったんだ……。ティアの馬鹿野郎……よりによって、何であんな最悪な奴に騙されてるんだ! とにかくこの事をティアに言いつけて、目を覚まさせてやる! 行くぞ、ジョゼ!」
「うん!」
◇ ◇ ◇
「……と言う訳で……私達はアイツの正体を見たんだ……。アイツはお前を弄んでいる」
「そんな訳無い!! おかしな言いがかりはやめてよ! 何でそんな真似するの!?」
フェルディの正体を見たジョゼとリナは、二人でティアを説得するが彼女は聞く耳を持たない。
ティアの横にはソーニャが居たが彼女は迫るリナ達を迷惑そうな顔で苦笑していた。変わらないティアの態度に業を煮やしたリナが彼女を案じ強く迫った。
「お前、フェルディがどんな男か知ってんのか!? アイツは名家の公爵令嬢と婚約しながら、裏で沢山の女に手を出す事で有名なクソ野郎だぞ! ティア、お前は騙されてるんだ!!」
「いい加減にして!! 彼は私の望む事を全部叶えてくれる素晴らしい人なの! 彼の事を悪く言う位なら二人とも絶交よ!!」
フェルディを非難するリナにティアは激怒し去っていく。
ティアとリナ達の関係は完全に壊れてしまった。
リナはティアと共に立ち去るソーニャが蔑んだ様な苦笑を浮かべたのを見て全てを悟る。
「……あの女だ……アイツが来てからティアはおかしくなった。何かきっと理由が有る筈だ……」
去っていくティアの後をまるで、スキップでもするかのように嬉しそうに後を追うソーニャを睨みつけ、リナは呟くのであった……。
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追)一部見直しました!




