337)ブラン辺境伯領にて②
ブラン辺境伯領の上空に突如現れた巨大スクリーン。
そこに映し出された映像で、挙兵した自軍が壊滅していく様を領主館で見ていた領主ストフスは、背後から突然、凛とした声が響き驚く。
領主ストフスの前に現れたのは女性型アバター姿のAIオニルだった。
「な、何奴!? い、いつから其処に居た!?」
「たった今です。マスターの命で、此処に転移して来ました。ブラン辺境伯領主ストフス……国家転覆を目論んだ謀反の大罪で、貴方には皇都カナートに出頭して貰います」
突如、現れたオニルに驚き叫ぶ領主ストフスに、AIのオニルは感情を込めず淡々と言い放つ。
対する領主ストフスは、一人で現れた女性の姿をしたオニルに気を大きくして叫ぶ。
「出頭しろだと? ふざけるな! 皇都カナートに居るエリザベートに言っておけ! 何度でも兵を送り、皇位から引き擦り降ろしてやるとな!」
「それは無理でしょう? 貴方も、上空に映る映像で見た筈です。貴方が派兵した3万の兵は……呆気なく蹴散らされ、這う這うの体で逃げ帰っている様を。もう二度と、彼等は皇都カナートに向け進軍する気は起こらないでしょう」
「き、貴様! 女の分際で、この俺に意見する気か!」
威勢よく叫んだ領主ストフスだったが、オニルは冷やかに答える。そんなオニルの態度に、領主ストフスは激高して叫ぶ。
「……貴方こそ、身の程を弁えるべきです。貴方は謀反の大罪者として、神妙に皇都カナートへ出頭しなさい」
「誰が、俄かで皇位に就いたエリザベートなぞに頭を垂れるか! それより、お前の首を送ってやるわ! おい、その女を斬り捨てよ!」
小馬鹿にしたオニルの言葉に、我慢ならなくなった領主ストフスは、横に居た配下の者にオニルを斬る様に命ずる。
指示を受けた配下の者は、剣を抜き女性の姿をしたAIオニルに向け、斬り掛かる。しかし……。
“ガギン!!”
「な、何だ!? こ、この手応えは!?」
AIオニルに向け斬り掛かった配下の者だったが……人体を斬る感覚ではなく、石か鉄の塊を斬り付けた様な感覚に、驚き戸惑う。
しかも、オニルに斬り掛かった際、体の途中までは霞を斬った様に素通りし、その後に金属質の何かに刃が当たった様だった。
その場に居た領主ストフスと配下の者は知らなかったが、女性の姿をしたオニルは……丸っぽいタツノオトシゴの様な量産型戦闘用ドローンの表面を、映像で投影していた為に、刃は通らなかった次第だ。
「……警告を無視した挙句……抵抗の意志を確認。これより、ブラン辺境伯領の兵力を無力化し、その上で領主ストフスを強制連行します」
驚き戸惑う領主ストフス達を余所に、AIオニルは何処までも冷たい声で言い放った後……。
“ビュン!”
AIオニルの体から、何かが焼ける様な音と共に細い光が放たれ、配下の者が持つ剣を撃ち抜く。
AIオニルが操る量産型戦闘用ドローンが放った、レーザーによる攻撃だった。レーザーが命中した配下の剣は、高熱で中程から溶かされてしまう。
「うわ!?」
溶かされた剣が高熱だった為か、配下の者は短くなった剣を放り投げる。
「……無駄な事は止めて下さい。私の体は操っている人形の様なモノです。私自身の本体は、ここより遥か遠い所に居ります。従って、人形の私を幾ら攻撃して破壊しても、即座に違う人形を送り出すだけです。続きまして、ブラン辺境伯領兵力の無力化の為に威嚇射撃を行います」
感情を込めずAIオニルが呟いた後、領主館の外が途端に明るくなり……。
“ドドドン!!”
地響きと共に爆発音が響いた。驚いた領主ストフスと配下の者が、窓に駆け寄り様子を見ると、ブラン辺境伯領領主館を守る城壁が何か所も爆破され、豪炎が上がっていた。
「な、何が起った!?」
「ああ……城壁が……」
「皇都カナートに設置した砲台からの威嚇射撃です。マスターの指示で、都市部を砲撃せず無人の建造物を破壊する様に予め設定されています。今回の場合、外縁の城壁を8か所砲撃させて頂きました。これはあくまで威嚇……無力化の要はこの者達です」
“ヴン!”
AIオニルが呟いた後……低い音と共に光の円が生じ、そこより白き龍リベリオンが姿を現す。
「!? ま、まさか!? そ、その龍は、空に映し出された……」
「キャアアア!!」「うあわあああ!!」
突然現れたリベリオンを見て領主ストフスは驚愕する中……領主館の外で悲鳴が響き渡る。
領主ストフス達が改めて、窓から外を見ると……領主館上空に巨大スクリーンが消え、代わりに白き龍リベリオンが埋め尽くされていた。
そして、その中より1体のリベリオンが地上に舞い降り、武器を構える兵達を襲って次々と無力化している様子が見られた。
領主館の外では、上空一杯に映る無数のリベリオンと、地上で次々と無力化される兵達を見て、街の者達が悲鳴を上げ逃げ回っていたのだ。
その様子を見ていた領主ストフスと配下の者は、言葉を失い固まっていた。
「「…………」」
「領主ストフス……。貴方が私の指示に従っていれば、この様な事態にはなりませんでした。極めて残念です……。リベリオン、この男を確保しなさい」
驚き固まる領主ストフスに、AIのオニルは淡々と語った後……傍らに居たリベリオンに指示した。
「アギャ!」
“ガシィ!”
指示を受けたリベリオンは一声鳴いた後、素早く動きストフスを掴んで持ち上げる。
「は、離せ!!」
リベリオンに掴まれたストフスは叫んで身を捩り離れようとするが、強力なリベリオンの力で全く動けなかった。
「ひぃぃぃ!」
領主ストフスが白き龍リベリオンに持上げられた様を見ていた配下の者は、我慢の限界だったのか、恐怖で叫んで逃げ出した。
「お、おい!? 逃げるな! お、俺を助けろ!」
逃げ出した配下の者に、領主ストフスは叫ぶが無駄だった。そんな彼にオニルは見下しながら声を掛ける。
「……貴方を皇都カナートに連行します。リベリオン、その男が死なない程度で、快適な空の旅を楽しませて下さい」
「アギャ!」
オニルに指示されたリベリオンは、領主ストフスを掴んだまま、屋根を突き破って……恐ろしい速度で飛び去る。
「うわああああああ!!」
領主ストフスを掴んだリベリオンは、高速で空を飛んだ。対するストフスは生まれて初めての“飛ぶ”体験に恐怖して絶叫する。
ストフスが絶叫するのも無理はない。この世界で飛ぶ経験をする者など誰も居ない事だ。
下を見れば山や川が小さく見え、自分が空高く飛んでいる事が嫌でも理解させられた。
体をワシ掴みされ、地に足付かず……体には強力な加速度が掛かっている。
ストフスは知らなかったが、リベリオンは彼が死なない程度の速度で“ゆっくり”飛んでいた。
それでも、彼の体に掛かる強力な加速度と、叩き付けられる風の圧力に体と意識がバラバラになりそうだった。
「お、降ろせ! 降ろしてくれ~!! ああああぁぁ!!」
領主ストフスは涙ながらに、リベリオンに懇願するが当然聞かず飛び続ける。
こうしてストフスは世界初の危険な宙づり飛行体験を4時間にわたってさせられたのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は5/1(日)投稿予定です、宜しくお願いします!