335)平原での戦い②
クーデターの為、皇都カナートへ進軍していたブラン辺境伯領の大部隊。その3万の大軍は度重なる異常事態に動けずに居た。
皇都カナートは眼前と、意気揚々と進んだ……この平原で、降り注いだ光の槍によって進路を次々爆破炎上させられ、戸惑う中に映し出された巨大な黒騎士の映像。
映像が言い放った警告の通り、姿を見せた小さな龍は……たった一体にも関わらず、巨大な侵攻用魔獣であるロックリノ数百体を、一分も掛けず恐るべき光を放って消滅して見せた。
これらの事が突然に起きたのだ。何一つ理解出来ない状況に、3万の兵達は既に戦意を喪失していた。
何故なら、降り注ぐ光の槍も、白き龍が放つ光の矢も……剣と魔法でしか戦う術が無いブラン辺境伯領の兵達は、どうする事も出来ないからだ。
なお、彼等は知る由も無かったが……平原を貫き爆破させた光の槍は、皇都カナートに設置された自動生産プラントの砲台からの高出力レーザー砲の攻撃だった。
レナンがその気に為れば、迫り来るブラン辺境伯領の兵達に直接、レーザー砲で攻撃し殲滅する事も、実に簡単だったが……後の皇女エリザベートの統治に支障が出る、と言う理由で威嚇射撃だけに止めた。
続々と襲い来る異常事態に固まり戦意喪失する、ブラン辺境伯領の大軍だったが……リベリオンは彼等を見逃さなかった。
“ギュン!!”
宙に浮いていたリベリオンは、急降下し部隊前衛に接敵する。前衛は馬に乗った重装騎兵だ。
「ま、魔獣如きが!!」
突然舞い降りた白き龍リベリオンに、大いに戸惑いながらも、馬に乗った重装騎兵は叫びながら大剣を振り被り、攻撃を仕掛ける。
振り下ろされる大剣……。対するリベリオンは片手で受け止る。
「受け止めるか!? だが、敵魔獣は一体! 取囲んで押し潰せ!!」
人の様に剣を掴んだリベリオンに驚きながらも、重装騎兵が大声を上げると、周りに居た別な重装騎兵が取り囲んで攻撃した。
“ギギン!”
避ける事も叶わず、振り下ろされた大剣は甲高い音を立て、リベリオンに斬撃を喰らわす。
「!? き、効いていないだと!?」
重装騎兵の誰もがリベリオンを仕留めたと確信したが、攻撃を受けた白き龍は全くダメージを受けていない。
「アギャ!」
そのリベリオンが小さく鳴いた瞬間、その身体から暴風が発生し取囲んでいた重装騎兵を吹き飛ばした。
それは高度な知能を持つリベリオンが、駆使した魔法による攻撃だ。
風魔法で吹き飛ばされて倒れた重装騎兵を無視して、リベリオンは別の兵に攻撃を仕掛ける。
剣を構えた兵達の間合いに入ったリベリオンは、自身の爪を白く光らせ、バターの様に兵達の持つ武器や盾を斬り裂く。
“キキン!!”
その動きは風の様に素早く、誰も捉える事が出来ない。稀に攻撃が当たってもリベリオンには全く通じなかった。
再度馬に乗った重装騎兵がリベリオンを取囲み、周りを固めて攻撃しようとしたが、リベリオンの魔法によって蹴散らされた。
「アギャアアア!!」
次いで白き龍リベリオンが大声で鳴くと……。
「!? ヒヒヒィィン!?」
リベリオンの鳴き声を聞いた途端、重装騎兵や右翼左翼を固めていた軽装騎兵が乗る馬が酷く混乱し制御不能となる。
「ど、どうした!?」
「馬が、い、いきなり!」
突然、暴れた馬に、乗っている騎兵達は驚愕しながら落ち着かそうとするが……興奮した馬は、乗っている騎兵を次々と振り落とし、四方八方へ逃げ出した。
大きな馬が一斉に制御不能に暴れ出し、周りに居た兵達を薙ぎ倒した所為で、更に3万の軍は掻き乱され大混乱に至る。
「ぎゃああ!」
「な、何が起っている!?」
「と、とにかく馬を! うああ!」
万を超す重装騎兵や軽装騎兵が乗る馬が一斉に、気が狂った様に暴れ逃げ出すのだ。
生物としての本能だろうか、絶対的な脅威である白き龍リベリオンから命懸けで逃げようとしていた。
狂乱した馬は、兵達を蹴り飛ばしたり薙ぎ倒しながら、リベリオンから一刻も早く遠ざかろうと走り出す。3万の大軍はそれだけで総崩れになった。
混乱したブラン辺境伯領の大部隊を前に、リベリオンの進撃は止らない。
「アギャ!」
リベリオンは混沌に突き落とされた3万の大軍に向け、土系魔法を放つ。
放たれた土魔法は、混乱する兵達の大地を突き上げ、纏めて吹き飛ばした。
「うぎゃああ!」
「ひぃぃぃ!」
仲間が次々に吹き飛ばされる状況に、兵達は叫びながら逃げ始める。
逃げ始めた兵達に、白き龍リベリオンはすかさず追撃する。
両手の爪で兵達の武具を破壊し、魔法で纏めて薙ぎ倒すリベリオンに……ブラン辺境伯領の兵達は何も対応出来ず、一方的に倒されるだけだった。
そんな中……追い打ちを掛ける様に、悪夢がブラン辺境伯領の兵達を襲う。
“ヴヴヴヴン!”
低い音と共に、平原上空に光の円が10程現れ、そこより白き龍リベリオンが姿を見せる。
それだけでも恐るべき脅威だったが、更に事態は悪化した。
“ヴオオオン!!”
大きな音と共に、白き龍リベリオンが大量に現れ、平原の空を埋め尽くした。
一体どれ位の数が居るのか数えるのも馬鹿らしい位だ。上空に現れた無数のリベリオンを見たブラン辺境伯領の兵達は……。
「て、撤退しろ! 戦うだけ無駄だ!!」
「うわああああ!!」
「馬鹿らしい! 逃げるぞ!!」
大声を上げながら一斉に散り散りになって逃げだした。たった一体のリベリオンにすら3万の大軍は蹴散らされたのだ。
それが、空を埋め尽くす程の白き龍リベリオンが現れたのだ。何をどうやっても勝てない事は誰の目にも明らかだった。
我先にと逃げ出すブラン辺境伯領の兵達。もはや戦意も統率も無く、一秒でも早く逃げ出そうと必死だった。
「お、おい!? 敵前逃亡は重罪だぞ!? に、逃げるな!!」
逃げ出した兵達に向かい、大隊長は叫んで制止するが誰一人聞こうとしない。
逃げ出すブラン辺境伯領の兵達に、リベリオンは容赦しない。最初の一体と、上空に現れた無数のリベリオンの内、10体程が必死に逃げる3万の大軍に向かい追撃した。
「お、お前達! 立ち向かえ、逃げるな! 逃げ……!?」
戦場を放棄して逃げる兵達に向かい、大隊長は大声を張り上げていたが……自分の眼前にリベリオンの一体が舞い降りる。
「お、おのれぇ! 魔獣風情が! 我が槍で目にもの見せてくれる!」
大隊長は腕に自信が有る様で、舞い降りたリベリオンに向かい叫びながら槍を突き刺す。
突き出された槍は鋭く、リベリオンの顔面をまともに命中した。しかし……。
槍は急所である筈の顔面に勢いよく突かれたが、リベリオンは何の傷も負わず平気そうだ。
「そ、そんな!?」
大隊長は渾身の一撃が、全くの不発に終わった事に驚愕して叫ぶ。対するリベリオンは槍の刃先を掴み……。
“バキン!”
掴んだ槍の刃を、リベリオンは紙細工の様に簡単に握り潰した。その様子を見た大隊長は……。
「うわあああ! だ、駄目だぁ!」
自分の攻撃が全くリベリオンに及ばない事に、大隊長は激しく混乱し……情けない悲鳴を上げて逃げ出した。
指揮をする大隊長が逃げ出した事で、ブラン辺境伯領の兵達は一人残らず戦意を喪失する。
こうして……ブラン辺境伯領から挙兵された3万の大軍は、呆気なく崩壊したのだった。
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