334)平原での戦い①
皇女エリザベートが皇位を継いだ事に、反旗を翻したブラン辺境伯領の領主ストフスは、皇都カナート侵攻の為に挙兵した。
ブラン辺境伯領から進軍してきた3万の大軍。それを指揮する大隊長が檄を飛ばす。
「急げ、間もなく皇都カナートだ! ユリオネス皇帝を亡き者とし、皇位を奪い取った逆賊エリザベートを討ち取るぞ!!」
挙兵された3万の兵は、前衛を馬に乗った重装騎兵が固め、その後方に巨大なサイ型の魔獣ロックリノが続く。
ロックリノは数百体は居て、その巨体の背には遠距離攻撃担当の魔法士や弓兵が乗る。
右翼左翼には機動力に優れた軽装騎兵が固め、後衛には歩兵や工兵が続き、総勢3万人規模の大部隊だった。
彼等が居るのは、開かれた平原だった。ここより皇都カナートまで、残り数十キロと言う地点まで進んで来ていた。
進軍速度は兵達の士気も高く、初戦と言う事も有り順調で、後は1日掛けて進めば到達するだろう。
進軍する大半の兵達は、このクーデターの目的を正しくは知らされていない。
ただ聞かされたのは、ユリオネス前皇帝が謀殺され、その首謀者がエリザベートと言う悪女であると言う事。
そして、悪女エリザベートがブラン辺境伯領を……攻め滅ぼそうとしていると聞かされた。
嘘に固められた大義を掲げられて、兵達はいきり立ち、士気高く進軍して来たのだ。
「急げ!! あの山を越えれば、皇都カナートは眼前! 皇国を守る為、逆賊を一人残らず殺すのだ!!」
大隊長の怒号を受け、3万の大軍は進む。丁度、平原を半分程過ぎた所だった。
“ギュガガ!!”
ブラン辺境伯領からの部隊は、進行方向の空に、眩い光が迸った直後、3万の大軍の前方で弧を描いた光の柱が立ち上った。
その次の瞬間……。
“ゴガガアアアン!!”
突如、光の柱が立ち上った前方平原が、轟音と共に大爆発した。爆発と共に発生した爆風により、進行していた大軍の前衛部隊が吹き飛ばされる。
弧を描いて降り立った光の柱は、皇都カナートの方角より飛来した様だ。
光の柱によって大爆発した前方平原は、幅広い豪炎が立ち上り高熱で、先に進む事が出来そうに無い。
「な、何が起こった!? ええぃ、立ち止まるな、迂回して進め!!」
突然生じた爆発によって兵達が大混乱する中、大隊長は大声で指示を出す。
指示を受けた兵達は、止む無く前方ヘ進むのを諦め、右から廻り込もうとしたが……。
“ガゴオオオォ!!”
ブラン辺境伯領からの部隊、右前方に……またも光の柱が立ち上り、平原が大爆発する。
前方に続いて右方が爆発し、広い範囲で豪炎が生じた。
「ば、馬鹿な!? み、右が駄目なら、左前方に進路を取れ!!」
幅広く豪炎が立ち上る右前方を見て……部隊を率いる大隊長は、怒号を張り上げ指示を下した。
大隊長の指示を受け、ブラン辺境伯領の兵達は大混乱しつつも、左方へ進行方向を変えようとした所で、今度は左前方に光の柱が突き刺さり、大地が爆発した。
“ガガガアアン!!”
左前方に突き刺さった光の柱で、爆発の後に続いて発生した幅広い豪炎。
もう、どの方向からも皇都カナートへ進むのは困難だ。
間髪入れずに、前方並び左右の進路が爆撃された事で、3万の大軍は完全に足を止める。
皇都カナートの方角から飛来した光の柱によって、平原は火の海と成り……もはや、この平原から皇都カナートへ進むのは絶望的だ。
「と、止まるな!! こ、後退して迂回しろ!! う、動かんか、馬鹿者共!!」
大隊長が大声で指示を飛ばすが、兵達は誰も動こうとしない。
兵達の進軍を阻む様に、皇都カナートの方角から飛来する降り立つ光の柱……。
明らかにブラン辺境伯領の兵達を狙って放たれているのは、誰もが分った。
そして、光の柱が、どのタイミングで、どこに放たれるか全く分らないのだ。
下手に動けば、降り立つ光の柱に焼かれ、ブラン辺境伯領の兵達は殲滅されるかも分らない。
そんな恐れから、兵達は全く動く事が出来ない。
大隊長の叫びが虚しく響く中、3万の大軍は唐突に進路を断たれて、途方に暮れ固まるしか無かった。
そこへ……。
“ヴオン!!”
ブラン辺境伯領の兵達の真正面に……黒騎士レナンの巨大な姿が映し出された。その全高は50m程もある。
突然現れた、凶悪な鎧を纏った黒騎士の出現に、ブラン辺境伯領の兵達は更に混乱し騒ぎ立てるが、映像のレナンは構わず一方的に宣言する。
“皇都カナートへ侵攻せんとする愚か者共へ告ぐ……。これ以上、進めばカナートから放たれる光の槍にて焼かれる事と成ろう。この光の槍はギナル皇国全土に届く。どこから皇都カナートに向けて進軍しても、全ては無駄と知れ。
今すぐ、武装解除して……この平原より撤退せよ。10秒以内に撤退しなければ……白き龍が、そなた等の牙を砕く事と成る……。10、9、8、7……“
「ふ、ふざけるな!! お、恐れる事は無い! ただの脅しだ!!」
巨大な黒騎士の映像が一方的に宣言する中、ブラン辺境伯領の兵を率いる大隊長は叫ぶ。
しかし、大隊長の叫びも空しく、誰一人として動こうとはしなかった。
いや……次々と起こる異常な出来事に兵達は動けなかったのだ。
3万の大軍が混乱の中、撤退も武装解除も出来ず……10秒のカウントダウンは終わってしまった。
“……1、0……時は過ぎた。結果、現段階で戦闘継続姿勢を確認……白き龍リベリオンを派兵する”
巨大な黒騎士が、機械的に冷たく言い放った後……唐突に黒騎士の映像は消える。そして……。
“ヴン!”
黒騎士の映像が消え去った後、空に光の円が音と共に現れた。その光の円より、白き龍リベリオンが姿を見せる。
現れたリベリオンは金属製のボディアーマーを装着しており、そのアーマーには、ロデリアでは無くギナル皇国の国章が刻まれていた。
「あ、あれが白き龍? 随分と小さいが……」
「しかも、一体だけか! 大した事は無さそうだ」
「者共!! 白き龍なぞ、こけおどしだ! 恐れる事無く進軍せよ!!」
姿を見せた高さ3m程の白き龍リベリオンを見て、兵達は安堵しながら口々に騒ぐ。
大隊長も兵達の様子とリベリオンを見て、立て直すチャンスとばかりに大声で叫んだ。
しかし、彼等は知らなかった。このリベリオンがどれ程の脅威で有るかを……。
安堵する兵達を余所に、現れたリベリオンは、その咢を開き……光を溜め始めた。
“キュドド!!”
白き龍リベリオンは甲高い音と共に、その咢から眩い光を放つ。
放たれた光は、沢山の光の矢となって、弧を描き……中衛に居るロックリノに突き刺さった。
次の瞬間……。
“ボボン!!”
破裂する様な音と共に、ロックリノが消滅し……その背に乗っていた兵達が落下する。一瞬にして50体ほどのロックリノが殲滅されたのだった。
「なな何が!? 何故、魔獣が!?」
「あの、白い龍の! こ、攻撃を受けたのか!」
突然の事で、慌てふためくブラン辺境伯領の兵達を余所に、リベリオンは止らず、そのまま続けて咢から光の矢を放った。
“キュドドドドド!!”
白き龍リベリオンより、続けて放たれた無数の光の矢は、残るロックリノを穿った。
黒騎士レナンの力を受け継いだ……リベリオンの破滅の光は絶対的で、一分も掛からず数百体居たロックリノは全滅した。
「「「「「…………」」」」」
ブラン辺境伯領の大軍は、この間全く動く事も出来ず、絶句するだけだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は4/20(水)投稿予定です、宜しくお願いします!