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332)ギナル皇国侵略戦-45(終えた初陣)

 「……次はそなた等の国へと参ろう。その時……そなた等が我が意に賛同頂く事を期待する……」



 所変わって、ギナル皇国玉座の間……。黒騎士レナンは傀儡皇帝ユリオネスの首を掲げた、宣言を終えた。



 亜人の国アメントスや他の国々同様に、レナンの宣言は……ギナル皇国の皇都でも拡大投影された巨大な黒騎士の姿が映し出されたのだ。



 ギナル皇国の皇都カナートに立て続けに起こっている大異変。



 その締め括りとも言える全長50mの巨大な黒騎士の映像に、皇都カナートの住民達は口をあんぐりと開けて、只々見上げるばかりだった。




 玉座の間に居る皇女エリザベート達も同様に、驚き黙って窓から見える映像を見ていたが……レナンが宣言を終えたと同時に、映し出されていた黒騎士の姿は消えた。



 レナンの宣言が何を意味するか分かった、ラザレ将軍は彼に向け叫ぶ。



 「ちょ、ちょっと待て、黒騎士! 今しがた、皇都に見えていた巨大な姿絵……! アレは他国にも見えていたのか!?」


 「……このギナルだけじゃ無い……亜人の国アメントス……ロデリア……主要な周辺諸国……全てに放映した」



 ラザレの問いに、レナンは静かに答えるが……。



 「馬鹿野郎!! 分ってるのか! そなたが言った事は……全世界に対する宣戦布告だぞ!!」


 「初めに言った筈……。俺はこの皇国でやった事を、他の国にもやると……。その為の挨拶だ……」


 「だからと言って! 敢えて他国に一斉に宣伝して、混乱に巻き込む必要が何処に有る!? しかも、前皇帝の首を晒すなど……おぞましい真似をして! これで、黒騎士! そなたは完全に世界中の敵に認定されたぞ!?」



 レナンの答えが納得出来なかったラザレは、彼に掴み掛かる勢いで迫る。そんな中……。



 「……なるほど。流石、黒ちゃん。全部、この皇国の為だね」



 ラザレとレナンの言い合いを聞いていたフワンが、目を瞑ってウンウン頷きながら、感心して言い切る。



 「え? どう言う事ですか……?」


 「分んないかな~、ネビちゃん。考えてもみなよ~、この皇国……今まで、どんだけ侵略行為を繰り返して来たと思う? 皇国の中に住んでるネビちゃん達は感じないかもだけど~、皇国って言ったら余所の国では最悪の軍事国家なんだよ? 

 今まで侵略とか破壊工作とか散々っ! 悪い事してきた。そんな悪い事してた国の皇帝が死んだって、他の国が知ったら……?」


 「ネ、ネビちゃんって……。で、でもフワンさんの言う通りね……。間者は何処の国でも使う。諸外国が間者を通じて、前皇帝ユリオネス陛下の死や、恐ろしい白い神が滅んだ事を知れば……混乱に乗じて報復戦になる! ヘタをすれば国境間際では、ドロ沼の内乱も有り得るわ……!」



 フワンに逆に問われた女性騎士ネビルは、彼女の言わんとしていた事に納得する。



 「それを黒ちゃんが、さっきの宣伝で皆、ゴチャゴチャにしてリセットしてくれたの~。あんな恐ろしいの見せられたら……他の国は対応に追われて……皇国へ報復なんて考える余裕無いよ~。そう言う事でしょ、黒ちゃん?」

 

 「……だからこその宣戦布告と言う訳ですね。レナン様……。この皇国の為、重ね重ね本当に有難う御座います……」


 「……別に皇国だけの為では無い。各国が混乱して貰った方が都合が良いだけだ……」



 フワンの話を聞いた皇女エリザベートが、レナンに深々と礼を言うと彼は偽装した低い声のままで答えた。



 「だ、だが……そなたは、世界中から恐れられる敵のままだぞ!? この皇国を救った英雄なのに!!」


 「別に構わない。元より、これは俺一人の戦い……。だから、気にする事は無い。それはさておき……オニル、首桶を」

 


 案じて叫ぶラザレに、レナンは偽装した低い声のままで答えた後、オニルに指示を出す。



 「はい、マスター」



 指示を受けたAIのオニルは、亜空間から金属製のカバーが付いた透明なガラス容器を転送する。

 

 そのガラス容器には、薄水色の液体が満たされていた。


 

 レナンはオニルからその容器を受け取ると……能力で容器を浮かしながら、フタを開け傀儡皇帝ユリオネスの首を入れる。



 ユリオネスの首を入れてフタをした後……その上で、レナンはガストンに声を掛けた。



 「……その首桶に入れられた首は……腐る事が無い。ガストン殿、前皇帝を打ち取った証として、持たれるが良いでしょう」


 「確かに、預かった。黒騎士殿、礼を言う」



 レナンに促されたガストンが礼を言いながら、ユリオネスの首を受け取る。



 ガストンに首桶を渡したレナンは、きびすを返して玉座の間中央に立つ。



 「……オニル……自動生産プラントを転移し、皇城の真上に滞空させ設置しろ。その上で、砲台を展開し常時リベリオンに護衛させろ」


 「はい、マスター」



 黒騎士レナンの指示を受けたAIオニルが答えると同時に……皇城の真上に、突然黒い闇が生まれた。


 そして、黒い闇から巨大な黒い卵状の物体が緩やかに降りてくる。



 “ズズズズ……!”



 その卵状の物体は、ロデリア王都にも設けられた自動生産プラントだった。


 エリワ湖の湖底に設置されていた一基を、此処ギナル皇国へとレナンが転移させたのだろう。



 全高100mにもなる巨大な自動生産プラントには、レナンが言う砲台なのか、10m程もある菱形の物体が4つ、プラントの周りに浮いていた。


 そして自動生産プラントを守るが如く、数十体のリベリオンが警戒しながら周りを飛んでいる。




 「あ、あれは!? 先程見たロデリアの建造物か!?」


 「何て……大きさ……!」



 現れた巨大な自動生産プラントを見て、ラザレやネビル達が叫ぶ。


 彼等は皆、レナンが見せた記録映像で自動生産プラントを見てはいたが、実物を見てその巨大さに驚いていた。



 自動生産プラントはゆっくりと降下し、屋根が消滅した皇城を被さるが如く設置され、そのままピタリと静止する。



 “カッ!!”



 空中に浮いたまま静止した、自動生産プラントの頂上部から眩い光が迸った。



 一瞬、太陽の様に輝いた光が落ち着いた頃……皇都全体を覆う光の障壁が展開されたのだった。




 「マスター、自動生産プラントの設置及び広範囲バリヤーの展開が完了しました。同時に、ジャミングと偽装映像を施しております」


 「……ああ、良くやったオニル」



 仕事を終えたAIのオニルに、レナンが労った。

 



 ギナル皇国でやるべき全ての事が終わったレナンは……エリザベート達に背を向け、上空に浮かぶ白き戦艦ラダ・マリーを見ながら呟く。



 「……もう、ロデリアがギナルに脅かさられる事は無い……。先ずは終わったぞ、マリアベル……」



 呟いたレナンの、その声は偽装されていない声だった。



 その後ろ姿を見ていたエリザベート達は、此処には居ない誰かに呟いた、レナンの呟きを聞いた。



 エリザベート達に背を向ける黒騎士レナンの姿は、凶悪な鎧を纏ってはいたが……。


 その恐ろしい兜の下のレナンは、泣いている様にエリザベートは感じられた。


 

 ゼペド達白き偽神に支配され、その偽神を盲信していた傀儡皇帝ユリオネスと異端審問官達によって、このギナル皇国は長らく……暗黒に包まれた。


 その暗い闇は、自国だけ無く諸外国にも及び……尽きる事無く侵略や破壊が引き起こされた。



 もっともギナル皇国からの侵略行為を受けたロデリアで……マリアベルと共にずっと戦い続けて来たレナンに取って、この悪夢が終わった事は……特別な想いを抱かせた。



 何より……共に喜び合える筈だったマリアベルは、此処に居ない。



 その悲しい事実に、レナンが一人耐える中……。皇女エリザベートが、思わず駆け寄り……彼の手を取り声を掛ける。



 「……黒騎士レナン様……貴方は、これからも戦おうとするのでしょう。大切だった人の遺志を受け継いで……。

 ですが、どうか忘れないで下さい。貴方の戦いで、救われた者達が沢山、沢山、居る事を……!

 その者達は、絶対貴方の事を想い続けます。この私もその一人です。だから、悲しみに負けないで!

 あ、貴方は……決して一人では有りません。貴方が愛した人も、必ず……そう思っている筈です。どうか、その事を忘れないで下さい……!」



 凶悪な漆黒の鎧を纏った黒騎士レナンを、恐れる事無く……エリザベートは泣きながら彼の手を取り、力強く語り掛ける。


 気が付けば、エリザベートに続いて……女性騎士のネビルやフワンも続き、皆……涙を湛えてレナンを見守っていた。



 レナンは、エリザベートを始めとする彼女達の想いを受けて……思わず呟く。


 

 「……救った筈の者達に、励まされるとは……黒騎士としての、この初陣……。マリアベル、お前に笑われるだろうな……」



 俯いて、呟いた黒騎士レナン。そんな彼に……皇女エリザベートは泣き笑って、もう一度レナンの手を握り締め、ネビルやフワンも彼を囲んだ。



 こうしてマリアベルの遺志を継ぎ、この世界を守る為……黒騎士となったレナンの初陣は終わった。


 その戦いによって、黒騎士レナンは……絶望の闇に閉ざされていたギナル皇国を救いながらも、逆に全世界から恐怖の侵略者として畏れられる事となったのだった……。

いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は4/13(水)投稿予定です、宜しくお願いします!

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