331)ギナル皇国侵略戦-44(ロデリアの彼女達)
亜人の国アメントスで、巨大な黒騎士の映像が映し出されていた同時刻……。
ゼペド等白き偽神の襲撃により、壊滅したロデリア王国の王都でも、レナンの映像は映し出されていた。
その様子を、特級冒険者のクマリが……呆れながら呟く。
「……次から次へと……一体、何が起ってるのやら……」
クマリが、そう呟くのも無理が無い事だった。
クマリは、従妹のリースを亡くし嘆いて衰弱しているジョゼを、リナと共に木漏れ日亭に行っていたが……その間に王都の様子は激変した。
廃墟と化した王都の中心には、全く突然に……巨大な卵状の黒い建造物である自動生産プラントが設置され、王都全体を不思議な光のドームが覆う。
そして鎧を纏った白い龍が、復興工事の為に縦横無尽に飛び回っていたのだ。
自動生産プラントからは、大量の支援物資が生み出され……兵士達が困窮する住民達に配給している。
同時に自動生産プラントより、不可思議な材質の建築資材が吐き出され、それを用い白き龍達が手際よく破壊された王都を修復していた。
奇怪にして巨大な自動生産プラントの設置に、王都を覆う光の天蓋。そして王都復興の為、休む事無く働き続ける白い龍……。
そんな在り得ない状況が、唐突に発生したのだ。
自動生産プラントも、白い龍達の鎧にも、ロデリア王国の国章が描かれている。
その状況より、アルフレド王子が事情を知っていると思い、クマリは彼を問い詰めたが……気弱なアルフレドにしては珍しく、頑として口を割らない。
その次に事情を知ってそうなソーニャは、マリアベルの死に囚われ……半壊した王城に有る自室に閉じ籠ったままだ。
残ったレニータ達白騎士隊も……事情を把握してそうだが、アルフレド王子同様に口が堅く、何も語らない。
そして……王都を守る為に戦った、レナンは今だ戻らない。だが、その事に関してもアルフレド王子やレニータ達も捜索しようとすらしない。
何の説明も無く、何も分らない状況の中……突如現れた、自動生産プラントと白い龍達による王都復興が進んでいたのだ。
そんな中……突然映し出された、巨大な黒騎士の映像。
その黒騎士が纏う漆黒の鎧は、死んだマリアベルの鎧と非常に良く似ていた。
その姿を見たクマリは、あの黒騎士こそが、この状況を生んだ存在だと確信する。
そして黒騎士の正体にも、何となく予想が付いた。
あの鎧を纏って、こんな状況を起こせるのは……居なくなった“彼”しか居ないと。
しかし、居なくなった“彼”には巨大な卵状の黒い自動生産プラントや、沢山の白き龍を使役する事など出来なかった。
そして何より……強烈な違和感を覚えるのは……映像が見せた黒騎士の姿だ。
目の前に映し出されている黒騎士は、ギナル皇国皇帝ユリオネスの首を掲げていた。
あの優しく穏やかな“彼”とは、思えない残忍な行為だ。そして語る声は“彼”の声では無く背丈や体格もまるで違う。
もし“彼”で無いならば……今、映し出されている“黒騎士”は一体、誰なのか……。
「……このままじゃ、納得出来ないね……。馬鹿弟子の為にも……何とか、確かめてやる……!」
クマリは、この場に居ないティアを想い……黒騎士の正体を確かめる事を心に決めたのだった。
◇ ◇ ◇
廃墟となったロデリア王都にて。クマリが黒騎士の正体を付き止めようと決意した、少し前……。
ソーニャは、王城内にある崩れた自室に引き篭もっていた。この自室は、今は亡きマリアベルと共に暮らして居た、大切な場所だ。
ゼペド等の急襲により、死んでしまったマリアベル。ソーニャに取ってマリアベルは世界の中心だった。
マリアベルの死と、共に過ごしたオリビア達の死によってソーニャは嘆き苦しむ中……義兄であるレナンとの別れが、更にソーニャに追い打ちを掛ける。
マリアベルと婚約したレナンを、表面上義兄として接していたソーニャだったが……本気でマリアベルを愛する彼の想いを知って、漸く家族として心を許した。
そんなレナンはマリアベルの遺志を継ぎ、黒騎士として戦う為……ソーニャ達の元から去ってしまった。
そんな辛すぎる別れが重なり、ソーニャは立ち直れなくなって……今だベットから起き上がる事が出来なかった。
ゼペド等の襲撃で王城は半壊したが……この自室は崩れてはいるが、何とか過ごせる事が出来た。
ソーニャに取っては、マリアベルと長らく過ごした、この自室以外で過ごせる自信が無かった。
そんな訳で、崩れた自室で引き篭もっていたが……窓の外から突然、偽装されたレナンの声が響いた。
ハッとして、よろめきながら窓に縋り付き、外の様子を見ると……。
巨大な黒騎士姿のレナンが映し出されていた。
“……我はこの度、白き偽神に従い……他国へ繰り返し侵略行為を行っていたギナル皇国、前皇帝ユリオネスを討ち果たした。この首が、その証だ……”
映し出された黒騎士レナンは、ギナル皇国皇帝ユリオネスの首を持ち……報復を終えた事を告げた。
生々しい首を掲げた事で、王都に居る住民達からは一斉に悲鳴が聞こえたが、ソーニャはレナンの姿と偽装された低い声を聞き……強い衝撃を受けた。
「……レナンは……一人で……戦ってる……。お姉様の、遺志を継いで……」
レナンの姿を見て、ソーニャは彼の決意が伝わり、独り呟く。
マリアベルを亡くし、嘆き苦しんだのはソーニャだけでは無い。レナンも泣き苦しんで……そして、黒騎士として戦う事を選んだ。
レナンは、孤独にして困難過ぎる戦いに挑む為……知識を得て、自らを寿命を削ってまで無理に鍛え上げ、戒めと呪いの鎧を纏い、黒騎士になった。
そんなレナンの……自分自身を顧みず、唯一人で困難な状況に立ち向かう姿は、正しくソーニャが愛したマリアベルそのものだった。
ふとみれば……崩壊した王都には、レナンが設置した巨大な自動生産プラントと、空を飛びまわる沢山の白い龍の姿が見えた。
いずれもレナンが、王都を守る為に用意したものだ。彼は、ロデリアの為に最善を尽くしている。マリアベルが愛した、この国を守る為に……。
レナンが黒騎士として戦う中……ソーニャは、今だ立ち上る事が出来ない。
今迄のソーニャにはマリアベルが傍に居て、愛しい姉を目標に歩んで行けば、それが間違い無かった。
マリアベルの為に生きる事。その為にソーニャは……何でもやって抜いて来たし、どんな困難な事でも立ち向かう事が出来た。
だが、今は……その目標であるマリアベルが居ない。共に彼女を愛したレナンも、ソーニャを危険に巻き込まない為に、一人で戦おうとしている。
一人になってしまったソーニャは、これからどうして良いか分らなくなった。
そんなソーニャは、いつも支えになってくれたマリアベルの事を思い出し……涙に暮れ呟く。
「……お姉様……私は……どうすれば……うぅ……!」
ソーニャが映し出されている黒騎士レナンの姿を、自室で見上げながら嘆き呟いた時……。
「アギャ!」
そんな鳴き声と共に、空から一体の白き龍が自室の外に舞い降りた。
舞い降りた龍はソーニャに近付き、窓から人懐っこい顔を突っ込んで……撫でてくれ、とばかり頭を垂れる。
「……貴方……もしかして……あの時の……」
その仕草より……ソーニャは、この龍が最初にレナンが呼び出して、自分に甘えて来た個体だと気が付く。
どうやら、この龍はソーニャの自室の傍に最初から居た様だ。
「……貴方は、私の傍に居てくれたのね……。有難う……」
ソーニャは頭を垂れた白い龍の頭を撫でながら、涙ながらに呟く。
「……私も……何が出来るか、分らないけど……頑張ってみるね……。レナンみたいに……」
白き龍を撫でながら、ソーニャは此処には居ないレナンを想い……再度立ち上る事を決意したのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は4/13(水)投稿予定です、宜しくお願いします!