328)ギナル皇国侵略戦-41(崩れ去るヒドラ)
巨大な異形となったヒドラだったが、レナンの”命令”を受け……石のように固まり動けなくなる。
驚愕するヒドラにレナンは……ヒドラ達異端審問官達の頭に埋め込まれた魔法力の増幅器が、白き偽神ゼペド達が仕掛けた……首輪にして命を奪う呪いで有る事を教える。
その事実を受け止められず錯乱するヒドラに、レナンは支配者として自死の命令を下し……その言葉通り、異端審問官長官ヒドラは自滅し始めたのだった。
「あぎいいいぃ!! 痛い、痛いぃぃ! うぎぃいい!」
異形化し、数多の死体を取り込んで巨大化したヒドラは、苦痛の為か絶叫しながら崩壊していく。
「「「「…………」」」」
大きな家程に巨大化したヒドラが……ジュクジュクと崩れていく様を見て、その場に居たエリザベート達は、余りに凄惨な状況に唯々絶句する。
そんな中、レナンは只の肉塊となっていくヒドラを憐れみながら呟く。
「……ゼペド達に取って、ここアステアの民は……本当に家畜程度の認識だったんだな……」
「はい、マスター。遥かな過去……アステア原住民が生み出された歴史的背景からすれば、リネトアに住むヴリト達がそう認識するのも当然かと」
「……本当に馬鹿らしい話だ。俺は……この星で、この世界で、素晴らしい者達と出会えたと言うのに……。その価値を知ろうともせず、下等動物として扱うなんて……」
機械であるオニルの感情の無い答えに、レナンは独り言のように呟く。
「……レナン様……」
どことなく悲し気に小さく呟いたレナンを案じ、エリザベートは声を掛ける。
「皇女殿下……これでお分かりになったと思います……。俺やゼペド等は神なんかじゃ無い。ただ、種族が違うと言うだけの事……。
本当の神なら、きっと……大事な者を奪われたり、奪ったりはしない……。だから、貴女も皇国の人々も俺なんかを崇める必要はどこにも無いんだ」
「……はい……」
エリザベートに声を掛けられたレナンは、寂しそうな笑みを浮かべ答える。
ロデリアに居た間者からの情報を把握しているエリザベートは……白き勇者だったレナンが、マリアベルと同じ黒い鎧を纏っている……その意味を察していた。
だからこそ……“大事な者を奪われたりしない”と悲しく笑うレナンの言葉に、エリザベートはただ頷く位しか出来なかった。
そんな中……ヒドラの苦痛に満ちた絶叫が響く。
「あぎゃぁぁ!! こ、殺してぇ! 殺して下さいぃぃ!」
死にゆくヒドラは……大木の様だった下半身が液状化し、上半身も両腕も崩れ去って、辛うじて胸部から上が残っている。
崩壊する体が、酷く痛むのか……脂汗を流し、これ以上ない程の苦悶の顔を浮かべている。
「……っ! く、黒騎士様……。どうか、彼に慈悲を……」
そんなヒドラの様子を見た、女性騎士ネビルがレナンに慈悲を求める。
これ以上、ヒドラが苦しむ姿を見ていられなかったのだろう。
ネビルに声を掛けられたレナンは、苦しみもがくヒドラに向け語る。
「……ヒドラ……。お前は異端審問官長官として、数多くの者を拷問に掛け、命を奪ってきた筈だ。その中には、命乞いをした者も……今のお前の様に“殺して”と願う者も、沢山居ただろう。そんな時……お前は、一体どうしていた?」
「ばやぐぅぅ!! ご、ごろじでぇぇぇ!!」
問うたレナンに、苦しむヒドラは会話が成立せず、ただ叫ぶだけだった。
「……黒騎士……頼む……」
「甘いな、お前達は……。ならば仕方ない」
苦しみ絶叫するヒドラに、ラザレ将軍も慈悲を求める。
妹の親友をヒドラ達に殺されたラザレとしては、想う所が有る筈だが……それ以上に苦しむヒドラを哀れに感じたのだろう。
ラザレ達の想いを受けたレナンは、唐突に傍らに居たオニルに問う。
「……オニル、玉座の間より上層階に人は居ないか? 居たら全員転移させて避難させろ」
「はい、マスター。……確認しました、上層階に人間は存在していません」
レナンがAIのオニルに指示すると、オニルは直ぐに応える。オニルの回答を聞いたレナンは頷いた後……右手をスッと上に挙げた。
“ブワッ!”
その手の動きに合わせて……崩壊する異形のヒドラは宙に浮き、玉座の間の天井に留まった。
元より巨大化していたヒドラの異形の体は……液状に崩れている為、玉座の間の天井一杯に広がっている。
レナンは上空に浮き上がったヒドラに向け、穏やか声で話し掛けた。
「……ヒドラ……もはや言葉は通じぬだろうが、罪を贖った後……来世では良き人生を」
そう呟いた後……高く挙げたレナンの、龍の様な右腕に宿るオド器官が……音を立てて眩く輝き出す。
“ギイイイイイイン!!”
レナンの右腕が光り出したと同時に……再度、皇城が揺れ始める。
“ゴゴゴゴ!”
眩く光る異形の腕を上げるレナンと、再び起こり出した皇城の揺れに、大きな危険を感じたラザレが大声で叫んだ。
「ちょ、ちょっと待……」
しかし、ラザレの制止も空しく……レナンの異形の右腕より、無数の光の矢が放たれてしまう。
“キュキュン!!”
放たれた無数の光の矢は、長く尾を引いて……玉座の間の天井一面に広がったヒドラへ広範囲に突き刺さる。
そして次の瞬間……。
“ゴゴゴゴゴゴン!”
大きな爆発音が響いたと同時に、天井一杯に広がっていた異形のヒドラは消滅した。
そればかりか……ヒドラだけでなく、その上に存在していた……玉座の間の天井が一瞬の元、繰り抜かれた様に消滅してしまった。
いや、玉座の間だけでは無く……広大な面積を有していた皇城最上階の屋根が、完全に消え去ったのだ。
皇帝ユリオネスが居た玉座の間は、皇城中央に構える一際大きく巨大な塔の下に設けられている。
その塔の上が皇城最上階の屋根ごと、完全に消滅したのだ。もはや皇城は……丁度、島ほど大きな刀で水平に切り取られた様な平らな形状になってしまった。
天には青い空と、白く巨大な船ラダ・マリーが浮かぶ様が丸見えとなっている。
「「「「「…………」」」」」
突然、切り取った様に広大な天井が消滅してしまった皇城。その玉座の間で、エリザベートやガストン達は……又も絶句して固まるしか無かった。
彼女達が、こうして驚きの余り言葉を失い立ち竦むのは……本日、何度目の事か、もはや分らない。
エリザベート達が驚き固まる中、レナンは小さく呟く。
「……ゴミ掃除は終わってはいない……。皇都に残る異端審問官を全て、始末しなくてはな」
「はい、マスター。先程ご報告した通り、この皇都には23名の異端審問官が潜伏しています。彼等は、屋根が消滅した皇城の異常に気付き……一斉に此方へ向かっています。
また……彼等が使役していた魔獣が、皇城脇の隔離棟に多数存在してますが、如何なさいますか?」
「分った……。人間を襲う様に訓練されている魔獣は始末するしかない。魔獣が残る隔離棟はラダ・マリーのレーザー砲で消滅させろ。延焼を抑える為、限界までレーザー砲の出力を下げておけ。……異端審問官達は、ヴリトとして俺が始末する」
「はい。マスター。それでは皇城脇の隔離棟に向けレーザーを発射致します。……レーザー砲発射カウントダウン開始……。5、4、3、2、1……発射」
AIオニルの報告を聞いたレナンは……魔獣が多数居ると言う隔離棟へのレーザー砲撃を指示する。
レナンより指示を受けたオニルは、カウントダウンを開始して……終了と同時に、上空に浮かぶラダ・マリーからレーザーが発射された。
“ビュイン!!”
無数に設けられたレーザー砲の内、船首側面から発射された、一条の真白いレーザー光は……弧を描いて、皇城脇に設けられた大きな倉庫上の隔離棟を貫いた。
“キュドドン!!”
レーザー光に貫かれた隔離棟は、大音響と共に爆発し……内部に居た魔獣と共に消滅したのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は3/30(水)投稿予定です、宜しくお願いします!