327)ギナル皇国侵略戦-40(呪いの褒美)
異形化した異端審問官長官ヒドラ。ヒドラは玉座の間に転がっていた……他の異端審問官の死体や、ユリオネスの配下達の死体を取り込んで巨大化する。
巨大化したヒドラは、レナンに向け恐るべき連続攻撃を行い、最後に無数の触手から光線を放って彼を焼き払ったのだった。
放たれた光線は、壁の瓦礫が積み重なった玉座の間の床を貫く。
幾重にも放たれた光線により、玉座の間の床は高熱で溶かされ……大穴が開いた。
「そ、そんな……レナン様……!?」
異形と化したヒドラの恐るべき攻撃を受けた、レナン。
もはやレナンの命は断たれたかと、その場に居たエリザベートは不安に駆られ叫んだが……女性騎士ネビルとラザレ将軍が声を掛ける。
「いえ、大丈夫です……! 黒騎士様は、こんな事では倒れはしません!」
「ええ、ネビルの言う通りです、皇女殿下。皇都で黒騎士と戦った我々には分ります。……あの男には、どんな攻撃も無駄でしょう!」
「ククク……愚かなり、ラザレ将軍……。神の敵に縋るとは……! 降って湧いた紛い物は、確かに……それなりの存在でしたが! 唯人に頭を垂れるなどの愚行。
あの紛い物は断じて神では在りません! そして……私の信仰は示されました! 真の神より賜った我が力の前に、紛い物は滅び去った!!」
レナンの無事を確信しているネビルとラザレは、皇女に向け声を掛けるが……それを聞いていたヒドラが嘲り叫ぶ。
「真の神が去り、紛い物が滅した今……! このヒドラが新しき神として、このギナル……いや、この世界を信仰を持って導き……」「……間抜けだな、お前」
勝利を確信しきっているヒドラは、悦に入り叫んでいる最中……どこまでも冷たいレナンの声が、玉座の間に響く。
声が聞こえた方を、玉座の間に居たヒドラを含む全ての者達が、一斉に見ると……。
光線が貫き大穴が開いた、その場に……龍と人を掛け合わせた様な第二形態のレナンが何事も無かった様に、涼しげな顔を浮かべて宙に浮かんでいた。
玉座の間が大きく揺れる程の大打撃を繰り返し受けた後に、無数の触手から放たれた光線をまともに喰らったレナン。
にも関わらず……レナンは全く無傷で、何の痛痒も感じていない様だ。
「ば、馬鹿な!? 真の神より賜った我が力を前に……ま、全くの無傷だと!? 防御する鎧が無いのに、何故だ!?」
かすり傷一つ負っていないレナンを見て、ヒドラは驚愕する。
「……あの鎧は俺にとって、自らの力を縛り付けて封印する拘束具。だから……鎧を纏わない方が、俺は遥かに強くなる。その力を押さえ切れない程に……」
「な、何という奴だ……! そなたと言う男は……!」
驚き戸惑っているヒドラに、レナンは自らの鎧について答えてやった。
そのレナンの話を聞いたラザレは、その常識外な彼の力に、呆れながらも喜んだ顏で叫ぶ。
レナンは、そんなラザレを置いて……絶句して固まったままのヒドラに向け、下らなさそうに問う。
「死骸を掻き集めた挙句、神に成るなど散々吠えた結果が……この程度か?」
「黙りなさい!! 今一度叩き潰してやる!!」
呆れ果てて呟いたレナンに、ヒドラは怒り狂って異形の体より触手を振り上げた。
しかし、レナンは残念そうに吐き捨てる。
「ヒドラ……お前は余りに愚かで笑えない。だから、もう終わりにしよう……」
「何を訳の分からない事を! 喰ら……」「ヴリトとして命ずる、“動くな”」
吐き捨てたレナンに、激高したヒドラは触手を叩き付けようとしたが、対するレナンは小さく呟く。
すると……。
“ビタッ!!”
レナンの命令を受けたヒドラは、石の様に固まり動けなくなる。
「!? ど、どどどう言う事だ!? う、動けない!?」
自分が全く動けなくなったヒドラは、大いに驚愕し混乱する。そんなヒドラに、レナンは静かに話す。
「ヒドラ……お前は考えもしなかった様だな? ゼペド等白き偽神共が……お前に、一体何を組み込んだかを……。下種で小心者な奴らが、お前達に何の保険も掛けず力を与えたとでも? 篤き信仰の褒美……? お前達を家畜としか見ていないゼペド共が、褒美など与えるものか。
お前達がゼペド共より与えられたのは……褒美の力なんかじゃ無い。それは家畜を何時でも殺せる、残酷な呪いだよ」
レナンは、狼狽する哀れなヒドラに向かい、心底憐れんで呟くのだった。
「な、何を寝ぼけた事を! 我が信仰を愚弄するなぁ!!」
憐れんで答えたレナンに、異形化したヒドラは激高して叫ぶが……触手一本も動かす事が出来ない。
その事実が、レナンの言った言葉がを裏付けている様に感じられ、ヒドラ自身は堪らなく不安と恐怖に駆られる。
「ち、違う……。違う筈なんだ……! あの紛い物が言った事は、全て嘘だ……。そうに違いない……。な、なのに……どうして、どうして動けないんだぁ!!」
「……オニル」
不安と恐怖に駈られたヒドラは、子供の様に錯乱し叫んだ。そんなヒドラを見て、レナンはオニルに声を掛ける。
「はい、マスター。偉大なるマスター指示により……ヒドラ長官、愚かで哀れな家畜と成り下がった……貴方に真実を教えて差し上げましょう。
貴方達流で言う魔法力を強化する為に……貴方や他の異端審問官には、オウリハルク製の増幅器が大脳前頭葉部に埋め込まれています。
しかし……その埋め込まれた増幅器には、もっとも重要な機能が有りました。それは……増幅器を埋め込まれた対象者が、マスターやゼペドの様なヴリトに対し、反抗的な態度を取った時に……全ての行動を操作し、必要に応じて……いつでも殺せるコントロール機能です。
従って、ヒドラ長官……貴方にゼペド共白き偽神達に与えられたのは、褒美ではなく……貴方を支配する首輪にして、その首を絞め殺すしめ縄と言う訳です。
ですので、支配者であるマスターには……貴方は、何をどうやっても逆らえません。死ぬ前に真実が分って良かったですね」
「嘘だぁぁぁ!! 嘘に決まっているぅ!!」
レナンに指示されたAIのオニルは。淡々と真実をヒドラに伝えた。それを聞いた異端審問官長官ヒドラは、混乱の極みに陥り絶叫した。
しかし、オニルの伝えた事実を、裏付ける様に……ヒドラの異形化した巨大な体は、レナンの命令通り、全く動かす事が出来なかった。
「こ、こんなのは真実じゃない!! わ、私が正しいんだ! だ、だから動け! 動いてくれ!!」
オニルが伝えた事実を受け止められないオニルは、狼狽し大声で叫ぶが、指一本動かせない。
そんな、哀れなヒドラを見ながら、レナンは低い声で呟く。
「……ヒドラ……。お前は、異端審問官長官として、率先してゼペド共白き偽神を盲信し……ゼペド共白き偽神を崇め奉る様に、この皇国の者達を強制し……、その上で罪無き多くの者達を裁き、拷問し、殺した。
そんなお前は、ある意味……ユリオネスより醜悪だ。だからこそ、お前を生かす訳にいかない……。ヒドラ、お前に……ヴリトとして命ずる。“痛み苦しんで死ね”」
レナンが呟いた瞬間……
“バアアアァン!”
ヒドラの異形と化した巨大な体は、突然内部から爆発をする様に弾け……巨体が崩れ始める。
「グギャアアアアア!!」
異形化したヒドラは、絶叫を上げて……肉塊と成りながら崩れて逝くのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は3/27(日)投稿予定です、宜しくお願いします!