326)ギナル皇国侵略戦-39(ヒドラ変容)
異形化した異端審問官長官ヒドラによって、傀儡皇帝ユリオネスは首を刎ねられ絶命した。
「「「「…………」」」」
ヒドラによって、ユリオネスが殺されたのを見て……エリザベートやラザレ達は、異常な状況に言葉が出なかった。
そんな中、レナンはヒドラに向かい言い放つ。
「……ユリオネス……愚かな盗人らしい末路だったな。それで……ヒドラ、最後はお前だけだが……その腕で、無駄な戦いをする心算か? 何をどうやっても、お前は勝てんぞ」
「確かに……紛い物とは言え……貴方は、唯人とは違う様です。貴方を倒す為には……私は自らの信仰を更に試して、人を超える必要が有りますね」
言い放ったレナンに対し、ヒドラはそう言いながら、自分が殺した異端審問官達の遺体の傍に座り呟く。
「……お前達……良くぞ今まで働いてくれました……。これからも共に、私と一つとなって、神の敵を討ちましょう」
ヒドラは殺した三人の異端審問官に向け、労わる様に呟いた。その後……。
“ガバァ!!”
ヒドラの腹が大きく裂け、巨大な口の様な器官が……殺した異端審問官達を飲み込み始める。
“グズズゥ!”
瞬く間に、三人の異端審問官を飲み込んだヒドラ。三人分の遺体を喰らい尽くした事で、下半身が異常に膨らんでいたが……。
“ベキベキィ!!”
大きな音と共に、ヒドラの肉体は変容を始める。
「い、一体何が起っている!?」
「皆の者! 皇女殿下を御守りしろ!」
「「「はっ!」」」
大きく変容を始めたヒドラを見て、ガストンが驚き叫び……ラザレ将軍は、この場に居る近衛騎士達に指示を下す。
そんな中……守りを固めるラザレ達を見下しながら、ヒドラは呟く。
「……3人では……材料が足りませんね……。あの者達も使いましょうか……」
ヒドラがそう呟いた瞬間、彼の異常に膨らんだ下半身から……無数の触手が飛び出した。
そして、飛び出した触手は……玉座の間に転がっていた臣下達の死体や、別な異端審問官達の死体を掴み……ヒドラ本体の方へ引き摺り込む。
玉座の間に転がっていた死体を取り込んだヒドラは……更に変容を続ける。
“ズズズ……!”
数十人分の死体と、異端審問官達に埋め込まれていたオウリハルク製の増幅器と、彼等が手にしていたリング状の増幅器も全て取りこんだヒドラ……。
沢山の“材料”とエーテルを増幅する装置を取り込んだヒドラは変容を続けていたが……暫くしてそれが収まる。
変容と成長を続けた結果……ヒドラの身体は、もはや人の形を成さず、動物とも植物とも言えない形状となってしまった。
ヒドラの上半身は、胸から上は辛うじて彼の姿を保っていたが……その下半身部位が、不気味な触手を沢山生やした、不定形な赤い肉の塊となっている。
不気味な下半身は、泡立つ様に成長を続けていたが……幅広く円錐状に広がった時点で漸く成長が止まる。
その姿は大きな根を張った巨大な木の様だ。肉の色をした巨大な大木の上に……おまけにも見える小さなヒドラの上半身が付いている……その様な形態だった。
巨大化した、その大きさは玉座の間の天井に届く程に大きくなり……広がった不気味な下半身は、幅10m程にもなっている。
「な、何て事なの……!?」
「きゃ~凄く気持ち悪いわ~!」
巨大で不気味な形状に変容したヒドラを見て、ネビルは青い顏を浮かべて慄き、フワンは驚き叫ぶ。
「フヒヒ! ここまで姿を変えた以上……もはや、元には戻れないでしょうが……! 神の敵を纏めて滅ぼせば、何の問題も有りません!!」
慄き驚くネビル達を見下ろしながら、巨大な異形に変容したヒドラは喜喜として叫ぶ。そんなヒドラにレナンは、憐れみながら呟いた。
「……ヒドラ……哀れな男……。信じる対象を誤り、そこまで堕ちるとは……。いや、お前自身が、人としての心を捨てた事が一番の誤ちか……」
「何を!! 勝ち誇った様に! 貴方は見えないのか!? この神の使徒としての姿を! 今の私は、その気に為れば……皇都に住む者達を取り込み、更に巨大に変容する事が出来るのです!
おお、それが良い! 真の神が去ったのならば! この私自ら全てを取り込み……神となりましょう!!」
心底憐れんだレナンに、異形化したヒドラは激高しながらも最後は、自らが神に成る事を思い付き興奮して大声で宣言した。
「……民を喰らうと言うのですか、ヒドラ! そんな事はさせません!」
「皇女殿下! 奴を刺激しては危険です!」
興奮したヒドラの言葉を聞いた、皇女エリザベートは我慢ならなくなって叫ぶが、横に居たガストンに制止される。
「ククク……エリザベート!! お前も殺した後に、喰って取り込んであげますよ!」
叫んだエリザベートに向け、ヒドラは嬉しそうに答える。
巨大に異形化したヒドラは、エリザベート達に取って……恐ろしい脅威だ。
元より一騎当千と言われる異端審問官を全員取り込み……その上で臣下達の死体を全員吸収したヒドラは、どれ程の力を秘めているか想像も出来なかった。
そんなヒドラに身構えるエリザベート達を余所に、レナンはと言うと……。
「オニル……こいつ以外にオウリハルク製の増幅器を埋め込まれた奴は、何人、生き残ってるのか?」
「はい、マスター。それなりに高度な手術を必要とする為、それ程は多く居りません。センサーの検知情報によれば、その数は残り23名。何らかの任務を指示されているのか、全員この皇都に潜伏しています」
「そうか……ならば、哀れな連中を全員、早く楽にしてやろう……」
レナンは、眼前に居る異形化したヒドラを無視して、AIのオニルに声を掛けた。
オニルが生き残ってる異端審問官の数を報告すると、レナンはヒドラなど眼中に無い様に呟く。
そんなレナンの態度に、ヒドラは激高して叫んだ。
「ま、紛い物が!! こ、この私を! 神に迫らんとする、このヒドラを無視するなぁ!!」
激高したヒドラは、肥大化した下半身から巨大な触手を生やして、レナンを真横から殴り付ける。
“ドガァァァン!!”
太い幹の様な触手に、殴られたレナンは玉座の間の壁に大音響を立てて激突する。
「まだまだ! こんなモノじゃ有りません!! 粉々に砕いて差し上げます!」
“ガゴォ! ゴゴン! ガガン!”
異形化したヒドラは、叫びながら不気味な下半身から幾つも触手を生やして、連続して玉座の間の壁に埋まったレナンを叩き付ける。
「レ、レナンさま!?」
叩き付けられたレナンを見て、エリザベートが悲痛な声を上げた。
ヒドラはエリザベートの声に一切構わず、連続して強烈な打撃を続ける。
無数に生やした触手による連続攻撃により、玉座の間は大きく揺れ、壁は瓦礫と化した。
レナンは壁が崩れた瓦礫に埋まっている様だ。ヒドラは構わず瓦礫の上から触手を何度も繰り返し攻撃した。
完全に動きを止めたレナンに対し、ヒドラは無数に生やした触手を向けて叫ぶ。
「止めです!! 消し飛ぶが良い!!」
“キュドド!!”
そう叫んだヒドラは、レナンに向けた触手から一斉に光線を放ったのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は3/23(水)投稿予定です、宜しくお願いします!