324)ギナル皇国侵略戦-37(王たる王)
玉座の間にて……白き神としての姿を見せたレナンの指示を受け、異端審問官達はヒドラ長官を倒し、皇帝ユリオネスの臣下達を皆殺しにした。
そしてユリオネスを捕え、レナンの元へ引き摺り出す。
皇帝ユリオネスはレナンの怒りを受け……皇女エリザベートへ皇位を明け渡す事を誓わされるのだった。
エリザベートがユリオネスの前に立ったのを見たレナンは、オニルに小さな声で指示を下した。
「オニル……今から、この男の様子を映像に記録しろ」
「はい、マスター」
レナンはオニルに指示を出した後……足元に這い蹲るユリオネスに向かい、低い声で命令する。
「……ユリオネス……貴様、先程の誓い……。皇女殿下の前に跪いて宣言せよ。そして……皇位を掠め取った事も正直に晒せ。……もし、誓いを違えれば……足を潰す」
「ひぃぃぃ!! 分かりました! ち、誓います! 余は! 皇帝ユリオネスは! 前の白き偽神の威を借り! 皇位を横取りした盗人です! エ、エリザベート皇女殿下……! お、お前に……皇位を明け渡す事を誓う!! こ、これで良いですか!」
「黙れ! 皇位を掠め取った盗人風情が! 下種なゼペド共偽神に媚び従い……国を売り、民を虐げ、ロデリアを始めとする他国へ侵略した罪! 決して許されると思うな!!」
半ば自棄になって……涙ながらに誓い答えたユリオネスに、レナンは激怒して叫ぶ。
“ブワッ!”
「はぎゃあああ!」
その怒りで力が波動となって、ユリオネスを吹き飛ばしてしまった。
白き神を騙ったゼペド達に脅されたとしても……皇帝ユリオネスの犯した罪は余りに重い。
この浅ましい男は、自分の兄である前皇帝アドニアが殺され皇国を乗っ取られても、守るべき民を殺されても、一向に気にせず……寧ろ率先して、ゼペド等に付き従い悪行を重ねた。
皇帝ユリオネスが即位してから、自国や他国の民が……どれ程殺されたか、数えるのも馬鹿らしい程に、夥しい血が流されたのだ。
ロデリア王都を破壊されたレナンは、絶対にこの男を許す訳にいかなかった。
ロデリア崩壊はゼペド達が直接手を下したが……このユリオネスの指示による侵略行為は、長きに渡り尽きる事無く行われた。
その度に、真っ先に犠牲になるのは……何の罪も無い民達だ。
ロデリアを守る為、マリアベルと共に……戦い続けて来たレナンは、その事を良く理解していた。だからこそ怒りを抑え切れなかったのだ。
「……黒騎士様……貴方様は、やはり大切な何かを……」
「黒騎士様……」
怒るレナンを見て、思うところが有った皇女エリザベートは小さく呟き、横に居たネビルも彼を案じる。
「……ゼペド達に付き従い、国と民を売り他国侵略を繰り返した大罪、到底許されん……! 故に貴様自身が死を持って償って貰う。
だが……その前に貴様が薄汚い盗人だった事を世に伝えねばな。オニル……その事を皇国中に知らしめろ」
「はい、マスター」
皇帝ユリオネスに言い放った後、レナンがオニルに指示すると……。
玉座の間の窓から見える空に……皇帝ユリオネスが皇女エリザベートの前に跪く映像が、青空一杯に映し出された。
それは……先程、ユリオネスがエリザベートの前で跪き宣言した映像だった。
“余は! 皇帝ユリオネスは! 前の白き偽神の威を借り! 皇位を横取りした盗人です! エ、エリザベート皇女殿下……! お、お前に……皇位を明け渡す事を誓う!!”
皇帝ユリオネスが、涙を流しながら皇女エリザベートに向かい誓う映像……。
この映像が、皇都の大空一杯に映し出され……しかも終わる事なく繰り返される。
玉座の間の窓からも、その映像が映し出される様子はしっかりと見る事が出来た。
その映像を見たユリオネスは……。
「……う……嘘だ……。こ、こんなのは噓なんだ……! 皇帝は余じゃ! 余こそ皇帝……」
「見苦しい!!」
窓から見える映像を見たユリオネスは、大いに狼狽しワナワナと震えながら叫ぶが……レナンに一喝され黙る。
「……ユリオネス……元より、貴様は貴様自身が俺に言った様に、ゼペド共偽神に据えられた偽皇帝なのだろう? 真実は正しく伝えねばな……。
この映像は皇都カナートだけでは無く……ギナル皇国の主要な都市や村の上空に映し出されている。いずれ、皇国のみならず他国上空にも映し出す心算だ。この世界に生きる者全てが貴様を皇位を掠め取った盗人と知る事になる。
もはや、誰もが貴様を皇帝と認めない。ユリオネス、貴様はもう終わりだ……! そこで震えながら己が沙汰を待っていろ!!」
「ひぃいいい!! うぐっ! ううぅ! い、嫌じゃ~! 嫌じゃ~」
レナンは皇帝ユリオネスに大声で言い放つと、彼の怒りに怯えたユリオネスが悲鳴を上げながら蹲り、そこでみっともなく泣き続ける。
その様を見ていた皇女エリザベートは……今日一日で、余りの出来事が重ねて起きた為……混乱と戸惑いが有ったが……。
ただ、一つだけ分かった事がある。それは……長く闇に覆われていたギナル皇国が、救われたと言う事だ。
エリザベートは情けない姿を晒す“前”皇帝ユリオネスを余所に……自分自身も滂沱の涙を流す。
皇帝だった父を殺され、自分を助ける為、多くの者が死に……奪われた大切なものを取り戻す為、皇国の未来の為……自分を捨て戦い続けた。
その日々が終わろうとしている。そう思うと……エリザベートは涙が溢れて仕方が無かった。
ふと見ると、祖父役を務めたガストンも滂沱の涙を流し、ラザレ将軍や女性騎士ネビルも同様だ。
フワンですら、顔をくしゃくしゃにして喜び泣いていた。
そんな中、ギナル皇国を救ったレナンが……静かに皇女エリザベートの前に跪く。
「……皇女エリザベート殿下……。耐え難い苦境の中……民の為、ギナル皇国の為に、折れず戦い続けた……貴女様こそ、皇位を継ぐに相応しい。
グリアノス王家に列なるレナン ジメイラ グリアノスとして……貴女様が治める新しいギナル皇国を、全力で支援する事を誓います」
龍と人とを掛け合わせた様な、第二形態の姿のままで……レナンは皇女に向かい跪いて誓う。
絶対的な恐るべき力を持つ黒騎士レナンが、只人であるエリザベートに深く跪く姿は……何処か現実離れしていた。
跪くレナンを見ていたラザレやネビル、そしてガストンも……誰に指示された訳でなく、静かに彼に向け跪き頭を垂れる。
そればかりか、最初に攻撃しようとした近衛騎士達も、ラザレに従いレナンに跪く。
他国の王家に列なる者として、レナンが名乗ったからでは無い。レナンが、王たる王だと確信した為だった。
なお、生き残った異端審問官達も、レナンの背後で盲目的にずっと跪いている。
白き神と呼ばれた存在が、皇女とは言え人である自分に跪く……。
有り得ないレナンの姿に、皇女エリザベートは固まっていたが、涙で目を赤くしたフワンに肩を叩かれ……我を取り戻し。
慌てて、レナンの手を取って起こし答える。
「……レナン ジメイラ グリアノス……それが、貴方様の御名前なのですね。レ、レナン殿下……私は皇女として貴方様に深く感謝を……」
「あ、有り得ない!!」
エリザベートがレナンに向け話し掛けている最中の事だ。突然大声が玉座の間に響き渡るのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は3/16(水)投稿予定です、宜しくお願いします!