322)ギナル皇国侵略戦-35(揺らぐ盲信)
凶悪な漆黒の鎧を外して……白き神――つまりは、超絶的な力を持った種族ヴリトとしての、素顔を見せたレナン。
その姿を見ても、反抗的な異端審問官長官ヒドラに対し……レナンはヒドラが盲信するゼペド等が命乞いしながら、惨殺される映像を見せた。
“元”白き神だったゼペドやアニグ、メラフ等3人の絶命する映像は……玉座の間に大きく展開され、何度も何度も繰り返し映し出される。
「「「「「「…………」」」」」」
余りに凄惨なゼペド達の死に様が、繰り返し映される玉座の間……。その場に居た誰もが、言葉を失い固まっていた。
人の死に縁の無い、皇女エリザベートはレナンに言われた通り、映像から目を背け震えている。
騎士であるネビルや、冒険者のフワンでさえ、ゼペド達の死に様は直視できない程、凄惨な映像だった。
そんな映像が繰り返され、静まり返った中……レナンはヒドラに声を掛ける。
「……感想はどうだ、ヒドラ長官? お前が崇めていた御三方の死に様は? そうだ……こんな映像も有るんだ」
レナンは絶句したままのヒドラに問い掛けた後、思い出した様に呟き、指を鳴らす。
すると……オニルによって玉座の間に、新たな映像が次々と追加される。
その映像の一つは、ロデリアを襲った無数の黒き龍レギオン共が、光り輝くレナンの体より放たれた、無数の光の矢に滅ぼされる映像だった。
別な映像では……黒い異形の船、エゼケルが光の弾丸となったレナンに激突され、エリワ湖に沈没する映像が映し出された。
玉座の間で繰り返し映し出される、これらの映像は……レナンの指示により、オニルによって事前に編集されたものだった。
全てが真実だが、オニルが搭載されたエゼケルが沈没していく映像は、船体外部に排出されていた警戒用ドローンの記録映像を元に作成されている。
玉座の間一杯に展開された映像は……白き神を自称したゼペド達の死と、神の技として恐れられた異形の船エゼケルと黒き龍の滅亡を明確に示していた。
繰り返される映像を見れば……ヒドラ達が崇めていたゼペド等白き神が死に……彼等が行使していた奇跡の技も消滅した事は、誰が見ても明らかだった。
その映像を呆然と見ながら、異端審問官長官ヒドラは……言葉無く、ただ立ち尽くす。
「…………」
「……改めて問うぞ、ヒドラ。お前は、跪かないのか?」
固まったままのヒドラ長官に、レナンは再度声を掛ける。しかし、ヒドラは……。
「……お……お前は……違うんだ……。お前が、白き神で在っては……ダメなんだ……。こ、こんなモノが何だ……! そ、そう! こ、これは嘘偽りを映し出したもの!
そうだろう! 白き神は!! 圧倒的な力を持ち! 伝説の龍に近しい御姿に変化出来るのです! 黒騎士! お前は姿形を似せて、怪しげな術で惑わしているのだ!! そう、それに違いないんだ……! ヒャハハハハ!!」
ヒドラは……目の前のレナンの姿や、映し出された映像を信じようともせず……自分に言い聞かせる様に叫びながら、最後に異常な笑い声を上げた。
完全に常軌を逸した言動で、狂った様にしか見えない。
「……龍に近しい姿、か……。お前に付き合う義理は無いが、力を示す必要が有るんでな……」
狂い笑うヒドラ長官を憐れんだ目で見ながら、レナンは呟く。その途端……。
“カッ!!”
突然レナン自身が、太陽の様に光り輝いた。
「キャアア!」
「な、何だ!?」
レナンが放つ圧倒的な光に驚き、エリザベートやラザレ達は驚きの声を上げる。
“ギイイイイイン!!”
驚く者達を余所に、光となったレナン自身から大きな音が響く。
“ゴゴゴゴ!”
その上、レナン自身が光り出したと同時に、皇城が大きく揺れ始めた。
「ひゃあああ!」
城が大きく揺れた事で、皇帝ユリオネスが突然の出来事に叫び声を上げる。
次第に光が収まり、その中からレナンが姿を見せる。しかし、彼の体は異形へと替わっていた。
光が収まった後から見せた、その姿は……首から下が龍と人を掛け合わせた様な形状であり、真白いその異形の体には……両手両足の甲と、首元に宝石の様なオド器官が、眩く光り輝いている。
そして、彼の体には鋭利な棘が生え長い尾が伸びており、何よりレナンの額には……太く鋭い一本の角が生えていた。
異形の姿に変わったレナン……。その体からは光は収まったが、体に宿した5つのオド器官が眩く輝いている。
“ゴゴゴゴ……”
レナンが発する力の為か、今だ皇城は緩やかに揺れ続けていた。
そんな中、レナンの異形の姿を見た者達は……立て続けに見せられる異常事態に、動揺し戸惑うばかりだった。
皇帝ユリオネスと配下の者達は、皇城の揺れとレナンの異形に、恐れを成し……蹲って頭を抱えるか、震えあがってた。
皇女エリザベートやラザレ達は……揺れの為に膝を付き、レナンを驚愕の目で見ている。
異端審問官達は、レナンの事を白き神と認め切っているのか、今だ跪いたままだ。
対するヒドラ長官は……皇城の揺れで尻餅を付いて、口を大きく開け呆けた様に、唯レナンを見つめる。
“ゴゴゴゴ……”
レナンが第二形態に変化した事で、揺れ続けていた皇城は漸く揺れが収まり始める。
正に、超越した存在へと変身して見せたレナン。
その姿はヒドラ長官が自らが語った、圧倒的な力と、龍に近しい姿を持っていた。
しかし、そんなレナンの変化した姿を見たヒドラ長官は……それでも受け止められ無かった。
「……あ、あれは……嘘偽りです……。まやかしの存在なんです……。あの、御三方だけが……白き神なんだ……。だから……私は、認めない……! お、お前達! あの偽者を、神の敵を討ち滅ぼすのです!!」
「「「「「…………」」」」」
ヒドラ長官は、自らに暗示を掛ける様に呟いた後……配下の異端審問官に向け、大声で指示を出す。
しかし……異端審問官達は、誰一人として跪いたまま、動かなかった。
「き、貴様等!! 神の敵を前に! 何をしている!!」
「……正に、眼前の御方こそ……白き神」
「以前居られた神達より……遥かに、この御方の方が神としての格式が高い」
「だからこそ、前の御三方は、この新しき神の前に……恥を晒して滅んだ」
「ヒドラ長官、貴方の方こそ……白き神を見誤っている」
動かない異端審問官達に、ヒドラは激高するが……逆に彼等はヒドラの言葉を否定した。
「も、もういい!! 神の敵は私一人で討つ!!」
そう叫んだヒドラは……立ち上がり、レナンに向け攻撃を仕掛けようとしたが――。
“ガッ!”
配下だった異端審問官達が、ヒドラの体を押さえ付ける。
「お前達!? 気でも狂ったか!?」
「それは、お前だ……ヒドラ長官。白き神へ敵意を向けるなど在り得ぬ」
「……その背信行為、例え長官であろうが許せません」
驚愕して叫ぶヒドラに対し、押さえ付けた異端審問官達は、怒りに満ちた声で凄む。
彼等、異端審問官に取って……白き神は条件さえ満たせば、誰でも良かったのだろう。
そう言う意味では、ヒドラも同じだった。ゼペド達の様に高慢で力を振りかざし、ヒドラに取って都合が良ければ、代わりはゼペド達で無くとも問題は無かった。
それを理解しているレナンは……彼等狂信者達を崩壊に導く、悪魔の言葉を囁く。
「……お前達に命ず……ゼペド達、偽の神を崇め奉った背信者共を討て。そして……最後に、信仰の証として自ら死んで見せよ」
白き神としての姿を敢えて見せたレナン。その崩壊の言葉は抜群に効いた。
「ヒドラ長官! 御覚悟を!!」
「神の敵を討て!! そして自害して証を立てよ!!」
「お前達! あ、あれは白き神では無い!!」
「愚かなり、ヒドラ!! あの御方こそ、新しき神であると何故分らん!!」
レナンの言葉を受けた8人の異端審問官達は頷き合い、先ずは……正体を現した黒騎士レナンに従おうとしないヒドラ長官に、声を上げて一斉に襲い掛かった。
対するヒドラも叫びながら配下だった者達と、戦い合う。
そこからは地獄絵図だった。
白き神としての証を示して見せた黒騎士レナンの前で――。
異端審問官達とヒドラ長官は……血みどろの殺し合いを続け、一人また一人と倒れるのだった……。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は3/9(水)投稿予定です、宜しくお願いします!