320)ギナル皇国侵略戦-33(真実の姿)
異端審問官長官ヒドラを、思い切り嘲った黒騎士レナン。
その事に激高したヒドラは、配下の異端審問官と共に、レナンに向けて攻撃する。
ヒドラ達が放ったのは、単純なエーテル波だが……大脳に埋め込まれた増幅器によって高められた魔法力で、一人の異端審問官が放つエーテル波の破壊力は正に一騎当千と言えた。
放たれたエーテル波は、9本の眩い光の矢となり、黒騎士レナンに命中し……爆発を起こす。
“ガガガン!!”
爆発音と共に生じた火球に、黒騎士レナンや皇女達は包まれた。
「ひ、ひいい!!」
玉座の間で生じた爆発に、皇帝ユリオネスは怯えて叫んだ。
「はぁ、はぁ! こ、皇女ごと……殺してしまいましたが、止むを得ません。神の、敵は全て滅ぼせねば……!」
ヒドラは、そんな皇帝を構う事無く……火球に包まれたレナンを見ながら、肩で粗く息をしながら呟く。
一人で大軍を圧倒出来る異端審問官の魔法力……。その絶大な力が9人分と為れば、この皇城すら貫けるとヒドラは考えていた。
従って、如何に黒騎士レナンが強くとも……神が与えた、この力ならば微塵に撃ち滅ぼせると、ヒドラは確認していたが……。
“キュン!!”
甲高い音と共に、みるみる火球は集束し……その中から、全く無事な黒騎士レナンが姿を見せる。
レナンは右手の平を前に向けており、火球は……その右手の平の前にどんどんと集束され……やがて、小さなビー玉位の大きさとなった。
ビー玉程の大きさになった火球をレナンは、そのまま右手で握り潰す。
“ボシュウウ!!”
そんな音と共に、集束された火球は握り潰され……エーテル光となってレナンの鎧に宿る半透明な宝石に吸収された。
「……雑魚過ぎる……。お前達の信仰とやらは、その程度か?」
一人の力が、一騎当千とヒドラ長官が豪語した、異端審問官9人分の攻撃を軽々握り潰した黒騎士レナンは、嘲り呟くのだった。
「も、もう一度です!! 今度こそ!!」
嘲ったレナンの言葉を受けたヒドラは、配下の異端審問官達に向け叫ぶ。
長官のヒドラより指示を受けた異端審問官達は、再度レナンに向け攻撃を放った。
ヒドラを含めて9人分のエーテル波は、先程の攻撃と寸分変わらない凶悪な破壊力を持って、黒騎士レナンに迫る。
“キュド!!”
放たれたエーテル波は、レナンに命中し眩い火球を形成したが……あっと言う間に集束され、又も黒騎士レナンの眼前で光球となって留まっている。
光球となり集束されたエーテル波は、当然の如く……黒騎士レナンが纏う漆黒の鎧に宿る半透明な宝石に吸収された。
「……ば、馬鹿な……!? 白き神より賜りし力が……!」
「お前に教えてやろうか? その御大層な白き偽神より、賜った力が通らない理由……。それは、この俺が……ゼペド共自称白き偽神より、強いからだろう……?」
「お、おのれぇぇ!! お、お前達!! 神の敵を砕くまで、攻撃の手を止めるな!!」
ヒドラは、自分が盲信する白き神を、愚弄したレナンの言葉に激高した。
怒り狂い、冷静さを欠いたヒドラ長官は……懲りずに、配下の者達に指示を下して、共に攻撃を続ける。
白き神を蔑み馬鹿にする黒騎士の言葉。その言葉に、異端審問官長官のヒドラは、異常な程、過敏に反応する。
それには、絶対に認めたくない……とある、恐ろしい不安からだった。
ヒドラは、この玉座の間に黒騎士が来るまでに、彼の者の行動は全て、報告を受けて把握していた。
敵国ロデリアから現れた……この黒騎士の力は、確かに異常過ぎる。
皇国軍の大軍を殺す事無く蹴散らし、かと言えば異端審問官を超常の力で一撃の元に殺す。
振るう力は、簡単に城壁や城壁塔を破壊し……兵舎を指先一つで軒並み切断して見せた。
しかも、この黒騎士は巨大な白き船を操り……白い龍を配下に従える。
その力と技は……正しく、白き神そのものだ。無論、その事はヒドラ自身も……感じて無い訳では無かった。
だが……異端審問官長官として、断じて認める訳にいかなかった。ロデリアから来訪した……白き神を超える存在を。
認めてしまえば……今まで白き神に盲信し、全てを尽くして来た自分自身が、根底から壊れてしまう、その様な漠然とした恐れが……ヒドラの中に在ったのだ。
だからこそ……完膚無くまで黒騎士レナンを滅ぼす必要が有った。
そんな恐れから、何の策も工夫も無く……何度も放たれる強烈なエーテル波。
一騎当千の力を持つ異端審問官9人分の攻撃は、一撃でも受ければ一個中隊の歩兵でも殲滅出来るだろう。
皇城の大広間で放つ様な攻撃では無かったが、冷静さを欠いていたヒドラは……神の敵、黒騎士レナンを滅ぼせるなら皇城など、どうでも良かった。
しかし……。
“バシュン!!”
何度攻撃しても、黒騎士の通る事は無かった。
何故ならば、放たれた光の矢は……全てレナンが纏う鎧に吸収されてしまうからだ。
「ぜぇ、ぜぇ……何故だ、何故……殺せない……」
持てる力を振り絞って攻撃するも、全く意味が無い事に絶望しヒドラはうわ言のように呟くと……レナンは世間話をする様に話し掛ける。
「異端審問官長官ヒドラ……。お前は俺に言ったな……白き神とやらの姿を。そして、圧倒的な力に、人知を超えた技を持ち……伝説の龍に近しい姿に変化出来ると……」
「そ、そうです! それが……どうしたのです!? ロデリアの黒騎士め! 醜い鎧を纏った、お前とは比べ物に成らない至高の存在! だからこそ、私は神の敵である、お前を討たねば!」
静かな声で語る黒騎士レナンに、ヒドラ長官は……聞く耳を持たないと言った様子で叫ぶ。
「ヒドラ長官、そして皇帝ユリオネス……。お前達は、考えるべきだったのだ。……自分達が崇めていた奴らが、どんな存在だったかを。
多くの者を犠牲にしてまで……信じるに値するかどうかを……。お前達は深く考え様ともせず……守るべき価値ある者達を、多く殺してしまった」
「……黒騎士様……」
穏やかで、諭す様な口調で話す、黒騎士レナン。その声は偽装された低い声では無く、若い元の声だ。
レナンの言葉を聞いた皇女エリザベートは、彼の秘めた想いを感じて呟く。
「……長きに渡り……ゼペド達、白き偽神を盲信し……自国だけに留まらず、他国の罪無き者達を無数に殺した……お前達はもはや、許されない。そんな愚かなお前達に、真実を教えてやる。
お前達が信じていた……ゼペド達、白き偽神は……本当に救い様の無いカスだったぞ?」
「な、何を!! 何をほざくか! 白き神の敵めが!!」
静かに語りながら、最後にヒドラと皇帝ユリオネス達を煽ったレナン。
その彼の言葉を聞いたヒドラは、到底受け止める事が出来ず、血管が切れそうな勢いで叫ぶ。
そんな、異端審問官長官ヒドラに……黒騎士レナンは囁く様に話す。
「異端審問官長官ヒドラ殿……。自らの信仰が試される時だぞ? 括目して……自らが神の敵と、散々罵った者を見るが良い。……アーマー解除」
ヒドラに向け、囁く様に問うた黒騎士レナン。
彼は、語った最後に……自らを縛る戒めにして誓いの漆黒の鎧を解除する。
“ヴオン!”
黒騎士レナンが呟いた後……低い音と共に彼の体を真黒い粒子が包む。
そして瞬く間に凶悪な漆黒の鎧が消え去り……黒いボディスーツを着たレナンが姿を現す。
その場に現れた……呪われた恐ろしい鎧を外した、レナン。
「「「「「…………」」」」」
本来の素顔と姿を、皇女エリザベート達やヒドラ等に現した黒騎士レナン。その姿を見た誰もが、絶句して固まっていた。
漆黒の鎧を外して見せた、黒騎士レナンの姿は……。
強制強化の影響により、背が高く筋骨隆々とした身体付きと……二重瞼に大きな瞳を持った、幼さが残るが非常に整った顔立ちをしていた。
凶悪な鎧から、かけ離れた眉目秀麗なレナンの素顔に……皆が驚き一瞬、心を奪われたが……。
ヒドラや皇帝ユリオネスを含むその場に居た、全員が……驚愕の余り、絶句して固まっていたのは、別な理由が在った。
何故なら……そこに居たレナンは――。
素顔を見せた彼……。その髪は輝く美しい銀髪で……抜ける様に白い肌を持ち……その瞳は夕暮れ時の空の様な茜色をしていたのだ。
まさに、レナンの本当の姿は……異端審問官長官ヒドラが、得意げに語った……白き神、そのものだった。
その白き神と全く同じレナンの素顔を見た……異端審問官、そして皇帝ユリオネスと配下の者達は……一斉に跪く。
“ザッ!”
対して異端審問官長官ヒドラは……この世の終わりの様な顔を見せ、狼狽して、冷や汗を大量に流しながら……立ち尽くすばかりだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は3/2(水)投稿予定です、宜しくお願いします!