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30)恋する乙女

 素顔を晒したマリアベルは馬車の中に用意された簡易テーブルの上に置かれた複雑な紋様が刻まれた銀皿に向かい合う。


 オリビエ達が用意した特別な銀皿に(たた)えられた水面に映る、ソーニャの姿。彼女は遠距離通信の準備が既に整っていた様だ。



 マリアベルは彼女の姿を見ると、嬉しくて堪らないと言った様子で話しだす。


 「聞いてくれ、ソーニャ! 奴は、レナンは本物だ! 本物の白き勇者だった!」


 彼女はそう嬉しそうに叫び、今日の戦いの結果を妹のソーニャに伝えた。


 その語る様子だが顔は上気し、彼女の特徴的な耳はその嬉しさを示すが如く忙しく動き、その瞳は熱く濡れ正に恋する乙女の姿だった。



 マリアベルはソーニャにレナンの強さ、恐ろしさを伝えた。


 恐るべき剣技を持つ事、多彩な魔法を操る事、剣を無くしても体術で乗り切った事……。


 そして不思議な腕で大剣を切断された事等を余す事無く、全てを伝えようとした。


 「……と言う訳で、レナンの力は計り知れん。直に戦った私なら言える……。お前が言っていた大地ごと龍を滅ぼしたという話……。間違いなくアイツなら出来るだろう。

 私が感じた、レナンに対する圧倒的な恐怖……その直感が教えてくれるんだ。アイツは……レナンは只者では無いと……。それなのに、アイツの心根は済んだ泉の様に美しい。

 仲間に対する態度、それに敵として接した私への気遣い……信じられるか? あの恐怖を憶える程の絶大な力が、見目麗(うるわ)しく聡明な少年の中に同居しているんだぞ? 有り得ん奇跡だ! 

 私はアイツからの上段切りを受けた時、その長く伸ばされた前髪の奥に光る赤い瞳を見た……。

 美しく幻想的で……、一言で表すなら、そう! 衝撃的だった……! とにかく私は……」



 頬を赤く染めながら興奮した面持ちで一方的に話すマリアベルの姿に、聞いているソーニャは驚愕しながらも既視感を感じていた。


 この姿はソーニャが学園で何度も見た事が有る。この熱に浮かれた姿は学園の少女達が想い人の事を語る姿のままだった。



 ソーニャが驚愕しているのは、その姿をまさか自分の姉に見るとは思わなかったからだ。



 戦鬼の血を引き隔絶した強さを持つ姉のマリアベルは、その血筋の為か男に対しては自らより強者しか認めない。


 当然より無数に居る男達の中にそんな強者は居る筈も無く、言い寄って来る男達は国王との縁を期待する下らぬ男ばかり。


 それ以外の男は異様な黒騎士の姿に恐れをなしてか、話し掛けても来ない。


 その上、王城の男達は遠き地に居る亜人達については、その力に怯え特に理由も無く強く(そし)るのであった。その血を引くマリアベルとしては男達に対し嫌な思い出しかない。


 そんな理由で(むし)ろマリアベルにとって男の存在は嫌悪の対象ですらあった。


 その為にマリアベルが異性に恋する姿等、長らく共に居るソーニャは見た事が無かった。今日までは……。




 「……レナンの技は鋭く素早い。不可思議な魔法で彼の体は(まばゆ)く光り、その姿は美しくも恐ろしいんだ……私は……」


 『はぁぁ……、お姉さま』


 語り続ける姉の姿に、ソーニャは長い溜息を付いて話しの腰を折った。


 「うん? どうかしたか、ソーニャ?」


 『……マリアベルお姉さま……レナンが白き勇者である事は良く理解出来ました』


 「そうか? まだ半分も伝えてはいないと思うが?」


 ソーニャの制止に不思議そうな顔をして可愛らしく首を傾げるマリアベル。対してソーニャは優しく制する。


 『いいえ、もう十分伝わりました。それでマリアベルお姉さま……今後どう致しますか?』


 「やるべき事は決まっている……ソーニャ、お前は陛下に白き勇者発見の報告をしてくれ……。

 そして、我々は……名残(なごり)惜しいが……此処を離れ王都に戻り、彼を迎える準備をせねばな。 ソーニャ、お前にも手間を掛けるが例の件を頼む」


 『……ティア嬢とレナンの婚約の件ですね。お任せ下さい……』



 マリアベルはソーニャの言葉を受け、満足げに(うなず)いて呟いた。


 「うむ、頼んだぞ。……ククク……待っていろ、レナン! お前は必ず我が夫とする……必ずな!!」



 誰に話すでも無く、決意を語るマリアベル。彼女の中ではレナンの出会う前には、無かった強い気持ちが芽生えていた。


 その為、彼女はレナンを奪われるティアの気持ちを想う余裕は無かった。マリアベルの中では、レナンと結ばれる事は決定事項であり、何が何でも彼を奪う心算だった。


 そんなマリアベルの強い気持ちを感じたソーニャは長い溜息を付くのであった。




  ◇   ◇   ◇




 それから時が経ち、季節は冬が過ぎ春を迎えようとしていた。ティアは遠く離れた王都に有る王立学園の教室で友人の少女達に不満を(こぼ)していた。


 「……でね! 婚約者のレナンの奴が、ミミリ達と一緒に冒険者として活躍している事が許せないの!」


 「だ、だけど……学園に行ってないんだから、その、仕方ないんじゃ……」


 興奮して語るティアの話をオドオドしながら聞いているのはライトベージュの綺麗な髪をオカッパにしている可愛らしい少女だ。


 「違うのよ! ジョゼ! 私より先に冒険者として活躍してる事が許せないのー!!」


 「あわわ……ご、ごめんなさい……ティアちゃん……」


 興奮して立ち上ったティアの剣幕に怯えたオカッパの少女はジョゼと言う名だった。



 そんな二人に本を読みながら話を聞いていた少女が静かに語る。


 「おい、ティア……ジョゼが怯えているから落ち着け。あとうるさい」


 「何よ! リナ! アンタ自分が本読みたいだけじゃないの!?」


 リナと呼ばれた少女はティアに注意されても顔を上げようともしない。リナは美しい黒髪を長く伸ばした大人びた美少女だった。


 「だからうるさい。静かにして」


 「な、な何ですって!? 未来の勇者たる私に!」


 「ふ、二人共落ち着いて……」


 言い争うリナとティアを止めようと、ジョゼが大慌てで制止する。この3人の中では良く有る光景だった。




 “また始まった……”同じクラスの皆は敬遠しながら見つめている。


 この学園はロデリア王国内の貴族子息子女が多く在籍する学園で、その為幼い頃から貴族たる者、品行方正で有るべきと教わってきた為か、ティアの様な元気過ぎる子女は避けられるというか、恐れられていた。


 従ってリナとティアが喧嘩を始めると、皆は遠巻きに事無かれ主義を貫くのであった。



 そんな中、騒ぐ3人に近づく少女が居る。


 それはソーニャだった。彼女は小柄な体と整った顔立ち、そして大きな瞳の非常に可愛らしい容姿でニコニコしながらティア達に近づいていく。


 そんなソーニャをクラスの友人達が制止する。



 「ソーニャさん……貴女はこのクラスに編入して間が無いからご存じ無いでしょうけど……ティアさん達に関わらない方が宜しくてよ? ホラ……あの人達、リナさんは別にしても品が無いと言うか……」


 「そうよ! 特にティアさんは乱暴者で、昔から男子と(いさか)いを起こされるし……ちょっと怖いわ……」


 友人達はソーニャの身を案じてか、粗忽者(そこつもの)のティアに注意する様に伝える。対してソーニャは可憐な笑みを浮かべ友人達に返答する。


 「……ご忠告有難う御座います……皆さん……ですが大丈夫です。少しお話するだけですから……ご心配頂き本当に有難う」


 そう花の様に微笑んで彼女は友人達に礼を言った。そしてティア達の横に立ったソーニャはティアに話し掛けるのであった……。



いつも読んで頂き有難う御座います!

 次話は「31)(ささや)く少女」で、明日投稿予定です。よろしくお願いします!


 読者の皆様から頂く感想やブクマと評価が更新と継続のモチベーションに繋がりますのでもし読んで面白いと思って頂いたのなら、何卒宜しくお願い申し上げます! 精一杯頑張りますので今後とも宜しくお願いします!


追)一部見直しました!

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