319)ギナル皇国侵略戦-32(嘲り)
皇帝ユリオネスを討つ為に……玉座の間に乗り込んだ、黒騎士レナンと皇女エリザベート達。
厨房で働くジルの姿で、玉座の間に現れた皇女を……偽物と蔑む異端審問官長官のヒドラと皇帝ユリオネス。
しかし、黒騎士レナンはAIオニルに指示して、エリザベートの偽装を解き……まごう事無き皇女としての美しい姿を現せて見せた。
その様子に、皇帝の配下達も大きく動揺する。しかし、異端審問官長官ヒドラは違っていた。
「怪しい術を使って、皇帝陛下を惑わす気ですか? 皆さま、騙されてはいけませんよ! ラザレ将軍は、偽者の皇女を担いで……皇国転覆を目論んでいます!
白き神は全てを知り見ておられます! ここで偽者の皇女になびく様な事が有れば! それは白き神への背信行為と見做されます! 皆さま、努々お忘れなきように!!」
「「「「…………」」」」
ヒドラ長官の叫びを聞いた、皇帝の配下達はピタリと動揺を抑え黙り込む。逆に皇女の前に跪いた近衛騎士達は、互いに顔を見合せ戸惑って居る様だ。
異端審問官達は、今し方ヒドラがして見せた様に、白き神の名を上げて都合の良い様に、多くの者を支配しているのだろう。
そんな中……黒騎士レナンが沈黙を破る。
「……白々しい演技だな、ヒドラとやら? お前達、異端審問官共は……皆こぞって、皇女殿下を襲おうとしただろう?」
「忌まわしい白き神の敵が、何を根拠に戯言を吐くのですか? 皆さま……神の敵は、この様に虚言を持って我々を欺くのです!」
黒騎士レナンの呟きに、ヒドラ長官は大袈裟な素振りで、皇帝や配下の者達に語り掛ける。
しかし、レナンは小馬鹿にしながら横に居たオニルに声を掛けた。
「殺す前に、茶番に付き合ってやろう……オニル、見せてやれ」
「はい、マスター」
“ヴン!”
レナンの指示を受けたオニルが答えると……玉座の間に、巨大なスクリーンが現れ……異端審問官のモズとトネギが叫ぶ姿が映し出される。
“皇女を捕えた後……白き神に皇女を献上するのだ。何せ特上の贄故、白き神も大いに喜ばれよう!”
“この俺はねぇ……その皇女を掴まえに来た異端審問官でした!”
その映像は、異端審問官のモズとトネギが、襲って来た際にオニルが記録した映像だった。
異端審問官の名を自ら語り、得意げに皇女に関して叫ぶ姿を見た者達は、大きく動揺する。
神の代行者を名乗る異端審問官が、皇女の存在を認めている事実に、大いに混乱したのだ。
その映像を見た近衛騎士達は、目の前の皇女エリザベートが本物と確信した様で、彼女を守るべく、取り囲んだ。
近衛騎士だけで無く、皇帝ユリオネスの配下達も何人か、分が悪いと思ったのだろう……皇女の方を見て跪く。
その様子を見た、ラザレ将軍がヒドラ長官に向け叫ぶ。
「語るに落ちたな! ヒドラ長官! 神妙にしろ!」
「はぁ……全く、儘ならぬものですね……。ですが、考え様によっては……目障りな神の敵を一掃し、皇女を捕える好機とも言えますか」
叫ぶラザレに答える気も無く、ヒドラ長官は疲れ気味に溜息を付いた後……何やら思い付いた様に呟く。そして、指をパチンと鳴らす。
すると……。
“ザザッ!!”
ヒドラの背後から、黒頭巾を被った異端審問官が8人ほど、飛んで現れた。
彼等は両手に、不思議な光を放つ金属性のリングを持っている。
「異端審問官!?」
「しかも……この数!」
現れた8人の異端審問官を見て、ネビルとラザレは驚いて叫ぶ。
対してヒドラ長官は、自分も懐から金属性のリングを取り出して呟いた。
「元より……黒騎士なる、神の敵は滅ぼす心算でした……。それに、皇女殿下が率いる反体制派達も。同時に反抗的なラザレ将軍とその部下も始末出来れば……一石二鳥、いえ三鳥となりますね。
お前達、白き神より賜った力……存分に背信者共に見せて差し上げましょう」
「「「「御意」」」」
ヒドラ長官が呟くと、現れた異端審問官は同時に答え……リングを持ったまま、両手を突き出す。
「黒騎士、頼む……!」
「分っている。オニル、皇女殿下と他の者達を守れ。ついでに、この騎士達もな」
「はい、マスター」
強力な力を持つ異端審問官が8人同時に、攻撃する構えを見せた事で、ラザレは危険を感じ……横に居た黒騎士レナンに向け叫ぶ。
レナンは当然の様に応え、オニルに指示を出す。
指示を受けたオニルは皇女達に大きなバリアーを展開した。
「……防ぐ心算の様ですが、無駄ですよ? 白き神より、一騎当千の力を与えられた我ら、異端審問官が8人……いえ、私も含めれば9人ですか。9人の神の使徒が揃えば……如何な神の敵と言えど……」
「異端審問官長官ヒドラ殿」
バリアーを展開させた黒騎士レナンに向かい、ヒドラ長官は見下しながら呟いている最中に……そのレナンが逆にヒドラに呼び掛ける。
「大層、信心深い……貴方にお聞きしたいのだが……貴方達が崇め奉る、白き神って言う御方は、どんな御姿をしてるのか?」
「く、黒騎士様……?」
突然、異端審問官長官ヒドラに問うた黒騎士レナン。
彼の口調は嫌に丁寧で……偽装された低い声では無く、本来の若い声で話し掛けている。
その意図が掴めず、近くに居た皇女エリザベートが不安そうに尋ねたが……レナンはそっと手で制した。
「……ほう? 死を前に、信仰に興味を持たれたと言う訳ですか。今更、遅すぎますが……旅立つ貴方への慈悲として、特別に教えてあげましょう……!
その御姿は……輝く様な銀髪と、抜ける様に白い肌をして! 美しい茜色の瞳を持たれています! その様な御姿を持つ存在など……我々塵芥の民には皆無!」
「へぇ……それは興味深いな」
丁寧に尋ねた黒騎士レナンに、気を良くしたヒドラ長官は、興奮気味に、ゼペド達白き神について熱く語る。
対してレナンは、意味有り気に答えた。
「そうでしょう、そうでしょう! しかも……白き神は圧倒的な御力と、人知を超えた技を御持ちです。片手で城を砕き! 空を飛ぶ巨大な船を操る! 何と、いと高き御方達でしょう!
そればかりか……白き神は、伝説の龍に近しい御姿に変化出来るのです! その御姿に変化された際は、更なる御力を持たれるとか! 正に、隔絶した神と言えましょう!!」
「……ヒドラ殿……随分と無駄に長い、御高説だったが……纏めれば、お前が言う白き神様とやらは……輝く様な銀髪と、抜ける様に白い肌と、茜色の瞳を持ってりゃ良いって訳だ? それと? 空を飛ぶ巨大な船を操る? ……おかしいな、この俺も空飛ぶ船を持ってるが?」
「何が、言いたいのです……?」
調子に乗ったヒドラは白き偽神ゼペド達について、狂った様に褒め称える。
それを最後まで聞いた黒騎士レナンは……偽装されていない声のままで、嘲りながら問うた。
レナンの嘲りを聞いたヒドラ長官は、漸く彼の意図が分った気がして、感情を消して問い返す。
「下種なゼペド達を崇めていた、信心深いお前達に是非聞きたい。もし俺の素顔が……お前の言う姿ならば、俺が殺したゼペド等の代わりに……お前達は犬みたいに這い蹲って、崇めてくれるのか?」
「「「「…………」」」」
怒りながら問うた異端審問官長官ヒドラに、黒騎士レナンは……どこまでも冷たい声で、思い切り馬鹿にして尋ねる。
ヒドラ長官に余りに冷たく、予想外の問い掛けをしたレナンに……エリザベートを始めとする者達は、掛ける言葉が無かった。
しかし、思い切り馬鹿にされたヒドラは、到底黙っては居られなかった。
「か、神の敵を! こ、殺せぇ!!」
レナンの嘲りを受けて、激高したヒドラ長官は、配下の異端審問官と共に……総員で攻撃したのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は2/27(日)投稿予定です、宜しくお願いします!