317)ギナル皇国侵略戦-30(疑問)
現皇帝ユリオネス打倒に向け、黒騎士レナンと共に同行する皇女エリザベートとその配下達。
レナンが開けた大穴をリベリオンの背に乗って、エリザベート達は皇帝が居る最上階に辿り着く。
レナンが一階の大ホールから、開けた大穴は……最上階の回廊に繋がっていた。
「……オニル……ユリオネスは玉座の間に居るのか?」
最上階の回廊に降り立った黒騎士レナンは、回廊を進みながら傍らのオニルに問う。
「はい、マスター。標的である皇帝ユリオネスは玉座の間の奥に居ります。その部屋には標的以外の人間も多数確認されました。彼等は皇帝ユリオネスの部下であると予想されます」
「そこにユリオネスと、他の臣下達が居るなら都合が良い。……一人残らず始末する。所で、リベリオン達はどうしている?」
「はい、マスター。20体のリベリオンが皇城周囲を飛びながら、標的の監視を行っています。標的の皇帝ユリオネス及び臣下達は、空を飛ぶリベリオンと上空のラダ・マリーに異常な怯えを感じている様ですね」
「……奴らの所為で、今まで多くのロデリアの民が殺された……。彼等の痛みと苦しみ、少しでも味わって貰わんとな……」
オニルが伝えた皇帝ユリオネスと側近達の状況に、レナンは小さく呟く。そんな彼を見た皇女エリザベートは……。
「黒騎士様……ロデリアには定期的に、私達の仲間が商人として訪れています。その仲間により、私達はロデリアの状況を概ね把握しておりました。彼等はロデリアだけで無く、皇国の周辺諸国を巡っています」
「……間者と言う訳だな……」
回廊を歩きながら皇女は静かに語り、黒騎士レナンは答える。
「はい、恐れながら……。その目的は他国の情報取集以外に……皇国現体制打倒の戦力となる協力者を探す事でも有りました。私達は追い詰められていましたから……。
そんな訳で、ロデリアにも協力者となる存在を探し続けていました。そして……黒騎士様、貴方の国ロデリアには……特に名高い強者が居られましたね。それも御二人……。
その御二人は、皇国を敵視して居られたカリウス陛下の直属だった為……私達は接触する事は出来ませんでした。ちなみに……その内の御一人は、貴方と同じ黒き鎧を纏われていたとか」
「……何が言いたい?」
エリザベートは、とある確信を持って淡々と話すが、レナンは低い声で威圧しながら彼女に問い返す。
「こ、皇女殿下! この御方を怒らせては……!」
何やら危険な空気を感じたネビルが、慌てて皇女を制止する。しかし、皇女エリザベートは止らなかった。
「その御方の名は……黒騎士マリアベル。私達が得た最近の情報では、厳めしい兜を外した姿は……亜人の血を引く、とても美しい女性だったと……」
「それ以上は、止めて頂こう」
皇女エリザベートの話が核心に迫った所で、黒騎士レナンは進むのを止め……皇女に向き直り、怒りを湛えながら低い声で強く制止した。
今のレナンに取ってマリアベルの件は、誰で在ろうと絶対に触れて欲しくない事だ。
だからこそ、知らない事とは言え……踏み込んで来たエリザベートに対し、黙っては居られなかった。
「き、貴様! こ、皇女殿下に非礼であろう!」
「や、止めろ! 黒騎士!」
「良いのです、ガストン! ラザレ将軍! 非は私に有ります! 黒騎士様、どうか無礼をお許し下さい! 貴方様の御心を乱す様な真似をして、本当に申し訳御座いません!」
皇女エリザベートは憤る、ガストンとラザレを諌めた後……レナンに対し、跪いて深く謝罪した。
皇国を背負う皇女が跪いて謝罪する等、許され無い事で……その様を見てガストンは更に憤る。
対して、ラザレやネビルは……超越した存在の黒騎士レナンが怒りで暴れ出し、皇城を破壊しないかと恐怖した。
そんな緊張した空気の中……。
「はいは~い、黒ちゃん……一旦落ち着こう。ジル姉も皇女モード頑張り過ぎよ~」
一級冒険者のフワンが呑気過ぎる言葉使いで、レナンとエリザベートの中に割って入る。
「く、黒ちゃん? お、お前……それ黒騎士の事か!?」
恐ろしい黒騎士レナンに向かって、ふざけた呼び名で呼んだフワンに、ラザレは驚愕して叫ぶ。
「そーだよ~黒騎士だから黒ちゃん。黒ちゃん、見掛けは怖い格好してるけど本当は絶対良い子でイケメンだよ。私のキース君に負けない位ね~。だって、気分悪かったナミちゃんの事……凄く気遣ってたし。私、そう言うの、見抜けるスキル持ちだから~」
「…………」
そう言いながらフワンは、黒騎士レナンの背中をバンバン叩く。対してレナンは嫌そうな素振りを見せながらも、黙っていた。
「黒ちゃん、ジル姉の事……どうか許して上げて。ジル姉、皇女様として黒ちゃんの事……どんな子か知っとく必要あるから、突っ込み過ぎたんだ。
ジル姉も、もう少し男の子の気持ち、考えないとダメよ~。はい二人共、仲直り~」
間延びした声で、ニコニコしながらレナンとエリザベートに声を掛けるフワン。
「フ、フワン! こ、皇女殿下に向かって、何たる口の利き方を!」
そんなフワンに、ガストンは青筋を立てて怒る。
「良いのです、ガストン。全てはフワンの指摘通り……黒騎士様、非礼をお許し下さい」
皇女エリザベートは怒るガストンを制止しながら、改めてレナンに向け頭を垂れ謝罪する。
対する黒騎士レナンは……呑気なフワンの介入で、何だか気が抜けてしまい……皇女に向かって話し掛ける。
「……貴女の謝罪を受け入れよう」
「あ、有難う御座います……」
頭を垂れて謝罪した皇女に、レナンが声を掛けると……彼女は礼を言って立ち上った。
「良かった~、これで、もう大丈夫だね~」
「だから、何だ! その言葉使いは!」
フワンはレナンとエリザベートの様子を見て、安堵した声を上げるが……またもガストンに怒られる。
そんなフワンの様子を見ながら、レナンはエリザベートに話し掛けた。
「……所で、もう一人の話が無かったが?」
「いいえ、もう良いのです」
「皇女殿下……貴女に言っておく。その二人はもう居ない。居るのは俺だけだ」
「はい、心得ました。黒騎士様……」
黒騎士レナンに、諭された皇女エリザベートは……素直に従った。
エリザベートは、先程のやり取りの中で……知りたいと願った真実が概ね理解出来た。つまりは……一体誰が、今の黒騎士なのかを。
それが分ったエリザベートは、レナンの傷を抉る真似をしてしまった事に……内心、彼に侘びながら、自分の行動に罪悪感を感じていた。
そしてレナンは玉座の間に向けて歩き出し、エリザベート達も付いて行く。
黒騎士レナンに付いて歩く、皇女エリザベートは罪悪感の為か、それとも叔父と対決する緊張故か、足取りが重そうだ。
そんなエリザベートを背後から見ていた女性騎士のネビルは……。
(皇女殿下が仰られていた……黒騎士マリアベル……。亜人の血を引くとても美しい女性だと仰った。そう言えば、異端審問官ヤマチに襲われた際……黒騎士様は言われていた……。確か、“武闘大会の決勝戦で”彼女達”は気高く、とても美しかった”と……。
あの時も黒騎士様は凄く怒っていた……。だとしたら……黒騎士様が呟く“彼女”は、黒騎士マリアベルって人なのかしら……? それじゃ、今の黒騎士様はどうして、黒騎士の格好を? マリアベルって人は今どこに? 今考える事じゃ無いけど……どうしよう、凄く気になる……!)
黒騎士レナンと同行する様になってから、度々彼の口から呟かれる“彼女”が誰かを知り得た。
だが、同時に別な疑問が湧き出て、彼女を悩ませる。
女性騎士ネビルが悶々として歩く中……一行は玉座の間に到着した。
「着いたぞ……皇女殿、覚悟は宜しいか?」
「は、はい! 黒騎士様……!」
玉座の間の固く閉ざされた門の前で、黒騎士レナンが皇女エリザベートに声を掛ける。
「分った……それじゃ殴り込みを掛けるぞ」
そう呟いたレナンは、頑丈そうな玉座の間の門を蹴破った!
“ドガァ!!”
黒騎士レナンに蹴られた玉座の間の門は、大きな音を立てて微塵に砕け散るのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は2/20(日)投稿予定です、宜しくお願いします!