316)ギナル皇国侵略戦-29(皇帝の元へ)
皇女エリザベートに、問われた黒騎士レナンは……真実と自らの戦いについて語った。
真実を聞かされて、その場に居た一同が混乱する中……皇女エリザベートに向かい、ラザレとネビルが自らの思いを進言する。
エリザベートは皇女として、二人の進言を受け入れるのだった。
そんな皇女とラザレ達のやり取りを黙って見ていた……黒騎士レナンは小さく呟く。
「もう良いだろう。……皇女殿、貴女の問いには答えた……」
そう話したレナンは、右手を皇城大ホールの天井に向け高く上げた。すると……右手が音を立てて輝き出す。
“ギイイイン!!”
「……貫け」
黒騎士レナンの言葉と同時に、輝く右手より……巨大な光の刃が一瞬にて生じ、大ホールの天井を貫いた。
レナンの右手から生み出された光の刃は、天高く伸び……大ホール天井を貫き、皇城の玉座の間が設けられた最上階へ達する。
玉座の間は最上階7階に在る。その高さまで光の刃は貫通しているが、刃の長さは数十メートルに至っているだろう。
「微塵と化せ……」
“ボボン!”
光の刃で最上階まで貫いている黒騎士レナンが、呟くと刃は爆発した様に輝く。
刃の輝きが収まった後……刃が貫通してた天井は、3m程の繰り抜いたような大穴が開いていた。
大穴は光の刃が貫いた、各階の床や天井に開いており大ホールから、玉座の間が有る最上階まで一直線に穴が貫通している。
この穴は、数十メートルの高さまで渡って貫いた、光の刃に依るものだった。
光の刃は、突き刺さった対象を分子レベルで崩壊させる技で、ゼペド達撃破後に、王都を蹂躙していた無数のレギオンを消滅させた力だ
レナンがその気に有れば、皇城ごと微塵にするのは造作も無い事だったが、目的は皇帝の処刑である為、敢えて威力は制限した。
なお、皇女を助ける為に地下水路の天井を貫いたのも、この光の刃だった。
「「「「「…………」」」」」
大ホールから最上階まで貫通した大穴を見て……皇女エリザベートやガストン達は、驚愕の余り絶句して言葉が出ない。
「……それでは、急ぐ故に失礼する」
絶句して固ってる皇女エリザベートに向け、黒騎士レナンは声を掛け、浮き上がる。
そのまま開けた大穴から、皇帝が居る最上階に飛んで行く心算なのだろう。
レナンから声を掛けられたエリザベートは、我を取り戻し……彼に向け叫ぶ。
「お、お待ち下さい! 黒騎士様!」
「……俺を止める心算か?」
皇女に制止された黒騎士レナンは、低い声で問い返す。
威圧感の有るその声に、エリザベートは泣きそうになったが、自分の想いを勇気を振り絞って伝える。
「いいえ、そうでは有りません……! 叔父の暴挙を止めるのは! 皇女としての責務! どうか、私も連れてって下さい!!」
エリザベートは、皇女としての責務を果たす為……黒騎士レナンに向け叫ぶのだった。
◇ ◇ ◇
「ほ、本当に飛んでいる!? あ、足元が……!」
皇女エリザベートは、生まれて初めて飛んだ体験に、恐怖と驚きの為に叫ぶ。
彼女は、今……黒騎士レナンと共に白き龍リベリオンの背に乗って、飛びながら皇城最上階に向かっていた。
皇女エリザベートに現皇帝ユリオネスの処刑を伝えた、黒騎士レナン。
そんなレナンに、エリザベートは皇女として、同行を強く願い……そして彼女は、リベリオンに乗って飛んでいると言う訳だった。
「喋らない方が良い、舌を噛むぞ……」
「アギャ!」
驚き叫ぶ皇女に対し、レナンは忠告し……エリザベートを乗せているリベリオンは“そうだ!”とばかり鳴いた。
「く、黒騎士! そなたが! 空を飛ぶなど非常識な事を、皇女殿下にさせるのが悪い! しかも、地下水路に引き続き、ホール天井に大穴を開ける等と! いくら何でもやり過ぎだ!」
「……階段でノンビリ上って行けと? 各階にはゼペド等の犬共が大勢待ち構えているだろう。いちいち相手するのも無駄だ……」
自らが開けた大穴を飛んで上に上がるレナンに、皇女と同じくリベリオンの背に乗ったラザレ将軍が噛み付く。
対する黒騎士レナンは、面倒臭そうに答えた。
「で、伝説と言われる……龍の背に乗って、飛ぶ事が有ろうとは……」
「そうですね~。人生、何が有るか分らん! ですね~。不思議~」
皇女と同行しているガストンは、エリザベートが乗るリベリオンの背の上で……戸惑いながら呟くと、共に乗るフワンは楽しそうな声を上げた。
なお、黒騎士レナンに同行したい、と申し出た皇女エリザベートだったが……そんな皇女と共に、大ホールに居た全員が同行する(給仕係のナミも含めて)と宣言した。
しかし、“危険だから最低限の人数だけ”とレナンに却下され……結果的に皇女と同行するのは、元近衛騎士長にして現料理長のガストンと一級冒険者のフワンだ。
ラザレとネビルは最初から黒騎士レナンに行動を共にしていた事と、現役の将軍と騎士と言う理由により、皇女との同行を認められた。
大ホールで別れた、皇女の配下達は……エリザベートに待機と別の配下等への状況連絡を命じられ、渋々従った次第だ。
給仕係のナミは、憧れの女性ジルが……皇女殿下だった事に改めて興奮していたが、その皇女が命賭けで助けに来てくれた事に深く感謝して、エリザベートとの同行を願った。
しかし皇女エリザベートが、ジルの口調で悪戯っぽく“悪ぃけど待っててくれ”と諭されたナミは……歓喜すると共に大興奮しながら、黄色い声を上げて厨房に駆け足で戻っていた。
恐らく、厨房に働く女性達にジルの秘密を言いまくる心算だろう。
皇女エリザベートはガストンとフワンと共に、リベリオンの背に乗って現皇帝ユリオネスが居る最上階へ向け、上へと飛ぶ。
そのリベリオンは羽を動かす事無く飛び、背に乗る皇女達が落ちない様に、羽を伸ばし手すりの様に彼女達を包んでいた。
もう一体のリベリオンは、ラザレとネビルを同じ様に背に乗せて飛んでいる。
AIオニルが操るドロイドは二体在ったが、一体は黒騎士レナンの傍を飛び……もう一体は皇女エリザベートの近くを飛んでいた。
レナンの指示を受け、エリザベートを守る為に傍に居るのだろう。
二体となったドロイドを、リベリオンの背に乗っている女性騎士ネビルが、不思議そうに眺めながら、一人で飛ぶ黒騎士レナンに問うた。
「……黒騎士様、その丸い機械は……別に居たのですか?」
ネビルは最初一体だった筈の丸っこいドロイドがいつの間にか増え、エリザベートの横に別なドロイドが居る事に不思議に思い問うたのだ。
「貴女の問いに答えましょう。これは、AIである私が操るドロイドです。私の本体は上空の白き戦艦ラダ・マリーの最重要エリアに設置されています。従って……このドロイドをアバターとして、外部とのコミニケーションを円滑に行っている次第です。このドロイドは量産型の警備用ドロイドで……ラダ・マリーの艦内に無数に存在します。その一体を、マスターの指示により皇女護衛の為に転送した次第です」
「アギャ!」
「えっと……何言ってるか全然……理解出来ない」
問うたネビルに対し、AIのオニルは人工音声で答えると、皇女を乗せた白き龍リベリオンが肯定の鳴き声を発する。
しかし、オニルの答えが全く理解出来なかった女性騎士ネビルは、困った様に呟く。
「……余り深く考えるな。お前達流に言えば、オニルは分身の術が使える。分身はあの丸い奴で、オニル本体は上の白い船の中に居るって話だ」
「あー……そう言われれば、何となく……」
困惑して呟いたネビルに、レナンが解説すると彼女は理解を示した。
そんな中、ネビルとレナンの会話を聞いていた、皇女エリザベートは驚きながら呟く。
「……本当に、あの白き船は……黒騎士様の船なのですね……」
「はい、その通りです。偉大なるマスターは、グリアノス王朝の正統な王位継承者として、上空に停泊中の空中戦艦ラダ・マリーだけで無く……本国リネトアや、この植民地星アストアに設けられた数多くの兵器・設備群の正式な所有者で在られます。
そればかりか、この植民地星アストアそのものがマスターの……」
「オニル、そこまでにしろ……」
問うたエリザベートに、傍に居たオニルが答えるが……その途中でレナンが制止する。
「黒騎士様……貴方は、やはり……」
「話は後だ、皇女殿下……。間もなく最上階に着く」
「は、はい……」
人を超越した力を持ちながら、超高度な技術を保有する黒騎士レナン……。
そんな黒騎士の正体が、何となく予想出来たエリザベートが彼に問い掛けた所で、レナンは最上階到着を告げた。
それを聞いた皇女エリザベートは……因縁の叔父、現皇帝ユリオネスとの接見を前に、緊張の余り上ずった声を上げるのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は2/16(水)投稿予定です、宜しくお願いします!