314)ギナル皇国侵略戦-27(謁見)
異端審問官トネギが放った水の刃を、水の塊りとして逆にトネギに返し……超高圧を与えて圧潰させた黒騎士レナン。
地下水路には、超高圧を受け圧縮された為、真球となった水球が浮かんでいる。
水球は圧潰して絶命したトネギの血で真っ赤に染まっていた。
その真っ赤に染まった水球を見て……エリザベートやネビル達、女性陣は青い顏を浮かべている。特に荒事に耐性が全く無い給仕係のナミは、気分が悪そうだ。
それを見たレナンは、右手の指をパチンと鳴らす。すると浮かんでいた水球が、形を崩し唯の水となって地下水路に流れ込んだ。
突然、流し込まれた大量の水で、エリザベート達が居た地下水路の水位も急に溢れて押し寄せてきた。
しかし、黒騎士レナンが右手を上げると……溢れた水は“ピタッ!”と動きを止め、まるで見えない壁に阻まれているかの様に、此方側に流れて来ず反対側に押し返されて徐々に水位を下げていく。
水球を安全に処理したレナンだったが……給仕係のナミが、まだ気分が悪そうで皇女エリザベートから介抱されているのを見て、傍らのAIオニルに声を掛ける。
「……この地下水路は空気が悪いな……。オニル、この場に居る全員を、上のホールに転移させろ」
「はい、マスター」
黒騎士レナンの指示を受けたオニルが、短く応えると……地下水路に居た全員が光に包まれる。
「う、うわ!」「何だ!?」
“ヴヴン!”
急に光に包まれて驚くガストン達だったが、低い音が響いた……次の瞬間に皇城の大ホールに転移していた。
「「「「!?」」」」
突然、地下水路から大ホールに瞬間移動した事に皇女エリザベートやガストン達は、驚愕して絶句する。
「……地下水路より皇城一階の大ホールへ転移させた。皇女殿下を連れて安全な場所へ避難しろ。オニル、リベリオン……お前達は引き続き皇女殿下を護衛してくれ」
「アギャ!」
「はい、マスター」
驚き固まっているガストン達配下に向け、黒騎士レナンは低い声で呼び掛ける。その上で、リベリオンの一体とオニルが操るドロイドに向け指示を出した。
そんなレナンに対し、ガストン等皇女の配下達は……。
“バッ!!”
ガストン達配下の者達は全員、武器を持って取囲む。
「ガストン! バリー! 皆の者! お止めなさい!」
「……黒騎士殿、敢えてそう呼ばさせて頂く……。先ずは皇女殿下を御救い頂いた事、感謝致す。だが……その目的如何によっては……!」
皇女エリザベートの制止に関わらず、ガストンは武器を構えてレナンに詰め寄った。そんな彼にバリーや他の配下の者達も武器を構える。
対するレナンは、左手をそっと前に出して、人差し指を軽く動かした。すると……。
“ゴゴン!!”
その指の動きに合わせて、皇城自体が地響きを立てて大揺れする。レナンの力で城自体を揺らしたのだ。
その揺れで、武器を構えていたガストン等配下の者達は、姿勢を崩して座り込む。
皇女エリザベートは、気分の悪かった給仕係ナミに付き添っており座っていたが、立っていたフワンは尻餅を付いた。
姿勢を崩して座り込んだガストン達に向け、レナンは低い声で話す。
「……仇で返すと言うなら、俺は構わんぞ?」
“ゴゴゴゴ!”
そう言った黒騎士レナンは左手を上げると……皇城の揺れは、益々大きくなる。レナンがその気に為れば、左手で起こす振動で皇城を破壊出来るだろう。
「ま、待ってくれ黒騎士! ガストン殿達も止めるのだ! この黒騎士には絶対に戦っても勝てん!! 黒騎士、この場は抑えてくれ! どうか、頼む!」
殺気立ったレナンに対し、リベリオンの背におぶさっていたラザレ将軍と部下のネビルが飛び降り……両手を広げてレナンと、座り込んだままのガストン達の間に入った。
「ラ、ラザレ……将軍」
ラザレに制止されたガストン達は、漸く冷静さを取り戻した。
そんなラザレ達のやり取りを見ていたレナンは、小さく呟く。
「……事を済ます前に、皇女殿下にご挨拶させて頂くか……」
そう呟いたレナンが左手を戻すと、皇城の大揺れはピタリと収まる。
そして今だ姿勢を崩しているガストン達配下の者等に構わず、皇女エリザベートの方へ向かう。
皇女エリザベートの前に立つ黒騎士レナン。
皇女の正面に恐るべき力を持った黒騎士が立った事で、ガストン達配下の者等は背筋が凍り付いたが……対するレナンの行動は予想外だった。
“ザッ!”
何と、黒騎士レナンは……皇女エリザベートの前に跪いたのだ。
「「「「「!?」」」」」
突然跪いた黒騎士レナンに、その場に居た者達は驚き言葉を失う。
特にずっと今まで行動を共にしていた、ラザレやネビルの驚きは特に大きかった。
驚く者達を余所に黒騎士レナンは、頭を垂れ……皇女に向け話し出す。
「……エリザベート・メアリー・ド・ギナル皇女殿下……。先程は火急の事態故、失礼致しました。改めて名乗らせて頂きます、我はロデリアより参った黒騎士……。殿下の不屈な戦い振り……誠に感服致した次第です」
「く、黒騎士とやら……! 皇女殿下の御前にて兜越しとは無礼であろう!」
エリザベートにレナンは、跪いて礼を尽くした謁見を行ったが……傍に居たガストンが彼が素顔を見せない事を非難した。
しかし、即座に反論する者が居た。
「無礼は貴方達の方ですよ、アステアの原住民。ギナル皇国など……所詮はこの植民地星の小さな属国に過ぎません。その皇族が何だと言うのです?
貴方達が、謁見しておられる目の前のマスターこそ……10万年近くリネトアを治めるグリアノス王朝の正統な王位継承者であられます。
たかが一兵卒のゼペド達に従い敬っていた分際の貴方達が……真に高貴な御方であるマスターに礼を尽くさずして無礼を語るなど……礼を欠いているのは貴方達の方です」
「な、何を言っている!? 王位、継承者? 植民地? 大体リネトアなど……聞いた事も無いぞ」
ガストンの非難に、AIのオニルが即座に反論したが、対するガストンは人工の星リネトアの存在を知らない為、困惑した。
「オニル……構うな。今は俺の事より、ギナル皇国の方が先決だ。……皇女殿下……故在って兜越しでの拝謁、平に御容赦願います」
レナンは立ち上った上で、反論したAIオニルを制止し、皇女に素顔を明かせない事を侘びた。
「……黒騎士様……貴方様には素顔が明かせぬ事情が御在りなのでしょう。もし機会が有りましたら、その御尊顔を拝謁させて下さいませ。
そして、黒騎士様……そこな不思議な方が話された様に……貴方様は高貴な出自の御方と心得ました。にも拘らず、貴方様は……御自分の立場より、この皇国の事を考えておられます。
この私自身もロデリアから来たと言う、貴方様の御話しを伺いとう御座いました。故に、堅苦しい言葉使いは互いに止めて、本音で互いに話し合いませんか?
先ずは私の方から……コホン。……アンタ、何でこの国に来たのか……教えてくんねーか?」
皇女エリザベートは黒騎士レナンが高貴な血筋を持つ者だと理解した上で、互いに腹を割って話し合う事を提案した。
その上で、皇女は恥ずかしそうな顔を浮かべて、厨房で働く粗野なジル・リードの口調で、レナンに問い掛けた。
突然のエリザベートの変化に、その場に居た者達は……。
「「「「!?」」」」
「ふわ~、ジル姉、カッコイイ~」
「ほ、ほんとに! ジル姉が皇女様だった……!」
皇女の変化にラザレやガストン等、青い顔を浮かべて困惑している者も居れば、フワンや元気になったナミは黄色い声を上げて喜んでいる。
対して黒騎士レナンはと言うと……。
「アハハハハハ!! 面白いな、皇女様! こんなに笑ったのは、久し振りだ! ハハハ、フフ……心遣い感謝する、皇女殿」
ジルの口調で突然喋ったエリザベートに、意表を突かれたレナンは……思わず、年相応に声を上げて笑い元の口調で答えたのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は2/9(水)投稿予定です、宜しくお願いします!