313)ギナル皇国侵略戦-26(トネギ圧潰)
異端審問官トネギによって、追い詰められた皇女エリザベート。
トネギが皇女に向け放った水の刃を、突如現れた白き龍リベリオンと、AIのオニルが守る。
そして……AIのオニルが黒騎士降臨を宣言したと同時に、地下水路の天井に大穴が開き……ゆっくりと黒騎士レナンが舞い降りた。
地下水路天井に、白い光の刃で大穴を開けて、上空から降りて来たレナン。
彼に次いで、AIオニルが操る丸い形状の別なドロイドと、白き龍リベリオンもゆっくりと降下して来る。
リベリオンの背中には……皇国軍の将軍ラザレと、その部下ネビルが乗っていた。
ラザレとネビルは、皇女エリザベートの姿を見た途端、大声で叫ぶ。
「エ、エリザベート皇女殿下ぁ!」
「御無事で良かった!!」
「ラ、ラザレ将軍に、ネビル……! 貴方達も……!」
皇女を案じて叫ぶラザレとネビルに対し、皇女エリザベートも彼等の無事を喜ぶ。
叫ぶラザレとネビルだったが……状況だけ聞けば、皇女殿下への忠誠篤き臣下の美しい姿だが……今、彼等は白き龍リベリオンの背中におぶられている格好だ。
少し情けない姿のラザレとネビルに対し、黒騎士レナンは小さく呟く。
「……どうにも締まらない御姿だな、ラザレ将軍殿?」
「そ、そなたが! いきなり階下に大穴を開けて飛び降りるからだろう! 呆気に取られてる間に、この白い龍が我らを背負ったのだ! 仕方無かろう! ええぃ、白き龍よ、もう良いから我々を降ろしてくれ!」
「アギャ!」
からかったレナンに対し、ラザレ将軍は真っ赤な顏で怒り言い返す。
ラザレは自分達をおぶっているリベリオンに降ろすよう頼んだが、ラザレ達を守る指示を受けている為か、リベリオンは首を横に振って拒絶した。
「……皇女達の身に危険が迫ったからな。オニルの報せで急いだ為だ。合理的だろう?」
「閣下、此処は抑えて下さい……。黒騎士様の御判断で、何とか間に合う事が出来たのですから……」
ラザレの問いに、黒騎士レナンは淡々と答えるが、ラザレ同様リベリオンに背負われているネビルは……怒るラザレをなだめた。
「あ、貴方が黒騎士……?」
ネビルがラザレに向かって答えた黒騎士の名を聞いて、皇女エリザベートが恐る恐るレナンに尋ねる。
「如何にも、我が名は黒騎士……ロデリアより参った者だ。……貴女が皇女殿下で在られるか、御無事で何よりだ。リベリオン、オニル……良く守ってくれた」
「アギャ!」
「全てはマスターの為に」
皇女エリザベートに名乗ったレナンは、皇女を守ったリベリオンとオニルを労う。
レナンに褒められて応えるリベリオンとオニルだったが、そんな中、女性騎士ネビルが地下水路で倒れているガストンやフワン達を見て叫ぶ。
「く、黒騎士様……! 傷を負った者が居ります! 何卒、お助けを!」
「……仕方無い。……癒されよ」
ネビルに促された黒騎士レナンは……右手を差し出し、小さく呟く。
すると彼の右手から眩く白い光が放たれ、暗い地下水路を照らす。
“カッ!”
光が収まった後……深い傷を負って伏して居た者達が、全員起き上がった。
「こ、これは……!?」
「ふわ~? 元気になった~!」
「な、何だ!? 俺は助かったのか!?」
「ジル姉! わ、私……!」
黒騎士レナンの超強力な治療魔法を受けた、ガストンやバリーの配下等とフワン、ナミ達は全員癒され……完全復活した。
治療された本人達は、瀕死状態から突然回復した事に戸惑っている。
「ガストン、フワン、ナミ、皆!! ああ! 無事で本当に良かった……!!」
「こ、皇女殿下……! これは一体……!?」
大切な者達が全員癒されたのを見て、皇女エリザベートは感極まって皆に駆け寄る。
ガストンは状況が良く分らず、皇女に問う。そんなガストンにエリザベートは涙を湛えた笑顔を向けて喜んだ。
皆無事だった事に、リベリオンの背に乗ったままの、ラザレやネビルも一安心とばかり安堵して笑顔を見せる。
そんな穏やかな空気の中……場違いだとばかり黙ってられない者が大声で叫ぶ。
そう……異端審問官のトネギだ。
「な、何なんだ!? お前は!! お前達は!!」
圧倒的に有利な状況だった筈が……突然現れた漆黒の鎧を纏った侵入者により、全て根底から覆されてしまった。
しかも、トネギを舐めているのか分らないが、リベリオンの背に乗ったラザレとネビル達は……まるで全部、事が終わったかの様に緊張感の欠片も無い、笑顔を振り撒いている。
その事が許し難く、同時に底知れぬ不安を感じ、トネギは大声を張り上げたのだ。
「……お前は異端審問官とやらだな?」
「そ、そうだ! 俺は異端審問官のトネギ! 白き神の背信者共め! 名を名乗れぇ!」
「今より、死ぬお前に名乗る必要は無い……」
名を問うた異端審問官トネギに対し、黒騎士レナンは冷酷に死刑宣告をして名乗りを拒絶した。
「ヒ! ヒヒヒヒャ!! 何も知らない馬鹿が! もう良い!! 白き神より賜りし、この力で! 皇女ごと、お前達を! 切り刻んで洗い流してくれる!!」
「また、貰い物の力で燥ぐのか……。ゼペド等偽神の犬め、さっさと殺してやるから大道芸を見せて見ろ」
「だ、大道芸だと!? お、おおおのれぇ!!」
心底呆れた様子で吐き捨てた黒騎士レナンに対し、大道芸と扱き下ろされた異端審問官トネギは、激高して両手を上に高く上げる。
“ブワアア!!”
トネギの腕に合わせて、地下水路の水が集まり……巨大な塊となって浮き上がる。
この塊となった水が一斉に刃となって弾き飛べば、地下水路に居る皇女やガストン達は微塵となって絶命するだろう。
「ま、拙い!! お前達、皇女殿下の盾と成り、御身を御守りしろ!!」
「「「応!!」」」
「だ、駄目です! 皆、逃げるのです!」
地下水路の水が巨大な塊となったのを見て、ガストンが叫ぶとバリー達配下の者達は皇女エリザベートの盾のなるべく、彼女を守る。傍に居たフワンも短杖を構えて、皇女に寄り添う。
対するエリザベートは、今すぐ撤退する様に命じたが……誰一人動く者は居なかった。
「無駄だぁ! エリザベート!! お前を始めとして、この場に居る者は全員殺す!!」
慌てるガストンや皇女を見て、異端審問官のトネギは喜喜として叫ぶ。
そんな中、リベリオンの背におぶさった女性騎士ネビルとラザレ将軍が叫ぶ。今まで、黒騎士レナンと行動を共にして、各々が確信した事を力一杯叫んだ。
「だ、大丈夫です! 皇女殿下!! 黒騎士様は! ギナル皇国の救い主です!!」
「救い主かどうか、分りませんが! 皇女殿下! この黒騎士は、必ず御身を守るでしょう!」
ネビルとラザレの声が響く中、肝心の黒騎士レナンは……どうでも良い素振りで、ゆっくりとトネギの前に立ち……指を動かして挑発した。
「ケヒャヒャ!! し、死に晒せぇ!!」
レナンから挑発されたトネギは、更に激高して叫ぶ。叫ぶと同時に両手を前に勢いよく突き出した。
異端審問官トネギの、腕の動きに合わせ……巨大な塊となった水が、無数の刃となって襲い掛かった!
“ドドドドド!!”
「はぁ、はぁ……! キヒヒヒィ! 死んだ、殺してやっ……。え?」
無数の水の刃を放ったトネギは、歓喜の余り上を向いて笑い声を上げたが……放った筈の水の刃が、空中でピタリと制止しているのを見て絶句する。
「何、何、な、何だコレは!? 何で、止まっているんだよぉ!!」
「……簡単な事です。貴方が放った水の刃は、貴方達流で言う所の魔法で操っています。そして、貴方はゼペド達より埋め込まれたオウリハルク製の増幅器によって魔法力を高めている事で、それを可能にしていますが……その程度の増幅はマスターの超絶的な魔法力の前では、全く何の意味も有りません。従って貴方が放った水の刃は……マスターが操作してる為、空中で静止していると言う訳です。死ぬ前に勉強になりましたね」
ピタリと制止している水の刃を見て、混乱し絶叫するトネギに対し……AIのオニルが、冷たい口調で皮肉を交えて説明する。
「う、動け! 動け! 動かないと、白き神への信仰が疑われる! 動けぇ!!」
「……返すぞ、受け取れ……」
取り乱し発狂寸前の異端審問官トネギに対し……黒騎士レナンが小さく呟く。すると……。
“キュキュン!!”
制止していた水の刃は一瞬で形を崩して、水の塊りとなりトネギを包む。
「ガボボ! ゴボォ!!」
巨大な水の塊りに包まれた、トネギは呼吸が出来ず溺れ苦しんでいる。それを見たレナンは右手をスッと前に出して……。
「……死ね」
一言呟いて、差し出した右手をグッと握った。それと同時に、水の塊りは一瞬で圧縮される。
“バゴン!!”
一瞬で圧縮した水は、空間を歪める程の超高圧を受けた為か、収縮の衝撃で地下水路を大きく揺るがした。
大きな音を立てて縮んだ巨大な水の塊りは、全方位から超高圧を受けている為か完全な真球となり……内部は真っ赤な血で染まっている。
超高圧を受けた異端審問官トネギは、原型を残さず瞬間的に潰れてしまったのだろう。
こうして皇女エリザベートを追い詰めた、異端審問官トネギは……黒騎士レナンによって圧潰されて倒されたのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は2/6(日)投稿予定です、宜しくお願いします!