311)ギナル皇国侵略戦-24(異端審問官トネギVS呑気なフワン)
給仕係ナミの救出に向かった、皇女エリザベート達……。
辿り着いた地下水路で、待ち伏せていた異端審問官トネギによって……スライムの様に不気味にうごめく水に、拘束されているナミの姿を見せられる。
スライムの様な水は、絶えず形を変えながらナミを包んでおり、彼女の首だけ外に出ているが、その口は水で塞がれていた。
「ナ、ナミ!!」
「!……!?」
そんなナミの姿を見た皇女エリザベートは叫んだが、一方のナミは口を塞がれている所為か、話す事が出来ずに……もがきながら、ボロボロと涙を溢す。
「おぅおぅ、良かったねぇ、ナミちゃん! 君が大好きなジル姉様が、助けに来てくれたよ! ヒヒヒ!」
大粒の涙を流すナミを見て、異端審問官トネギは嫌らしい顔を浮かべ、彼女に声を掛ける。
トネギの声に合わせて、ナミを拘束する水の塊りは……彼女をトネギの前に押し出した。
どうやら……このスライムの様な水は、異端審問官のトネギが操っている様だ。
トネギと顔を突き合わす様な姿勢を取らされているナミは、嫌悪と恐怖で泣きながら顏をそむけるが、トネギは寧ろ嬉しそうに彼女の顔を撫でる。
「その汚らわしい手で、ナミに触らないで下さい!!」
「……あらぁ? 今の聞いたかい、ナミちゃん……。何だか、ジル姉様の言葉使いが変だね? おかしいなぁ……。何も知らない哀れなナミちゃんに教えてあげよう、ジル姉様の凄い秘密を! このジルと言う女こそ! 死んだと言われていたエリザベート皇女殿下でした!
そして、この俺はねぇ……その皇女を掴まえに来た異端審問官でした! ナミちゃんはね、皇女を捕まえる為の餌なんだよ……。ヒヒヒ、勉強になったでしょ?」
「!? ……!!」
嫌らしい手つきでナミの顔を撫でるトネギに対し、皇女エリザベートは大声で制止する。
対するトネギは、ニヤニヤと笑いながらナミの顔を掴んで、ジルが皇女エリザベートである事を囁いた。
真実を知らされたナミは、驚愕した顔を浮かべるも声を出す事も出来ず、身を大きく捩るだけだった。
「さて……種明かしが終わった所で、お仕事致しましょうか。素早く皇女殿下を掴まえてしまいましょう」
「そうはさせんぞ!! 皆の者、皇女殿下を御守りするのだ!!」
「「「応!!」」」
嬉しそうに話した異端審問官トネギに、ガストン以下配下の者達が、忍ばせていた武器を構え雄々しく叫ぶ。
「おやおやぁ? ヤル気ですか、料理長さん達! コックにしては頑丈な体付きだと思ってましたが……本業は騎士と言った所でしょう。まさか、洗い場のフワンさんまで、お仲間とは気が付きませんでしたが。ですが、お忘れでは有りませんか、この少女の事を? この俺が、ほんの少し意志を込めれば……このナミは簡単に死ぬのですよ?」
“ググッ!”
「!?……っ!」
武器を構えたガストン達を見て、異端審問官トネギは嫌らしい笑みを浮かべ、右手を上げると……ナミを拘束する水が動いて、彼女の顔を覆ってしまう。
顏を水で覆われたナミは苦しそうに、もがくが声一つ上げる事が出来ない。このままではナミは窒息してしまうだろう。
「ナミを放しなさい」
「ええ、放しますよ? 素直に貴女が捕まって頂ければ」
今にも殺されそうなナミを見て……皇女エリザベートは静かに、異端審問官のトネギに命ずる。
対するトネギはナミの命と引き換えに、皇女の身柄拘束と言う交換条件を提示した。
その証とばかりに、トネギはナミの顔を覆っていた水を動かして、窒息寸前だった彼女に息をさせる。
トネギの気分次第で、いつでもナミを殺せると言う意思表示の為だろう。それを見た皇女エリザベートは短く息を吐いて呟く。
「……今、そちらに行きます」
「こ、皇女殿下! 絶対になりませんぞ!!」
「御身の御命は、皇国の命運そのものです! 軽々しく動くべきでは有りませぬ!」
「し、しかし……! このままではナミが!」
エリザベートは、ナミを助ける為に自らを差し出す覚悟を決めて、静かに呟いた。
しかし、ガストン以下配下の者達は断固拒否し、皇女を押し留めるが……エリザベートはナミの身を案じ食い下がる。
「早くして貰えませんかぁ? このままじゃ、また……ナミちゃん、溺れて死んじゃいますよ?」
「っ……! 仕方……あり、ません……」
ナミの命を盾にして、異端審問官のトネギは嫌らしく煽ってくる。
皇女エリザベートは悔しそうな顏を浮かべ……重い足を引き摺ってトネギの元へ行こうとしたが……。
抗う意志が折れそうになったエリザベートの前に、フワンが立ち塞がる。
「フ、フワン……」
「ダメだよ、ジル姉。あのトネギって人……約束守る気なんて、最初から無い。ジル姉が、あの人の元に行った瞬間に……ガストンさんも、バリーさんも、そしてナミちゃんも……皆、あの人に殺されちゃう。それが分らない、ジル姉じゃ無いでしょ? ジル姉は、皇女様なんだから……折れちゃダメ、ね!」
辛そうな顏を浮かべたエリザベートに、フワンは肩に手を置いて力強く諭す。
皇女エリザベートを励ますフワンの姿は……いつもの呑気な彼女と思えない程、頼もしく見えた。
エリザベートを諭したフワンは、ガストン以下配下の者達へ向き直り叫ぶ。
「ガストンさん達! 絶対にジル姉を、あの人に渡したらダメよ! ジル姉が無事な限り、負けは無いんだから! だから、ジル姉! 負けないで!!」
フワンはガストン達やエリザベートに、そう言い放って異端審問官のトネギに向かって駆け出した。
「はぁぁ!!」
フワンは叫びながら、短杖を振り上げる。
「だからぁ! ナミちゃんが居るんだって!」
“ザザザ!”
短杖を振り上げたフワンに対し、喜喜とした顔でトネギは叫び……自分の前に水で拘束されたナミを突き出す。
ナミを盾にして、フワンの攻撃を躊躇わせる為だろう。
しかしフワンは……。
「予想、通りだよ! 水よ、凍り付け!」
差し出されたナミを包む水の塊りに向かい、短杖を突き差し……魔法を発動した。
すると、スライムの様に蠢いていた水は凍り付き、動かなくなる。
「仕上げ! えいやぁ!!」
フワンは懐から取り出したナイフを、叫び声と共に……凍り付き固まった水に向かって斬り付けた!
“キキン!”
フワンのナイフ捌きは見事で、一閃の元に固まった氷を斬り裂いた。その中から、ぐったりしたナミが姿を見せる。
「今だ! ナミちゃん、ゲット!!」
フワンは大声を上げて、ナミを抱えて素早く後ろに下がる。
フワンの活躍により、異端審問官のトネギよりナミを奪い返す事が出来た。
「よ、良くやった! フワン! 見事だ!!」
「でしょ~! さすが、私! 激ウマ加減の魔法とナイフ捌き! あああ! この姿を出張中のキース君に見せて、褒めて貰いたいぃ~!!」
フワンの素晴らしい活躍を見た、ガストンは手放しで彼女を称賛する。
対するフワンは、嬉しそうに自分自身を褒めながら……此処には居ない、愛しの恋人に向け叫ぶのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は1/30(日)投稿予定です、宜しくお願いします!