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29)戦い終わって

  レナンにより遂に倒された黒騎士のマリアベル。


 倒された事で彼女の鬼化は解け、赤い光はその身体より消え去った。


 

 目を覚まさないマリアベルを横目にバルドがレナンに問う。


 「……オイ、レナン……その変質者……レテ市のギルドか騎士団に引き渡すか?」


 「いや……この人の目的は僕だけだったみたいだし……レテへ連れて行く時に目が覚めても大変だしね。此処で置いて行こう」


 「確かにな……また、暴れられたらゾッとするな……色んな意味で……とにかくお前が其れで良いって言うなら、俺は構わないよ」


 レナンの返答に、バルドも納得して答えた。


 「有難う、バルド……さぁ、お土産持って帰ろう? 此れを(さば)けば宿代には困らないね」


 「……お前は領主の息子なんだから、領主館に泊まればいいのに……何で俺らに付き合うんだ?」


 「僕が冒険者として手伝う時は、仲間外れは嫌だよ? 其れに今の領主館には兄上は居ないしね」


 「そっか……エミル様は御当主としてアルトに居るもんね……」


 バルドの問いにレナンは笑って答えた。次いでミミリが思い出した事を呟いた。

 


 レナンがティアと婚約した後、突然トルスティンは病を理由に隠居すると言い出し、嫡男のエミルが当主となった。


 その際、エミルは婚約中だったメリエと結婚し、二人は中央都市アルトで暮らしている。


 レテ市には忠義心の高い老騎士ドリスが領主代行を務めていた。そのドリスを支える為に隠居したトルスティンが週に一度の割合でレテ市を訪れていた。


 トルスティンは隠居した後、活発に領土内を廻る等精力的に活動し新当主のエミルを支えていたのであった。今日はレテ市にトルスティンは来ていない日だ。



 レナンとしては気兼ねなく領主館に泊まる事も出来たがバルド達との冒険者としての生活を満喫したかったのだ。


 「それじゃ、行こう」


 レナンは街道の脇に置いた直径2mの巨大な袋を難なく担ぎ歩き出す。


 「ああ」

 「うん」



 バルドやミミリもレナンと共に歩き出したが、少し歩いた後に突如レナンが立ち止まりバルド達に言う。


 「ちょっと待って」


 彼はそう言って巨大なお土産を降ろし、持っていた鞄より予備の麻袋を複数持って、気を失っている黒騎士マリアベルの元へ走る。


 「……この鎧じゃ魔獣に襲われる事は無いだろうけど……夕暮れはまだ……肌寒いから、風邪ひくかも知れないしね……」


 レナンはそう呟いて、柔らかい草地に横たわるマリアベルの体に麻袋を毛布代わりに掛けて上げた。


 「それじゃ……もう会う事無いだろうけど……さようなら」



 レナンはそう言い残してバルド達の元に戻った。彼の様子を見ていたバルドは呟く。


 「何と言う思いやり……戦いを経て……新しい道に目覚めちゃったか……」


 「そうだよね……手紙でティアちゃんにライバル出現したって書かないとだね……但し男の人ってのも伝えないと!」


 バルドの冗談にミミリも便乗してレナンをからかった。対してレナンは満面の笑顔で二人に言い放つ。


 「二人とも嬉しそうだね……ギルドに報告したらすぐに3人で特訓しようか!」


 「やべぇ……」

 「助けてティアちゃん……」


 目が笑っていないレナンの笑顔に怯えたバルドとミミリは震えながら抱き合った。その後3人は和気藹々(あいあい)と騒ぎながら楽しそうにレテ市へと戻るのであった。


 こうしてレナンと黒騎士マリアベルの戦いは、レナンの勝利で幕を閉じたのだった。




  ◇  ◇  ◇




 レナン達がレテ市へと向かって(しばら)くした後、黒騎士マリアベルは誰かに声を掛けられ目を覚ました。


 「……ベル様。……マリアベル様!」


 「ハッ!? お、お前はオリビア……何故此処に?」


 マリアベルを起こしたのは、白い鎧を(まと)ったオリビアと言われた女性騎士だ。彼女はブロンドをミディアムストレートに整えた美しい女性だ。


 マリアベルが身を起こして周りを見ると、オリビエ以外にも白い鎧を(まと)った女性騎士のレニータも居る。


 レニータは緩いウエーブ掛かったパープルアッシュの髪を持つ気の強そうな美人だ。


 彼女達、白い鎧の女性騎士の背後には巨大で威圧感を与える武骨な形状の馬車が止まっている。




 マリアベルとソーニャはオリビア達、白騎士と共に此のアルテリアにやって来た。


 とある事情でマリアベルに仕える白騎士達だったが、全員女性で残りはソーニャと共に行動している。


 ちなみにオリビアとレニータはマリアベルの命令により、彼女とレナンとの戦闘中は少し離れた場所にて待機させられていたのであった。


 

 白騎士オリビエが(ひざまず)いて心配そうにマリアベルに話す。


 「……中々お戻りにならないので心配で迎えに上がりました……よもや、麻袋を掛けられて横になられているとは……一体何が有ったのですか?」


 オリビアに問われたマリアベルは座ったままで自身に掛けられた麻袋を握り、呟く。


 「……そうか……私は負けたのか……ククク……アハハハ!!」


 「マ、マリアベル様!?」


 突如大声で笑い出したマリアベルにオリビエ達は驚いた。


 そんな彼女達に、マリアベルは立ち上がって、手に持っていた大剣を見せる。その大剣は途中から綺麗に切断され、切断面が輝く光沢を放っていた。


 「む? こ、これは!?」


 「……完敗だよ……白き勇者は本物だった……私は戦鬼と化して挑んだが……それでも手加減され、何度も気を使われ……気が付けば気絶させられていたよ。白き勇者はとんでもない怪物だ。彼には誰も勝てん」


 「そ、そんな!?」

 「信じ…られない……」

 


 マリアベルの言葉にオリビア達白騎士が驚愕するのは無理も無い事だ。国王直属の黒騎士マリアベルは、とある事情でロデリア国王カリウスとは深い縁が有る。


 だが、それだけでは国王直属騎士には選ばれない。マリアベルは戦鬼としての血と人並み外れた鍛練により、王国最強の存在なのだ。


 その膂力(りょりょく)と冴え渡る剣技。そして鬼としての力、並びに鬼刃裂破斬と言う必殺技まで有るのだ。



 そんな彼女に勝てる者など居る筈が無い。そう今まで思っていたのだが……。


 「「…………」」


 「とにかく、白き勇者は見つかった。急ぎ陛下に報告せねばならん……お前達、急ぎ“鏡鳴“の準備を」


「は、はい!」

「……はい」


 オリビアとレニータは信じられない出来事にショックを受けながら、マリアベルの指示に従って馬車に入り“鏡鳴“の準備を行う。


 “鏡鳴“は妹のソーニャが得意とする、遠距離通話術だった。彼女が受信できる体制が出来ていれば、こちらから連絡を取る事が可能だった。


 マリアベルとしては、術者のソーニャに結果を連絡し、ソーニャから国王に伝えさせる心算だった。



 「……マリアベル様、術式の準備が出来ました」

 「ご苦労」


 マリアベルはオリビア達に声を掛け、馬車の中に入る。そして彼女は(いか)めしい漆黒の兜を外して顔を現した。


 素顔の彼女は……。


 燃える様なチェリーレッドの髪を野性味溢れるウルフロングに整えた、美しい女性だった。


 やや切れ目のマリアベルの瞳は青く澄んでいるが、芯の強さを示す強い光を(たた)えている。


 彼女の素顔は強く美しい女を表現するかの様だったが整った顔立ちの中、特徴的な耳が目を引く。


 マリアベルの耳は牛の様な形状をしていた。その不思議な耳はやや下向きに伸びており、怒られた犬の様だ。


 オーガ族を示す、その耳により彼女は素顔を見せず、常に黒騎士の姿で日々を過ごしていたのであった……。


いつも読んで頂き有難う御座います! 

 次話は「30)恋する乙女」です。」恋に焦がれはじめるマリアベルの姿が少し描かれます。投稿日は明日の予定です。宜しくお願いします!


追)一部見直しました!

追)誤記直しました。

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