305)ギナル皇国侵略戦-18(モズ襲撃)
固く閉ざされた皇城の巨大な正門を、不思議な力で粉々に斬り裂いた黒騎士レナン。
その正門が粉々になったのを見て、それを守っていた皇国兵は驚き戸惑っていたが……。
「う……!」
「動けな……」
残っていた皇国兵達も、糸が切れた様に倒れ込む。レナンが最初の数十人の兵達同様に彼らのエーテルを吸い取った為だ。
粉々に切り刻まれた巨大な正門と、エーテルを吸い取られ無力化された全ての皇国兵。
それを前に黒騎士レナンは……さも当然の様に浮き上がり、オニルと共に進み出したが、後ろに居たラザレとネビルが固まって動かない。
「「…………」」
「さぁ、行くぞ……。どうした? ここに居たいのなら、別に構わんが?」
指先一つで巨大な正門を粉々にし、数十人の兵達を一瞬で無力化したレナンの力に……ラザレとネビルが驚愕して絶句していると、レナンが何でも無い事に呟く。
「……はぁ……お前と共に居ると……いちいち驚くのがバカらしくなる……」
「ほ、本当ですね……。あり得ない事が多い過ぎて……常識が崩壊します」
「別に大した事では無い……。そんな事より中へ入るぞ」
レナンに促されたラザレは歩きながら呆れた様に呟くと、ネビルも額に手をやりながら返答する。
対して黒騎士レナンは、どうでも良い様子で素っ気なく答えた。
黒騎士レナンと出会ってから見せられる規格外の力に、ラザレとネビルは何度絶句したか分らない。
そんな状況に二人は疲れ切っていたが、ここで歩みを止める訳にはいかなかった。何としても皇女エリザベートに会いたかったからだ。
その想いを胸に……ラザレとネビルは黒騎士レナンに付いて行く。
城門前の大通路はレナンが無力化した、数十人の皇国兵が倒れ動けずに居た。
ラザレとネビルは大通路を罪悪感を感じながら、彼らを踏まない様に慎重に避けて通るが、黒騎士レナンはAIのオニルと共に、少し宙に浮き難なく通り過ぎる。
ちなみにラザレ達を守るリベリオンも、レナン同様に浮いてラザレとネビルと共に進む。
粉々になった正門を踏み越えて皇城内に入ると、そこは巨大なホールだ。
ホール奥のらせん階喈を上がり、最上階まで行けば皇帝ユリオネスが居る玉座だった。
ホールに入った黒騎士レナンは進むのを止めた。動きを止めたレナンを見て、ラザレは何より気になっていた事を彼に問う。
「黒騎士……お前、いや……そなたに聞きたい。 エリザベート皇女殿下は何処に居られる? まさか……幽閉されておられるのか?」
「……先程受けたオニルからの情報によれば……フフフ、皇女殿下は随分とお転婆で、したたかな女傑の様だ。逆境においても折れず……戦っておられる。その生き様……俺も本気で見習わねば……」
立ち止まったレナンにラザレは問う。 ラザレには皇女エリザベートを守ろうとしている黒騎士レナンが、もはや敵とは思えず呼び方を改めた。
問われたレナンは笑いながら意味深に答える。
「どう言う……意味です? 黒騎士様、エリザベート皇女殿下は、お元気なのですか?」
「……ああ、元気過ぎる程に。恐らく、お前達も皇女殿下とお会いしている筈……。それも何度もな」
「!? な、何だと!?」
レナンの答えにネビルが問うと、彼は信じられない様な事を伝える。それを聞いたラザレが驚き叫ぶ。
「ゆっくりと話してやりたいが……そうも出来ない様だ。この場は奴らが狙っているぞ」
「え!?」
静かにレナンが答え、驚いたネビルが声を上げた時だった。
“ボシュウ!!”
そんな音と共に……緑黄色の気体が大ホールに広がった。その気体が広がったホールの床は、瞬く間に変色し腐食している。
「オニル!」
一目見て、その気体が何かを即座に理解したレナンは、AIのオニルに向かい叫ぶ。
「はい、マスター。ご推察の通り、散布されたのは腐食性を持たせた化学兵器です。浸透性が高く接触部は腐食すると同時に、生物内の神経を破壊し即死させる作用があります。防護装備を無効化し、対象に高いダメージを与える様に設計された兵器です。本来は無色ですが“操作”する為に着色していますね」
叫んだレナンに対し、AIのオニルは空気を読まず長々と、散布された緑黄色の気体……つまり毒ガスについて説明した。
その間に毒ガスはあっと言う間にレナンや、ラザレ達とリベリオンを包もうとする。
そんな中、大きな笑い声がホールに響く。
「はははは!! ヤマチを倒したと耳にした故に期待して見れば! 何とも間抜けな様よ! 白き神より賜りし、聖なる霞 の前では全てが無力! 背信者め、そのまま骨まで崩れてしまえ!」
大きな笑い声を上げて叫んだのは、ホールの柱から姿を見せた小柄な男だ。
小柄な男は丸い筒状の容器を背負っているが、その顔はヤマチ同様に黒い頭巾を被っている事より、この男も異端審問官であろう。
黒い頭巾の小柄な男が高笑いをする中、毒ガスに包まれそうになっている黒騎士レナンは静かに問う。
「その黒頭巾……お前は先程の奴と仲間か?」
散布された毒ガスは、レナンやラザレ達を輪の様な形状となって取囲み、逃げ場を無くす。
どうやら、小柄な男が毒ガスを操っている様だ。一気に殺そうとしないのは、この男の嗜虐的な性格の為だろう。
「そうよ! 俺はモズ! 風を操る力を白き神よりも授かりし神の使徒! 風を操る力と共に賜りし聖なる霞を持って、神の敵を溶かし苦しみの内に討ち滅ぼすのが俺の楽しみよ!
それより、お前達が話していた皇女だが……今し方、我らが捕えに向かったわ!」
「何だと!!」
レナンの呟きに、モズと名乗った小柄な男は喜々として答える。そして、皇女エリザベートを捕えようとしている事実を語ると、ラザレが驚き叫んだ。
「……モズと言ったか……一つ聞きたい。皇女の居場所を知っていたのに……何故、今頃になって拘束する?」
「ククク……!我らは、この皇都に目と耳を忍ばせ全ての事情を把握する! ……とは言っても皇女の存在を知ったのは、つい最近の事だかな。よもや、皇女があの様な下賤の身にやつしていたとは……一体誰か予想出来ようか!
それと……皇女を泳がしていたのは、奴の元に集まる者共を一網打尽とする為よ! もう暫し泳がせて尻尾を掴もうとしていたが……お前の様な神の敵が来た以上、皇女を自由にさせる訳にいかんのでな。
皇女を捕えた後……白き神に皇女を献上するのだ。何せ特上の贄故、白き神も大いに喜ばれよう!」
「くそ!! 何て腐った連中だ!」
レナンの問いに、自らが優利な立場である為か、モズと名乗った男はペラペラと皇女エリザベートについて語る。それを聞いたラザレが怒り叫んだ。
「く、黒騎士様……!」
「……分っている、皇女は死なせない。オニル、手を打て」
「はい、マスター」
皇女に危機が迫っている事を知ったネビルがレナンに請うと、彼は頷きオニルに指示を出した。
「……聞くべき事は聞いた。そして、お前達が救いようの無いゲスと言う事も改めて理解した。だから……さっさと死ね」
「神の敵が! この聖なる霞に侵され死ぬがいい!!」
黒騎士レナンが呟くと、それを聞いたモズは激高し毒ガスを操つり、一気にレナン達を包んだのだった。
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