303)ギナル皇国侵略戦-16(存命の皇女)
皇国の現状を自ら語る内に、暗い顏をするラザレ……。
皇国の将軍として、この皇国を守れない自分を悔んでいるのだろう。対してレナンは、そんな彼の様子を見ながら淡々と悲しい出来事を語り出す。
「……口デリアの王都は……、突然攻めて来たゼペド共に、滅ぼされ40万人の人間が殺された……。俺は戦ったが一度は敗北し……大き過ぎる犠牲を払って、ゼペド共を殺した」
「口デリア王都が滅された!? それに40万人の死者!?」
「……事実だ。オニル……今の口デリア王都の現状を見せてやれ」
「はい、マスター」
黒騎士レナンの言葉を聞いたラザレが驚き叫ぶと、レナンはオニルに指示を出した。
AIのオニルは、ラザレとネビルに破壊された口デリア王都の現状を、ホログラム映像で見せる。
「……これは……!? これは……現実の事なのか……」
「な……なんて事……こんなひどい……」
復興が始まったとは言え、破壊尽くされた王都は、今だ悲惨な状況だ。
その現状を映像で見せられたラザレは衝撃を受け、ネビルは涙を浮かべながら震えながら呟く。
「……これが……お前達が崇めていたがゼペド達、白い偽神達の所業だ……。ゼペド達は俺が殺した。だが……ゼペド達は先兵に過ぎない……奴らの様な厄介なゲス共が大量に控えているんだ……。
だから、俺は戦いを始めた。奴らから、この世界を守る為に……。先ずはこの皇国でのさぼるゼペドの残党を皆殺し、皇国を建て直す」
そう言った後、黒騎士レナンはラザレとネビルに背を向け、皇城へ向かおうとする。
AIのオニルが操るドロイドと、二体のリベリオン達もレナンに従う。それと同時にラザレ逹を守っていた、光の障壁は消え去った。
そんな中、去ろうとする黒騎士レナンに、ラザレが呼び止める。
「ま、待ってくれ! お前の目的は分った! そして、その目的に道理が在る事も! 白き神が強制した皇国の現状を正す、と言う事ならこの国の将来に光はある!
だが……いきなり皇国が崩壊すると……路頭に迷い犠牲を払うのは、力無き民達だ! せ、せめて私達に時間をくれ!」
皇国の上層部をまとめて殺すと言ったレナンを、 ラザレは制止する。
ラザレとしても現皇帝の体制は我慢の限界だったが、いきなり皇国の政権が崩壊すれば、この国は内乱や他国の侵攻により、大いに乱れるだろう。
それにより真っ先に犠牲になるのは民達だ。それを知っているラザレは声を上げたが、対するレナンは足を止めて彼の方を向き、小さく呟く。
「……皇国など知った事かと言いたい所だが……“彼女”なら見捨てないだろうしな……」
「か、“彼女”……?」
呟いたレナンに対し、ネビルは先程も聞いた“彼女”と言った言葉が気になり聞き直した。
「……お前には関係ない話だ……忘れてくれ……。所で、そちらの男は、ラザレとか言ったか……。この女が言うには、お前は皇国の将軍らしいな。
お前に、はっきり言っておく。待つ事など出来ない……奴らは確実に攻めて来る。それまでに俺は何が何でもやるべき事があるんだ」
聞き直したネビルに対し、レナンは答えずラザレに向かって言い切った。
そしてレナンは、そのまま去ろうとするが……。
「こ、これだけは 教えて下さい! 貴方は皇国を建て直すと言った! そ、それは具体的に何をするつもりなの!?」
「……現皇帝ユリオネスを廃し……代わりの新皇帝を即位をさせる。その上でこの皇都に強固な防壁を築く。奴らから此処を守る為にな。そして、同じ事を他の国々にもやる心算だ……」
去ろうとする黒騎士レナンに、ラザレの部下である女性騎士ネビルは大声で問う。
ネビルはレナンが、恐しいが話し合える相手と信じて勇気を振り絞ったのだ。
対するレナンはネビルの意を組んでか、自らの計画を隠す事なく伝えた。
「ぼ、防壁!? それを他の国々にも……。そんな事が出来るの!?」
「オニル」
「はい、マスター。既にロデリアには設置済です。それに加え防衛ラインも敷いています」
レナンの言葉を聞いたネビルが驚き叫ぶと、黒騎士レナンは横に浮かぶオニルに向かい呟く。
レナンに促されたAIのオニルはホログラム映像を、ネビルとラザレに見せて説明した。
映し出された映像には、レナンがロデリア王都に設置した自動生産プラントと、展開された巨大バリアーの様子が映し出される。
それと同時に破壊し尽くされた王都を、白き龍リベリオン達が忙しく飛び回り、復興に勤しむ姿も見えた。
オニルに改めて見せられたロデリア王都の映像を、驚き食い入る様に見るラザレとネビルを置いて、レナンはオニルに声を掛ける。
「……オニル……”アイツ“の居場所は分ったか?」
「はい、マスター。生存を確認し潜伏場所を特定出来ています」
「ならば……出迎えに行かねばな……」
オニルの返答を聞いたレナンは、少しおどけた風に答えた。
「? ……”アイツ“とは……?」
"出迎える"と言ったレナンの言葉が気になりネビルが問うと、黒騎士レナンは静かに答える。
「皇女……エリザベートだ」
「「!?」」
レナンが呟いた、その名を聞いて、ラザレとネビルは驚愕して絶句した。
何故ならば……レナンが口にした女性こそ、死んだと伝えられていた前皇帝アドニアの娘である皇女エリザベートだったからだ……。
◇ ◇ ◇
「……さあ……ゴミ掃除を始めるか……」
そう呟いた黒騎士レナンは、ギナル皇都カナートの中心にそびえ立つ皇城前に居た。
そんな彼の後ろにはAIのオニルが操るドロイドと、二体のリベリオン……そして何故か、ギナル皇国の将軍ラザレと、その部下で女性騎士のネビルが付き従っている。
「……付いて来い、と言った覚えは無いが……?」
「お前が、エリザベート皇女殿下の元へ行くと言うのならば! 私も行動を共にする!」
「わ、私もです!」
自分に付いて来るラザレとネビルに向かい……レナンは呆れながら問うと、二人は力強く答えた。
「……バカ正直にも程がある……。皇女エリザベートは7年前に死んだと公式発表されているだろう? 前皇帝アドニアの崩御と共にな……。俺がお前達を謀っているとは思わんのか?」
「……確かに信じ難い話だが……一人で皇国と戦えるお前が、そんな下らない嘘を付く理由が無い。お前がその気になれば……この皇城ごとユリオネス皇帝を殺せる筈……。そんな存在が、エリザベート皇女殿下の名を出し私達を騙して何になる?」
レナンに煽れられたラザレ達だったが、対するラザレは迷い無く答える。
「正解です、マスターの力なら 6%の解放率で、この城を粉砕出来ます。無教養のアステア原住民の割に鋭い推察です。一度試されますか、マスター?」
そんなラザレの答えにAIのオニルは、またも物騒な事を言い出したがレナンは無視した。
「……その丸い奴の言う通り、黒騎士……お前にはその力がある。そして時間が無いと言いながら……皇城を破壊せず、回りくどい戦いをする理由が……エリザベート皇女殿下御存命の証。そう言う事だな?」
「…………」
ラザレの確信に満ちた問いに、黒騎士レナンは黙して答えなかった……。
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