302)ギナル皇国侵略戦-15(黒騎士の敵)
自ら支配していた筈のゴウライヒヒによって、貪り喰われる異端審問官のヤマチ。
「……うっ!」
その様子を見た女性騎士ネビルは……吐き気をもよおし、口元を押えて顔をそむける。
そんなネビルに、傍に居たラザレが彼女を慌てて介抱した。
それを見ていた黒騎士レナンは……すっと、右手を上げて呟く。
「……マフティル」
レナンが小さく呟くと……最初にゴウライヒヒを貫いた大剣マフティルが、独りでに動いて浮き上がる。
「お前には悪いが……人の味を覚えた魔獣を生かす訳にいかない……許せ」
レナンは、ヤマチだったモノを貪り喰っているゴウライヒヒに向けて呟くと……浮いていた大剣マフティルが、恐るべき速さで飛び立った。
そして……。
“ザイン!!”
レナンの意志を受けた大剣マフティルは、矢より速く飛び最後に残ったゴウライヒヒの首を刎ねる。
“フォン!”
そして、魔獣の首を刎ねた大剣マフティルは音を立てて、弧を描いて飛び……。
“ガシィ!”
挙げていた黒騎士レナンの右手に自動的に収まった。次いで彼は、掴んだ大剣マフティルの血を掃った後に呟く。
「……収納……」
すると……大剣マフティルは、突然生じた黒い穴に吸い込まれ消え去った。
この場での戦闘が終了した為、レナンが亜空間に大剣マフティルを収納したのだ。
そんな黒騎士レナンに対し、二体のリベリオンは跪くと……レナンはリベリオン達の頭を大切そうに撫でる。
リベリオン達は大きな犬の様に喜び、頭を彼にすり寄せている。
その様子から……兄弟や従者と言うより、飼い主とペットの関係の様だ。
黒騎士とリベリオンの周りは……大量のゴウライヒヒと、ヤマチの血肉が撒かれた凄惨な場だった。
にも関わらず……恐ろしげな黒き鎧を纏う黒騎士の前に、巨大な白き龍が2体跪きながら、じゃれる姿は……何処か現実離れした絵の様だった。
白き神を殺したと言う強大な黒騎士と、磨獣を殲滅した恐ろしい白い龍……。
どちらも侮る事など出来ない、恐るべき相手で在る筈だったが……女性騎士ネビルの目には、黒騎士と跪く白き龍の姿が……どこか美しい様に思えたのだった。
(……黒騎士……皇国を滅ぼさんとする敵……そんな黒騎士の前に跪く白き龍……。どちらも、恐ろしい存在だけど……この様が美しいと、私は思ってしまった……。
何故……黒騎士は、私と閣下を助けたのだろう……。そして、私を助けてくれた時……呟いていた“彼女達”って誰の事かしら……?)
ネビルは黒騎士と白き龍の姿を見ながら、そんな事を考える。
ゴウライヒヒにネビルが喰われそうになった時、助けてくれた黒騎士は……戦いながら“彼女達”について小さく呟いていた。
あの時、黒騎士の足元に居たネビルは、彼の呟きをしっかりと聞いたのだ。
その“彼女達”が、誰の事を示すのかネビルには分らなかったが……兜で素顔の見えない黒騎士の声色が、“彼女達”について語った時……戦いの最中にも関わらず、穏やかで優しげに聞こえた。
その呟いた内容も……ネビルには、ここには居ない“彼女達”に対する黒騎士の深い敬愛が感じられたのだ。
(……黒騎士……彼とは……話し合う事が出来るかも知れない……)
女性騎士ネビルが、そんな事を考えている内に……黒騎士レナンは二体のリベリオンを引き連れて、ラザレとネビルの前に立った。
ラザレとネビルは、AIのオニルが展開した光の障壁の中に入ったままだった。
ラザレ達の前に立った黒騎士レナンは一言も話さなかったが、 ネビルが足を痛めている様子を見ると、右手をそっと前に出し呟く。
「……癒されよ……」
レナンが一言呟くと、ラザレとネビルは癒しの光に包まれ……瞬く間に2人の傷は回復した。
「す、凄い……!」
「……何故……敵である筈の私達を助け……回復までする……?」
詠唱も行わず強力な回復魔法を施したレナンに……ネビルは素直に驚嘆し、ラザレは静かに問うた。
「……敵……? 何の脅威にもならんお前達が? 笑わせるな……。何より俺の敵は最初から、この星に居ない……。奴らは遥か高みから、この星に住む俺達を支配しようとする連中だ」
「遥か高みから? それに星とは何の事だ?」
問われたレナンは呆れた様に答えたが、ラザレは、彼の言う”星”の意味が分からず問い返す。
「……”この星”とは……この世界の事だ。真の敵は、此処とは違う世界から攻めて来ている。この皇国で白き神を自称していたゼペドも、奴らの仲間。だから、ゼペド達白き偽神を崇め奉る狂信者共も殺す。
先程の黒頭巾を被った男の様にな……。ゼペド達に盲信し、ロデリア侵攻を繰返した現皇帝ユリオネスも、その取巻き連中も全員始末する。……お前達もゼペド達や皇帝ユリオネスに付き従う、と言うのなら殺してやるが?」
ラザレ将軍に問われた黒騎士レナンは静かに答え、最後に逆に対し彼等に問うと……感極まった様子で女性騎士ネビルが叫ぶ。
「……こ、この皇国では! 白き神を無理にでも信仰しないと……拷問に掛けられ殺されてしまうのです……!
そうするしか生きていけない……それが、この皇国の現状なの! 誰もが皆、白き神なんて崇めたいなんて思っていない!」
「ネ、ネビル!? 落ち付くんだ!」
「閣下! 貴方様も妹君の親友を、無残に白き神に殺され! 強くお怒りだったではありませんか! しかも……! この皇国に尽くしてきた閣下すら、魔獣に襲わせる様な異端審問官の非道! 私は、もう耐えられません……!」
ネビルの叫びに、ラザレは諌めようとするが、彼女の怒りは収まらない。
尊敬するラザレが、異端審問官のヤマチに殺されそうになった事実に……抑えていた怒りが爆発した様だ。
「……どうやら……お前達は“身中の虫”と言った所か……」
「黒騎士様……私は皇国民として、貴方に聞きたい。白き神を倒したと言う貴方は……この皇国をどうする気ですか……?」
レナンはラザレとネビルの会話を聞いて、ゼペド達が敷いた現体制に、彼らが大きな不満を持っている事を理解し呟くと……女性騎士ネビルが、真剣な眼差しで彼に問う。
ネビルは黒騎士レナンが……恐ろしいが、話し合う事が出来る存在だと理解した。
だから、ネビルはストレートにレナンの目的を聞いたのだ。
「……先にも言ったが、この星は俺の敵に侵略されようとしている。ゼペド達がこの皇国を支配し……他国へ戦争を仕掛けていたのはその為だ。
奴らは、この世界に住むお前達の事など、家畜程度にしか思っていない。実際……ゼペド達白き偽神共は……お前達をその様に扱っただろう?」
「……確かに……確かに、白き神を名乗っていた神々は……私達を気分次第で殺し……皇都を破壊して……各国への戦争を強制した……。反発する者は悉く(ことごとく)白き神達の手先である異端審問官が処刑し、先脳される……。それがこの皇国の現状だ」
レナンの言葉に、ラザレが悔しそうな顔を浮かべて呟くのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は12/29(水)投降予定です、宜しくお願いします!