301)ギナル皇国侵略戦-14(応報)
異端審問官のヤマチが操るワイヤーで縛られた挙句、豪炎の魔法で燃やされた黒騎士レナン。
しかし、レナンを焼く燃え盛る豪炎は……一瞬の内に消え去った。
消えた豪炎の中から現れた黒騎士レナンは熱さで苦しむ様子も見せず、気だるそうに立っていた。
プスプスと煙を上げる黒き鎧は何の損傷もなく、炎に包まれていたレナンには全くダメージを受けていない。
彼の黒き鎧に宿る半透明の宝石が、全て淡く光っている事より……炎は全てエーテルに還元されて鎧に吸収された様だ。
次いで黒騎士レナンは自身を縛っていた、ヤマチのワイヤーをブチブチと難なく引き千切る。
簡単に拘束を解いた事よりレナンは、いつでも脱出出来た様だ。
「そ、そんな馬鹿な!? もう一度やってやる……!」
ヤマチは危機を簡単に脱したレナンに驚き、再度ワイヤーを操ろうとしたが……。
“ビュル!!”
逆にヤマチ自身がワイヤーによって、雁字も弱め(がんじがらめ)に縛られる。
「ぐ、ぐう!? な、なぜ! この俺が!?」
自分がワイヤーに縛られたヤマチは驚いて叫ぶ。 かなりの力で縛り付けられている為か、体のアチコチより血が滲んでいる。
ヤマチが縛られたワイヤーにより、もがく中……。
「お前は、ゲスなゼペドより与えられた……そのワイヤーで多くの者を縛り上げ、屠ってきた様だが……自分自身が縛られるのは、どんな気持ちだ?」
黒騎士レナンが右手を前に差し出しながら、低い声でヤマチに問う。
「お、お前が!この聖物を操っているとでも!? 聖物は白き神への深い信仰心が在ってこそ自在に扱える筈……! 神の敵である貴様如きが扱える訳がない!!」
「……何も知らんとは、滑稽を通り越して哀れだな……。オニル、真実を教えてやれ……」
縛られながらヤマチは叫ぶが、黒騎士レナンは下らなそうに呟く。
なお、不思議な事だが、ヤマチの横に立つ最後のゴウライヒヒは何故か……レナンに襲って来ようともせず、呆けた様に何もせず突立っていた。
そんな中、レナンに指示されたAIのオニルは静かに話しだす。
「はい、マスター。それでは知識の無い貴方に指導させて頂きます。貴方を拘束している、そのワイヤーは……現在、マスターの精神感応力で操作しておられます。
ちなみに、精神感応力とは意志力でエーテルを変容させ現象化させる力です。アステア原住民である、貴方達が使う魔法の事ですね……。
貴方がゼペドより与えられた、そのワイヤーは精神感能力を伝達・増幅する金属であるオウリハルク製の単分子ワイヤーですが……精神感応力を受ける事で各種操作が出来る様にナノレベルで設計されています。
もっとも……このアステア原住民である貴方達は、生来微弱な精神感応力しか扱う事が出来ません。その為に貴方達は術式などを構築して魔法と言う形でエーテルを現象化させていますが、元々の素質が無い為……貴方達が扱う魔法は大した効果を発揮出来ません。
従ってオウリハルク製とは言え……貴方達アステア原住民では、単分子ワイヤーを手足の様に動かす事は通常は不可能です」
「そ、その丸い奴の言う事は、さっぱり意味が分らんが!! 普通の人間には扱えん事はそいつの言う通りだ! だからこそ白き神の信仰心が……!」
「それは違います」
難解なオニルの言葉は、レナン以外の人間には理解出来なかったが、ヤマチは"不可能"と言われた事を、自分に取って都合の良い様に解釈した。
しかしオニルがヤマチの叫びを遮り、冷淡な説明を続ける。
「……貴方が、その単分子ワイヤーの操作が出来るのは……貴方の大脳前頭葉部に外科的に埋め込まれた、オウリハルク製の増幅器によって精神感能力を高めている為です。
しかしながら……増幅器で高められているとは言え、素質の無いアステア原住民である貴方と……極めて高い精神感応力を持つヴリトであるマスターとでは隔絶した差があります。
ましてや、同じヴリトでも……矮小で凡庸なゼペドと異なり、マスターは超越した御力を持つ王位継承者で在らせられます。
そのマスターの御力の前では……貴方の精神感能力など、正に月と砂粒程の差となるでしょう。
そんなマスターが軽く意志を込めれば……アーマーによってマスターの御力のほとんどを常時封印しているとは言え……単分子ワイヤーが貴方の手を離れ、マスターが意のままに操作出来るのは道理です」
「う、嘘だ!! お、俺は! 白き神への篤い信仰心でこの力を得たのだ! は、背信者共が! 俺を迷わせようとしても無駄な事!! お前達は全て白き神の怒りにより滅び……」
「……黙れ」
“ギュルルル!!”
「おげえ!!」
淡々と冷たく事実を述べるオニルの言葉に、異端審問官のヤマチは受け入れる事が出来ず子供の様にわめき散らす。
そんなヤマチにレナンが一言呟くと、ワイヤーが更にヤマチを縛り付けた。
それによりヤマチの体にワイヤーが更に食い込み、血が吹き出て縛られた彼は悲鳴を上げる。
すると、ヤマチの横でじっとしていたゴウライヒヒが急に興奮して動き出し……血だらけの彼を両手で掴み持ち上げる。
「いぎゃあ!! バ、バカ者! お前の敵はアイツだ! 俺じゃない! は、早く俺を離せ!」
“グオオオ!!”
レナンにワイヤーで縛られた上に、ゴウライヒヒにワシ掴みされたヤマチは、悲鳴を上げながら魔獣に命令するが……全く言う事を聞かずヤマチを頭から噛み付こうとする。
「な、何故! 突然命令が聞かない!? 何故だ!」
「簡単な理由です……。その魔獣が身に付けているリング……それもオウリハルク製で出来ています。
そのリングを通じて貴方は精神感応力……貴方達流に言えば魔法の力で魔獣を操っていた訳ですが……。
マスターの御力により貴方の微弱な魔法力は、風前の灯の様に掻き消され……魔獣の支配力が消えた、と言う状況です。
貴方がその魔獣をもう一度操作したければ……マスターの魔法力を上回れば良いだけの事です。残念ながら、砂粒程度の貴方の力では全く不可能でしょうが……」
叫ぶヤマチにAIのオニルは冷淡に事実を伝える。
「偽神に縋り、与えられただけのカに酔い……弱者を陥れた、お前の末路が……その結果だ。どうせ、今まで自分も散々魔獣に他人を喰わせていたのだろう? 我が身で、その痛み……思い知れ」
「まっ! 待て! 待ってくれ! い、いやだ! 助け……! へげぇ!!」
“ボギィ!!”
冷たく言い放った黒騎士レナンに対し、ヤマチは命乞いをするが……その途中でゴウライヒヒに頭を噛み砕かれ絶命した。
人肉の味に酔った魔獣は、かつての主を容赦無く喰い散らかすのだった……。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は12/26(日)投稿予定です、宜しくお願いします!