300)ギナル皇国侵略戦-13(盲信者)
レナンが召喚した二体の白き龍リベリオン。 その内一体のリベリオンが、 爪と魔法で、レナンに襲い掛かって来たゴウライヒヒを 6体殲滅した。
対して、もう一体のリベリオンは、残っているゴウライヒヒと兵舎の屋根で異端審問官のヤマチを守るゴウライヒヒの郡れをじっと見た後、牙が生え揃う咢を開ける。
”キイイイン!!”
すると、途端にその咢に光が溢れ……リベリオンは咢に溢れた光を放った。
“キュン!!”
甲高い音と共に、リベリオンより放たれた光。
だが、その光はゴウライヒヒが居る方向に向けて放たれる事は無かった。何故か放たれた光は何も無い斜め上空に向けられる。
しかしリベリオンの咢より上空に向けた眩い光は無駄打ちでは無かった。
放たれた光は途中で10数の光に分かれ、弧を描いて点在するゴウライヒヒに正確に突き刺さる。
“ズビュン!”
逃げる事も避ける事も叶わず、リベリオンから放たれた光は、自動的に標的であるゴウライヒヒを追尾して貫いたのだ。
リベリオンの光に貫かれたゴウライヒヒは石になった様に固まっていたが……。
“ボボン!!”
光に貫かれた魔獣は大きな音と共に爆散して、粉微塵となってしまった。
リベリオンが放った光こそ……黒騎士レナンが、王都を蹂躙していた無数の黒き龍レギオンを一掃した滅びの光だ。
この光は、貴いた敵を分子レベルで崩壊させてしまう。レナンがロデリア王都での敗北とマリアベルの死により生み出した破滅の光……。
それをレナンはベルゥ達新生軍の侵略より青き星アステアを守る為に……この力をリベリオン達に与えたのだ。
尚、リベリオンは黒き龍レギオンの様な超高熱の破壊光線を放つ事も出来た。
その威力は、量産型レギオン等比較にならない程強力だが、この場ではレナンより街を破壊しない様命じられた為、広範囲を燃やし尽くす破壊光線を使わなかったのだ。
レナンは白き龍リベリオンを、黒き龍レギオンの強化版とする心算は最初から無かった。
だからこそ、自らの血を分け与え自分の力を惜しげも無く与えたのだった。
レナンとリベリオンにより、その場に居た大猿の魔獣ゴウライヒヒは一掃された。
「く、くそ……!」
異端審問官のヤマチは、有利だった筈の戦況を土台から黒騎士レナンにひっくり返され悔しそうに呟いた。
だが、先程レナンの攻撃で崩れた兵舎に生き埋めになっていたゴウライヒヒが、何体かガレキの山から脱出出来たのを見付けると、無言で兵舎の屋根から姿を消した。
「に、逃げた!?」
「……ヒドラの元へ行ったのか……?」
姿を消したヤマチを見て、障壁の中で守られている女性騎士のネビルが驚いた声を上げ、ラザレがそれに答えるが……。
「……いや……ここで逃げる位なら、救い様があるだろう。だが、奴らは狂っている」
ネビル達の言葉に、黒騎士レナンは独り言の様に呟く。
彼はギナル皇国侵攻に当たり、事前にAIのオニルから受けた圧縮学習で、皇国の現況を把握している。
その為にヤマチ達の様に、ゼペド等自称"白き神"への盲信する者の異常さは事前に理解していた。
そして、レナンの呟きの通り、盲信に狂っているヤマチは引きもせず、無駄な戦いを彼に挑んできた。
“グオオオ!!”
黒騎士レナンがラザレとネビルと話している際に、叫び声と同時に二体のゴウライヒヒが襲って来た。
兵舎が崩れた時に落下して姿が見えなかった為に、リベリオンの放った光から逃れる事が出来たのだろう。
第二形態となったレナンの放つ滅びの光より、リベリオンのそれは範囲も精度も彼には遠く及ばない様だ。
襲って来た二体のゴウライヒヒはレナンに掴み掛かる。
レナンはリベリオンを召喚した時点で、彼が纏う鎧のリミッターを再起動させていた。
リミッターを外して戦うと市街戦では被害が広がると判断した為だった。
リミッターを起動させた状態で、本来の力を大幅に制限していたが、レナンに取ってゴウライヒヒなど敵では無かった。
黒騎士レナンは難なく一体を殴り飛ばし、もう一体も投げて踏み付ける。
レナンに殴られたゴウライヒヒは、そのまま吹き飛んで兵舎の壁に激突した。
その魔獣は殴られた際に内臓を破壊されたのか……兵舎の壁に激突した後、口から大量に血を流して絶命している。
もう一体のゴウライヒヒでも投げられた時に大きなダメージを負った様で、レナンに踏み付けられているが、既に虫の息だ。
難なく二体のゴウライヒヒを無力化させた黒騎士レナン。そこに……。
“ビュルル!!”
レナンの死角より、細いワイヤーが飛来し彼の体を縛り付ける。
「……何だ?」
ワイヤーに縛り付けられたレナンが、うっとおしそうに呟く中……。
「……ようやく終わりが見えたな……」
ヤマチが兵舎の角より、一体のゴウライヒヒを連れて現われた。
ヤマチは右手を前に差し出しながら姿を見せた。彼の背後には細いワイヤーが幾重にも生物の様に、蠢いている。
どうやらヤマチが操っている様だ。
「どうだ、驚いたか……。これこそ俺が白き神より与えられし力……。自らの念じた通りに金属線を蛇が如く操れるのだ。しかも、この金属線も白き神より賜れ聖物! 決して切れず、刃物以上に鋭い!」
「ふん……笑せる。お前が振るう力は全て、他人から与えて貰ったモノばかり。それで浮かれて驕るとは……。見ていて恥しい限りだな……」
ワイヤーでレナンを縛り付けたヤマチは興奮しながら叫ぶが、対するレナンは心底下らなさそうに吐き捨てる。
自分がワイヤーで縛られている事など、一向に構わないと言った様子だ。
レナンの言葉を聞いたヤマチは激怒する。
「だ、だまれぇ!! 異端者が! 白き神より授かりし、この聖物に俺が魔法を駆使すれば! お前は終わりだ!」
“ゴゴゥ!!”
ヤマチの叫びの後、レナンは足元のゴウライヒヒと共に炎に包まれた。
「ははは! ざまあないわ! 白き神より与えられた力と聖物により底上げされた俺の魔法は、そこらの雑魚とは訳が違う! 異端者め、このまま燃え尽きろ!!」
黒騎士レナンはヤマチの魔法で豪火に包まれている。勢い良く上がる火を見ながらヤマチは悦に入って浮かれて叫ぶ。
火に包まれたレナンは誰が見ても絶望的な状況の筈だが、横に居るAIのオニルも、二体のリベリオンも慌てる様子も無い。まるで動くな、と指示を受けている様だ。
対してラザレとネビルは燃え続けている黒騎士レナンを……展開された障壁の中で、青い顏を浮かべ呆然を見つめていた。
「……次はお前達だ……数は随分減ったが、お前達を引き裂く事など簡単だ。何なら、この俺の力で殺してやろうか? あの黒騎士の様……」
“ボシュゥ!!”
そんな音と共にレナンを燃やしていた豪火が一瞬で消えたのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は12/22(水)投稿酔い手です、宜しくお願いします!