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296)ギナル皇国侵略戦-9(ネビルの覚悟)

黒騎士レナンとの一騎打ちを挑んだギナル皇国のギナル将軍だったが、全く黒騎士に敵わなかった。ラザレは決死の想いでレナンに斬り掛かる。



「うおおお!!」



 大声を上げながら剣を振り降ろすラザレ。持てる全ての力を使ったその剣は鋭く、大岩すら斬り裂けそうだったが今回は相手が悪かった。



 ラザレが放った必殺の一撃に、レナンは大剣マフティルで受ける。



 “ギイン!!”



 ラザレは両手でブロードソードで思い切り押し込むが、黒騎士レナンは片手で軽々と受けている。



 「ぬぅ!!」



 ラザレは剣を引いて仕切り直し、斬撃を繰り出す。そして、息も付く間も無く剣でレナンに向け斬り付けた。



 “キン! キン! ギキン!”



 ラザレはありとあらゆる角度から黒騎士レナンに剣を浴びせる。しかしレナンはまるで機械の如く冷静に全ての斬撃を大剣で防ぐ。


 凄まじいラザレの猛攻も、黒騎士レナンには全く通じない。



「おおお!!」



 ラザレはそれでも引かず、ブロードソードで上段斬りを放ったが……。



 “ガッ!!”



 黒騎士レナンは、ラザレのブロードソードを左手で掴み……。



 “ベキン!!”



 そのままブロードソードを握り潰した。鋭利で良く鍛えられたラザレの剣は、脆いガラス細工の様に砕ける。


「ば、馬鹿な!?」



 ブロードソードを刃身の根元から握り潰されたラザレは驚き呟く。


 もはや打つ手なしのラザレに対し、黒騎士レナンは待つ事も無く大剣を引き、突きの形で構える。



 するとレナンの大剣マフティルより甲高い音が鳴り響いた。



 “ギイイン!!”



 ラザレは音を響かせる大剣と、このタイミングで力を溜める様な構えを取った黒騎士レナンの挙動に、恐ろしい予感が走り……命掛けで横に転がり逃げる。



 すると……次の瞬間、レナンが大剣を突き出すと同時に、眩い光が剣先より放たれた。



 “ゴガガガアアン!!”



 黒騎士レナンが大剣マフティルより放った光は、ラザレの真横を貫通し光の軸線上にあった兵舎を轟音と共に貫き破壊した。



 必死に横に飛んで逃げたラザレが、起き上がって見ると……放たれた光は、彼の背後に建っている兵舎に5m程の大元を延々と開けて、兵舎の後ろにあった城壁も貫通させていた。



 黒騎士レナンが狙ったのであろうか……幸いにして光は少し上方に向かって放たれており、城壁のその向こう側に連なって城下町は屋根が少し抉られた程度だった。



 つい先程まで自分が立っていた場所に刻まれた破壊の痕跡に、ラザレが我を忘れて呆然と見つめていると……。



 「……チェックメイトだな」



 そんな黒騎士の低い声と共に、ラザレの首筋に大剣が当てられる。



 一騎打ちどころか……黒騎士レナンの攻撃に、ただ逃げ惑うしか無かったラザレ将軍は、自嘲気味に笑って手を上げるのだった。




  ◇ ◇ ◇




 黒騎士レナンに一騎打ちを挑んだラザレだったが……始まってみれば、ラザレの剣術は黒騎士に全く通じず、ブロードソードは黒騎士レナンに握り潰される。



 そして黒騎士はたった3回しか大剣を振るっておらず、その全てに対しラザレは打ち合う所か、逃げるしか無かった。



 そして黒騎士レナンによる最後の突きは、光を放ち……その光によってラザレの背後に建っていた兵舎は軒並み貫かれ、兵舎の後ろにそびえていた城壁も貫通する。


 なお、兵舎には兵達が詰めて居るが、幸いにしてラザレとか召集していた為に無人だった。



ラザレは黒騎士レナンが放った光による破壊に呆気に取られている間に、黒騎士より大剣を突き付けられ、何も出来ないまま勝負は決した。



 恥でしか無かった一騎打ちの結果に、ラザレは一切の言い訳も無く、黒騎士レナンに向かい呟く。




 「……殺せ……」



 ラザレとの言葉を受けたレナンは、ラザレの意志を組み取り、ひと思いに首を刎ねようと大剣を振り上げたが……。




 「ど、どうか! どうかお待ち下さい! この御方を殺すなら、この私が代わりに!!」


 

 覚悟を決めたラザレの首を刎ねようとした黒騎士レナンの前に、必死な形相で部下のネビルが両手を広げて立ち塞がる。


 

 「……一騎打ちを望んだのは、その男だ……。お前は、そこの男の死際を汚す心算か……?」


 「ネ、ネビル……! 退くんだ!」



 涙を浮かべてラザレを庇う女性騎士ネビルに、レナンは静かに問うと……庇われているラザレがネビルの行動を制止する。



ネビルの前に立つ黒騎士レナンは、恐ろしい敵……。ギナル皇国軍の大隊を単独で難なく蹴散らせる、大災害扱の脅威だ。


 ネビル一人では何の抑止力にもならず、無残に殺されるとラザレは恐怖したのだった。



 「……そこの男に……お前が命を掛ける価値が?」


 「は、はい!! このラザレ閣下こそ、この闇に覆れた皇国の光となる御方! この御方の為ならば、この命惜しくはありません!!」



 レナンが冷たく女性騎士のネビルに問うと、彼女は一切の迷い無く断言する。



 そして間髪入れず短剣を自分の首に当てた。


 短剣を当てたネビルの首筋からは血がにじんでいる。彼女は本気だった。



 「ネ、ネビル! よすんだ!!」



 本気で命を掛けているネビルを見て、ラザレは必死に彼女を制止する。


 対して黒騎士レナンは……目に涙を溜めながらも命掛けでラザレを守ろうとしているネビルをじっと見た後……すっと大剣マフティルを降ろした。



 「……お前の覚悟は受け取った……。その男とお前の命、今は預かっておこう……」


 「……え……?」



 大剣を下ろして小さく呟いた黒騎士に、驚いたのはネビルの方だった。


 人外の恐ろしい黒騎士に立ち塞がった彼女は、間違いなく自分が殺されると思い込んでいたからだ。



 黒騎士レナンの姿は正に恐ろしいの一言に尽きた。漆黒のその鎧は凶悪な棘が生え、金属の固まりの様な重厚感がある。


 兜には野太く頑強な一本角が刃の様に延びており、面当てには稲妻の様な目が赤く光る。


 凶悪そのものの、黒騎士の姿は……うら若い女性騎士ネビルにとっては、目にするだけで恐怖でどうにかなりそうだった。



 そんな黒騎士が自分を見逃した事が信じられず固まるネビル……。


 驚いて小さな声を洩らしたネビルを余所に、黒騎士レナンは踵を返して皇城へと向かうのだった……。




 ◇ ◇ ◇




 「ネ、ネビル!馬鹿なマネを! 殺される所だったんだぞ!?」


 「……閣下……か、勝手な事をして申し訳ありません……」



 去った黒騎士に構わず、ラザレは身を挺して彼を庇った部下である女性騎士ネビルを叱った。


 対するネビルは全身の力が抜けて、座り込み動けずにいる。今になって震えており、余程の覚悟と恐怖だった様だ。



 叱るラザレに彼女は小さな声で侘びるが、彼はそんなネビルの肩に手を置き礼を言う。



 「謝るのは私の方だ……不甲斐ない私の為に無茶をさせてしまったな。本当に済まなかった。そして、有難う……」


 「そ、そんな……! 閣下、どうか頭を上げて下さい!」




 頭を下げて礼を言うラザレに、部下のネビルは慌てて制止する。



 「……ネビル、君はどうか、ここに居てくれ。私は、奴を追わねば……!」


 「閣下……! それは余りに危険です! どうしても、と言うならば、この私も御共します!」



 ラザレは少し落ち付いた様子のネビルに待機する様に伝えると、彼女は拒否しラザレと共に黒騎士を追うと言う。



 そう力強く答えたネビルは、いつの間にか震えは止まり、その瞳は強い意志が込められていた。


 説得は困難と理解したラザレは、仕方なく彼女に伝える。



 「やれやれ君には困ったものだ……。仕方ない……同行を認めるが、さっきの様な無茶は止めてくれ」


 「は、はい!」



 互いにそう言いながら、ラザレとネビルは共に黒騎士レナンの後を追う。


 なお倒れた大隊の内……意識がある者達にラザレ達は各自応急処置を命じ、その場に待機する様指示した。




 黒騎士レナンを追って、皇城へ向かっていたラザレとネビルが、小さな広場に出た所……。

 


 

 「……漸く御出ましか、堕ちた将軍よ……」




 そんな野太い男の声がラザレとネビルの頭上から聞こえた……。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は12/8(水)投稿予定です、宜しくお願いします!

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