293)ギナル皇国侵略戦-6(圧倒)
城壁門から侵入してきた黒騎士レナンを、迎え撃つべくギナル兵を指揮して襲撃させたラザレ将軍。
しかし、黒騎士レナンは襲い掛かった大軍を空中から一瞬の内に撃破し、ゆっくりと舞い降りた。
既に50人近いギナル兵を無カ化した黒騎士レナンに、ギナル皇国のラザレ将軍は問う。
「黒騎士……恐るべき敵だ……。そう言えば思い出したぞ……。黒騎士とは、確か……ロデリアの英雄騎士だった筈……。ロデリアの国章を刻んだ、上に浮かぶ巨大な船が……そなたを連れて来たのか…… 黒騎士、そなたはロデリアの神に仕えし者だな?」
「上の船はラダ・マリー。この俺の船だ。そして、確かに我が名は黒騎士だが……英雄騎士だったのは先代の方だ。俺は先代の遺志を継ぎし者、故に黒騎士……。先代の縁在って、ロデリアと志を共にしているが……それ以上でも、それ以下ではない」
対して、答えたレナンの言葉は……ラザレに取って理解出来ない内容だった。
「……空を飛ぶ船が、そなた自身の物? あの様な人知を超えた代物は……このギナルでは全て、“神の聖物”とされ……神にしか扱えん……。それなのに、一体どう言う……?」
驚いて呟くラザレに、黒騎士レナンは……横に浮かぶAIオニルに、おどけて問う。
「……お前は“神の聖物”らしいぞ、オニル?」
「その認識であるならば……この私を含むラダ・マリーの正式な所有者である貴方様は、彼等に取って“神”にあたるのでしょう。そればかりか、このアステアのみならず、リネトアの全ては、グリアノス王家の王位継承者であるマスター、貴方に所有権があります。
にも拘らず、ここギナル皇国を支配していたゼペド達は、正式な所有権を持たない“不正使用者”……彼等ギナル兵達の呼称を適用するならば“偽神”ですね。そして王位継承者の貴方様こそが“真の神”と言う事になるでしょう」
「……笑えん冗談だ……馬鹿馬鹿しい」
AIオニルはレナンの冗談染みた問いに、捻りも何も無い事実を淡々と伝える。
対するレナンは、如何にも機械らしいオニルの答えに呆れながら呟いた。
「……その丸いのは……話せるのか……!? それに……“偽神”? “真の神”? そう言えば……このギナル皇国を支配する"白き神"はゼペドと名乗っていた……。一体、どう言う意味だ!?」
「余計な事を話し過ぎたな、オニル……。まぁ、良いだろう……。お前達が崇めていたゼペド達3人の自称、白き神は……俺が殺した」
奇怪なオニルに、ラザレは話せる事にも驚いたが……その話した内容が理解しがたく大声で問う。
対して黒騎士レナンは、不必要な情報を洩らしたAIオニルに舌打ちしながら、ラザレに事実を伝える。
「あ、ありえません! あ、あの神を倒すなど……!? それが出来るならば……!」
レナンの言葉に反応したのは、ラザレの部下で女性騎士のネビルだ。
彼女が信じられない、と思うのも当然だった。
それ程までにギナル皇国の人間にとっては……長らく支配していた、白き神ゼペド達の力は強大で圧倒的だった。
ゼペド達白き神自身が皇都を吹き飛ばす力を持ち……彼らが使う、黒き船エゼケルや無数の龍レギオンも、人知を超えた奇跡の技からなる物だ。
何をどうしても、抗う事も届く事もない存在……。だからこその、神だった。
神が求める事なら……ギナル皇国の人間は下を向いて、どんな事でも耐えるしか無い。
彼らの多くは考える事を放棄して……盲信的に白き神を信じて、崇めた。
または逆らって査問審査官に連行され、処刑されるか洗脳させられるしか無かった。
そんな絶対的な存在だった白き神を、黒騎士は倒したと話す。"信じられない"と言う思いより、ネビルは叫んだのだった。
「……お前達が納得しようが、しまいが……俺にはどうでも良い。だが……お前達の盲信が……ロデリアに何度も、仇なした事は許せぬ……。だからこそ……この国は一度滅びるべきだ……。ゲスな偽神の信仰と共にな……!」
ネビルの叫びに、黒騎士レナンは大剣を向けて答える。
「疑問は尽きないが、この場は任務を優先する! ネビル! 奴を止めるんだ!」
「は、はい! 閣下!」
大剣を構えた黒騎士レナンに対して、ラザレ将軍は部下のネビルに指示して彼女も応える。
「総員!! 持てる全ての力を行い、奴を倒せ!」
「「「「は!!」」」」
ラザレの指示を受け、残存しているギナル兵大隊がレナンに襲い掛かったのだった。
◇ ◇ ◇
総力を持って、黒騎士レナンに攻撃を開始したギナル兵達……。
しかし結果は全くの無駄だった。
ゆっくりと歩みながら皇城へと進むレナンに、ギナル兵達は彼を囲んで一斉に襲い掛かった。
対して黒騎士レナンは、大剣を振るう事すら必要なかった。
彼が思うだけで即座に、魔法現像を発動出来るからだ。
迫るギナル兵達、そしてその背後に控える兵士の頭上に、光が現われ……。
“ガカッ!!”
音と同時に光が走り、稲妻がギナル兵達に炸裂した。
襲って来たギナル兵だけで無く、その背後に構えていた兵士達の頭上に走った稲妻……。
レナンが対人戦の時に用いる雷刃だ。
その威力は下級魔法の為、受けた側は死ぬ確率は低いが、確実に意識を失う。
相手の命を奪わず意識を刈り取る目的で、レナンは良く使う。城壁門に侵入した際に、襲って来たギナル兵を倒したのもこの魔法だ。
だが……黒騎士となり、更に強くなった彼が放つ下級魔法の雷刃は、常識を度外視した有り得ない効力を持っていた。
黒騎士レナンが放った……この魔法の範囲は、何と300 名分に至った。
この雷刃は、下級故に詠唱後の発動も早いが、範囲は狭く一般的には一人にしか攻撃出来ない。
それを黒騎士レナンは、一度に300 名近いギナル兵に発動した。しかも……無詠唱で、一瞬の内に放ったのだ。
従って……襲って来たギナル兵も、背後に居た兵達も……合わして300 名近いギナル兵が一度に意識を失い倒せ込んだ。
“ドサササ!!”
ラザレ将軍が皇城の兵舎より連れ出したギナル兵大隊は……その半数以上が、今の黒騎士レナンによる攻撃で、意識を失い崩れ落ちる。
倒れた兵士達は広場や路上に転がって気絶し、ピクリとも動かない。
レナンは、どの系統の魔法を全て使えるが……この雷刃を使う事が多いのは、放った対象への損傷が少なく、致命傷になりにくいと言うだけの配慮だ。
同じ下級魔法でも、火炎下級魔法の火砕を雷刃の代わりに用いれば、この場は火の海になっていただろう。
しかも、放った魔法は……吸収して蓄積しているエーテルを使って発動した。
つまりはギナル兵が魔法で反撃する限り、その魔法をエーテルに転化して蓄積している為、レナンはこの魔法を無尽蔵に放つ事が出来るのだ。
全く本気を出す事も無く、相手を殺さない様に300名近いギナル兵達を、一瞬で倒した黒騎士レナン……。
彼は地に転がり動かないギナル兵達の上を……宙に浮かんでゆっくりと、飛び越えて進むのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は11/28(日)投稿予定です。宜しくお願いします!