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290)ギナル皇国侵略戦-3(苦悶の将軍)

 ギナル皇国へ侵略を開始した黒騎士のレナン。彼は付き添うAIオニルに、皇帝ユリオネスと彼の臣下を抹殺する旨を伝える。



 レナンは侵攻戦を始める前に、これから侵略すべき国々の情報を圧縮学習で、全て把握していた。


 従ってレナンの頭の中には、ギナル皇国侵略後、どう支配するかまでの筋書きが明確に画かれている。



 その為、彼は統治後に必要な人材確保の準備をAIオニルに指示するのだった。



 「それとは別に……手を打っておく必要がある。オニル……こいつの居場所を探しておいてくれ……。この皇都のどこかに居る筈……」


 「……はい、マスター。今……捜索対象の情報をテレパスにより受領しました……。なる程……"彼女"ですか……。生存していれば良いのですが……まずはサーチしてみましょう……」



 レナンの指示にオニルは、彼からのテレパスによる情報を見て納得した様に答える。



 そんな会話をオニルと交わしながら、レナンは皇城へ向かっていたが……皇城の城壁門より、ギナル皇国軍の兵士達が大量に押し寄せる。



 最初に逃げ去った兵士から、レナン襲撃の情報を聞いて集ったのだろう。



 「……おっと……客の様だ……。捜索は仕せたぞ、オニル。それと、皇帝ユリオネスと取巻きの臣下達を逃がさん様に、リベリオンを呼んでくれ」


 「はい、マスター」



 レナンの指示に、AIオニルは静かに答えたのだった。




  ◇  ◇  ◇




 「……見なよ、この腐った皇都に……ロデリアから、新しい神様が来てくれたよ……」




 黒騎士となったレナンが、ギナル皇国への侵攻を開始した直後……。




 一人のギナル皇国軍の将校が、空に浮かぶ白き美しい戦艦ラダ・マリーを見て、心底下らなそうに呟く。



 ギナル皇都に巨大な白い船が現れてから、皇都は騒然とした。そして警戒態勢に移行して、皇都民は住居に引きこもり、兵士達は外に出てラダ・マリーを監視している。


 そんな状態にも関わらず、この将校は現場に出ようともせず、気だるげに空に浮かぶラダ・マリーを見て皮肉を言うだけだ。



 「……ラザレ閣下……、お言葉には気を付けて下さい。皇帝陛下より賜った紅獅子将軍の名に傷が付きますわ」



 ラザレと呼ばれた男は、執務室の窓から見える戦艦ラダ・マリーを見て皮肉ると、側に居た彼の部下が、すぐさま注意してきた。



 閣下と呼ばれたラザレは、まだ若いが……優秀な軍人で、多くの功績を成した実績より、早くに将軍に任命された男だ。


 対して名を呼んだのは、美人だが生真面目な感じの女性で、彼の部下の様だ。


 ラザレは文武両道を体現しながら、義に厚く容姿も優れているという事で、民からも慕われている。



 戦艦ラダ・マリーの来襲と言う異常事態に、将軍として迅速に警戒体勢の指示を出したラザレだったが……現場に出向く心算は一向に無い様だった。



 立場上の仕事はするが、それ以上の事は……やる気にならない、そんな様子が彼の態度から見受けられた。



 そのラザレだったが、 ゼペド達白き神が支配する、ギナル皇国の現状に我慢ならない様子だ。



 「その名は……先のアドニア陛下より頂いた名だよ、ネビル……。今のユリオネス陛下では無い。ユリオネス陛下は、アドニア陛下の弟に当たる御方だが……ユリオネス陛下が即位してからは……この皇国はダメになる一方だ……。 いや……ユリオネス陛下を支配する"白き神"が、我々の前に現われてからだな……」


 「か、閣下……!」



 ラザレはネビルと呼んだ部下の言葉に自嘲気味に答えた後、今のギナル皇国を憂いて堂々とユリオネス皇帝と、皇帝を傀儡にしていた白き神を批判する。



 ラザレの言葉を聞いた部下のネビルは、青い顔をして強く制止の声を上げた。



 彼の部下ネビルは、魔法に長けた騎士でラザレに心酔し、忠義深く仕えている女性だった。



 ネビルの案ずる声に、ラザレは投げやり気味に答える。



 「構わないさ……何だったら異端審問官に通報にくれても良いよ……。 奴らは喜々として乗り込んで来るだろう! 何せ、いたぶり殺す理由が出来るのだから。

 それか、神から賜った頭のおかしくなる薬を飲まされ、狂乱した信徒にされるだけ……。そう、白き神の事しか考えられない犬にされるのさ! 可愛いそうなアンナみたいに……」


 「……閣下がそこまで白き神の事を恨む様になったのは……やはり、妹君のご友人のアンナ様の事があった為なのですね……」



 白き神が支配する、ギナル皇国の現状に対する批判が止まらないラザレ。



 ギナル皇国の要職に在る筈の彼が、ここまで明確に表立って現体制への批判を行う事など、今まで滅多に無い。


 ラザレの部下ネビルは……その理由を把握している様で、彼の心境を察し小さく呟く。



 ラザレが自らの立場をかえり見ず、強く怒るのには……とある少女の死に理由があった。


 その少女の名はアンナと言い、ラザレの妹であるルチアの親友だった。



 妹の友人と言う事もあり、ラザレ自身もアンナの事は昔から良く知っていた。アンナはルチア同様、ネビルに良く懐き……素直で優しい子だ。


 ラザレが話し掛けると、恥ずかしそうに照れながら笑うのが特徴的な少女だった。



 不幸の切っ掛けは……この皇国の暗部に、彼女の父親が触れてしまった事が始まりだ。



 アンナの父親は商売を営んでいたが、正義感が強く曲がった事が嫌いな男だった。



 その為……ギナル皇国を影から支配する、白き神に反感を持つ様になった。


 そして、娘の将来を想う余り……皇国の未来を悲観して、ユリオネス皇帝政権に対する反体制組織に影ながら組する事になる。



 しかし、その事が異端審問官に摘発され……アンナの父親と、母親は見せしめに処刑されてしまう。



 そして……一人残されたアンナも、異端審問を受けた結果……白き神より賜ったとされる霊薬を無理やり飲まされ……別人の様におかしくなった。



 報告を受けたラザレが妹のルチアと共に、アンナの元へ慌てて会いに行った時……全てが遅かった。


 

 恥かしがり屋で可愛らしかったアンナは、ボサボサの髪と半裸の状態で……隔離された一室に放り込まれていた。


 彼女は……口を開けてよだれを流しながら、恍惚とした顔を壁に向けたまま、微動だにせず、ブツブツと白き神への祈りを唱え続けていた。



 親友であるルチアと、アンナが慕っていた筈のラザレが、どれ程大声で呼び掛けても、アンナは見向きもせず……意味の無い祈りを唱え続けるだけだった。



 その後……アンナは白き神への貢ぎ物として贈られ……無残に弄ばれて、殺される。


 

 アンナの死により、ラザレの妹ルチアは心を病み……ベッドから出られなくなった。



 そんな事が在ってから、ラザレは自らの立場にも関わらず、白き神とユリオネス皇帝に不信を抱く様になったのだった。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は11/17(水)投稿予定です。宜しくお願いします!

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