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282)ラダ・マリー、其は黒騎士の翼


 「……さあ……孤独にして……長い……戦いの始まりだな……」


 「マスター、AIである私からすれば……マスターの選択は理解不能です……。 何故、勝率の低い選択を敢えて選ばれたのか……。ゲリラ戦を展開するにしてもこちらには数が少な過ぎます。

 新生軍がメルカヴァ級の大型艦で、大挙して侵攻して来た場合……こちらには打つ手がありません。消耗戦に持ち込む為、やはり……リベリオンを更に増産し、現地人を民兵として大量投与すべきです」




 白い船のブリッジに移動して来たレナンが一人呟くと、AIのオニルが現実的な提案を伝えた。




 今、レナンが居るのは……ギナル皇国の上空だ。白き船自体をステルス化して姿を消しており、地上からはこの船は認識できない。


 尚、この船は常時ステルス化とジャミングにより……アステア大気圏外に居る、ベルゥ達新生軍に把握できない様に設定されていた。




 オニルの無難で真っ当な提案に対し、レナンは静かに答える。



 「いいや……それには及ばない。この戦いにアステアの住民を巻き込むつもりは無いよ。リベリオンも、基本は都市防衛の為の存在だ。だから、俺達は単機での個別撃破を目指す」


 「ですが……同時に他方面からの侵攻を受けた場合……対処できません」


 「……それは、一番無いだろう……奴らは、リネトア本国で起きたと言う、レジスタンスとの大敗で動けない。オニル、お前のデータにも、この船は本来……本国の最前戦に向かう筈だった……と言うログがある。

今、奴らは動けない。だからこそ……今がアステア統一のチャンスだ。本国で戦っているレジスタンスと共闘したい所だが……彼らの意図が掴めない現状では、不注意に接触すべきじゃない。第2、第3のベルゥの様な侵略者になる可能性もある。

 とにかく今は、耐え忍んで力を蓄えるべきだ。アステアの統一後は、生産プラントを増産して戦力の増強を図る。俺は、その上で第3形態顕現の方法を探ろう……。当面はこの作戦で行く。分ったな、オニル?」


 「……はい、マスター。 全ては貴方の御心のままに」



 あくまでも不利な戦いを固持するレナンに、オニルは説得を諦め素直に従った。



 AIであるオニルは、主であるレナンの命令に、最終的には絶対逆らえない様に作られている。




 レナンはオニルの返答に頷き……目を閉じる。




 彼は今……自分を助ける為に……絶対的に不利な状況の中、ゼペド達に立ち塞がった、マリアベルの姿を想い起こしていた。



 そして彼女に付き従ったオリビア達の事も同時に……。


 あの時、マリアベルは絶対に逃げようとしなかった。自分が負けると分っていても、死ぬ事も理解していても……。



 だからこそ、レナンは……この戦いから逃げる訳にいかない。


 そしてマリアベルが守ろうとした者達を、この戦いに巻き込む訳にいかなかった。




 レナンは、今は居ない彼女達を想う。




 (マリアベル。そしてオリビア……リース……ナタリー……貴女達の事は、絶対忘れない。だから……見守っていてくれ、マリアベル……!)



 目を瞑りながら、レナンは胸に熱いものが込み上げてきて……思わず涙が零れそうになった。



 彼の脳裏に浮かんだのは、ソーニャと談笑するマリアベルの日常や、任務の為に、マリアベルやオリビア達と駆け抜けた日々だった。


 思い出に浮かぶマリアベルやオリビア達の姿は、凛々しく美しかった。




 そして……何よりマリアベルと過ごした時は……生涯何があっても絶対に色褪せる事は無いだろう、とレナンは想う。





 初めて出会ったアルテリアの街道での決闘、あの時レナンは、黒い鎧を纏ったままのマリアベルを男だと勘違いしてオジサン呼ばわりした事を思い出していた。



 王城で兜を外して、素顔を最初に見せたマリアベルの美しさに、レナンは衝撃を受けた事も思い返す。



 王城でソーニャと共に暮らすマリアベルは、やきもち焼きの癖に、大人ぶるが……その心は、亜人である彼女の特徴的な耳が、素直に表してくれた。そんな子供の様なマリアベルに随分と癒された事をレナンは忘れられない。



 巨獣ゴリアテの討伐任務で、不利な状況の中……指揮を執りながら、黒騎士として果敢に戦うマリアベルの姿は、勇敢で雄々しかった。

 その彼女に、あの日……不意打ちだったがキスをされた事は、レナンに取って衝撃的過ぎた。


 マリアベルと初めて夜を共にした、あの日……大人の筈な彼女は、自信無く震える繊細な幼い少女に見えた。

 何とかレナンを自分の全てを使ってでも、繋ぎ止めようとするマリアベルの姿は儚げだが、誰よりも美しく……何よりも愛しく思えたレナンは……彼女の気持ちを受け入れた。



 あの日のマリアベルを思い起こすと、彼女と出会う為にレナンは、生まれたのだと……レナンは確信する様になった。



 初めての夜を超えてから、毎夜の様にマリアベルと愛し合った日々……。毎夜マリアベルは、愚かで拙いレナンを、彼の咎ごとに包み込んで愛してくれた。


 そんな彼女にレナンは……どれ程の勇気と自信と愛を与えて貰ったのだろうか……。もう二度とマリアベルと愛し合えない現実が、レナンをどうしようもなく苦しめる。



 そして……マリアベルを失った、あの日……。



 叩き潰され、死に掛けていたレナンの元に現れたマリアベル。絶対勝てないゼペドに立ち向かった彼女だったが、死の間際にレナンを安心させる為に振り返って笑顔を見せた。


 その笑顔は……誇らしげで輝いて、何よりレナンに対する愛で溢れていた。




 その後、マリアベルは――




 そこまで思い返したレナンは、もはや冷静では居られなくなった。




 「ぐぅ……! うぅぅ……!」



 マリアベルと共に過ごした、波乱に満ちた素晴らしい日々を思い返したレナンは、彼女の死を思い出した瞬間……耐えられなくなって、膝を付き……嗚咽する。



 「……どうしましたか、マスター? ボディアーマーの強制強化効果が、身体に悪影響を与えているのでは?」



 そんなレナンを見たAIのオニルが、状況が分らず主に尋ねる。機械である故に、無神経で感情の無い声のお蔭で、レナンは冷静さを取り戻す。



 「……だ、大丈夫だ……」



 一言だけ、オニルに返したレナンだったが……また、涙が溢れそうになった。



 だが、ぐっと我慢して堪えた後……愛するマリアベルの姿を思い浮かべながら……たった今、決めた事をオニルに告げる。



 「……オニル……今より、この艦を……ラダ・マリーと名付ける。この瞬間から、オニル……お前は、このラダ・マリーのAIだ。その様に認識しろ」


 「……ラダ・マリー……。確か、ラダは古い地方の言語で……恩恵をもたらす聖霊を意味する言葉ですね……。マリーは、マリアベルの愛称ですか……。分かりました、ただ今より……本艦はエゼケル改め、ラダ・マリーと認識しました」



 「……ああ。……ラダ・マリーのAI、オニル。これよりギナル皇国への侵攻を開始する」


 「はい、マスター」



 レナンの強い意志が込められた声に、オニルは素直に従う。もうオニルにはレナンの考えに異を唱える事は無かった。



 彼の指示を受けたオニルは、白く美しい戦艦ラダ・マリーのステルスを解く。



 "ウォン!"



 すると……ギナル皇城の真上に、巨大で真白なラダ・マリーが空中に姿を見せた。



 地上では、ギナル皇国の民達が、空に浮かぶラダ・マリーを見て大声で叫んで狼狽している。



 レナンは、そんな様子をブリッジのモニターで確認しながら小さく呟く。



 「さあ……黒騎士のデビュー戦と行くか……。弱く愚かな俺だが……マリアベル、お前の代わりを何とかやって見るよ。だから……どうか、待っていてくれ」



 そう呟いたレナンは、凶悪な黒騎士の姿で……ギナル皇都の地上へと向かう。




 こうしてレナンは……与えられた白き勇者の名を捨て、今は亡きマリエベルの遺志を継ぎ……忌まわしい黒騎士となった。


 そして黒騎士の彼は、美しき船ラダ・マリーと共に……全てを守る為の過酷な戦いを始める事となる……。


いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は10/6(水)投稿予定です、宜しくお願いします!

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