276)白く輝く翼
レナンが強く力を求めるのは、ゼペド達に大敗してマリアべルを失った為だ。
彼女だけでは無い。オリビアやリースやナタリー達、白騎士隊や、王城に居た多勢の騎士や家臣達、何の罪も無い王都住民達……合わして40万人もの命が失われた。
もし……あの時、レナンにゼペド達を圧倒出来る力が有ったのなら……これ程の犠牲は出なかったかも知れない。
オリビア達白騎士や……何より、傍に居たマリアべルを失う事は無かった筈……。
そう思うとレナンは、力を得る為に立ち止まる事など出来なかった。
もはや絶対負ける訳にはいかない。オリビア達やマリアベルが守ってきた、この世界を守る為に。
だからこそ、今のレナンには力が必要だった。
そんなレナンが黒き鎧に望んだのは……纏うだけで、常に自分を鍛え強化し続ける事だった。
彼は更なる自分の強化を求めていた。だからこそ、オニルに指示して黒き鎧に、イレギュラーな強制強化が出来る機能を付けさせたのだ。
だがそれは常にレナンに激しい痛みを与え続け、縛り付ける事を意味していたが……その程度の事は、彼に取って何の問題も無かった。
マリアベルの遺志を継ぐ為にも、レナンは強く在り続ける必要があった。
その為、黒き鎧が与える痛みや苦しみなど、強くなる為には……幾らでも受ける覚悟だった。
父トルステインの想いが込められた大剣と、マリアべルの覚悟の象徴だった、黒き鎧を手に入れたレナンは……決意を改めて小さく呟く。
「……とり合えず……格好だけは準備出来たか……。それで、俺の血を分けた"兄弟"達は?」
「はい、マスター。全個体共に仕上がっています。彼らは、マスターのDNAを受け継いだ事で……レギオンを遥かに凌駕した戦闘力とエーテル発動能力、そして高度な知能を有しています」
「そうか……。船の方はどうか?」
「はい、マスター。つい先程、本艦の修復と改造は完了しております」
「……全ての準備は整った。それでは、戦いを始める事としよう……。オニル、俺の“兄弟“達を目醒めさせてくれ。そして、王都に居るラニ殿を呼んで欲しい……」
レナンはオニルに、そう指示すると恐ろしげな黒き鎧を纏ったまま、船のコックピットに向かった。
ラニとテレパシーで話す為だ。 彼女をメッセンジャーとして、在る者達を集わせ、戦いの始まりを告げるつもりだった。
そう……レナン一人と、ベルゥ達新生軍との孤独な戦いを……。
◇ ◇ ◇
「……ラニ様……また、レナンの声が聞こえたのですか……。それで、こんな朝方に……ここへ来いと……?」
「はい……白き勇者様は……私達に、この場へと集うように……指示されました」
「ラニ殿が言うのなら、間違いないだろう……。 白き勇者のレナン様が、ラニ殿に伝えた声の後……放ってくれた光で……この王都はとても助けられたし……」
ソーニャの問いにラニは、確信に満ちた声で静かに答える。共に居た、アルフレド王子もラニに同意した。
ソーニャ達は巫女のラニに呼び出され……夜が明けだした早朝にガレキと化した王城のある場所に来ている。
そこは崩れた為に空が広く見渡せる広間で……上階は無くなってしまったが、床や下階は倒壊を免れていた。
この広間に呼び出されたのは……ソーニャとアルフレド王子、そして生き残った白騎士隊3人だ。
それ以外に、アルフレドの護衛騎士デューイが主を守る為に付いて来た。
なお……クマリは半壊した木漏れ日亭の方に、泣き過ぎて弱ったジョゼを休ませる為……リナと共に行っており、王城には居なかった。
ソーニャ達は、レナンの声を受けたと言うラニによって……ここに連れて来られたのだ。
崩れた王城に、しかも早朝の急な呼び出しに皆は、戸惑ったが……アルフレド王子の強い意志で全員従った。
アルフレドにしてみれば、王都を滅亡から救ったレナンの声ならば、どんな事でも聞くつもりだった。
「……来たはいいが……何が始まると言うんだ? レナンの奴め……あれから姿を見せず……一体、何をしている……。ラニ殿……奴は、本当にここに来るのか……?」
朝早くから連れて来られた白騎士のレニータが、少しイライラしながらラニに問う。
朝が弱い彼女は、少しご機嫌斜めな様だ。
「はい、レニータ様……白き勇者様は、確かに……この場所を指定されました」
レニータの問いに、ラニが答えた時だった。
「お、おい! アレを見ろ!」
デューイが空の一点を指で示し叫んだ。 彼の叫びに、その場に居た皆が科された方向を見ると……。
白い巨大な物体が、ゆっくりと空を飛び……こちらへ向かっているのが見えた。
全長400m程もあるそれは……美しい流線形の形状の長大な船だった。
船首は鋭利に尖り、船体は船尾に向け栝れたカーブを描いている。
船尾は4つに分かれおり、それぞれが羽の様な複雑な形状をしていた。
不思議な構造をしたその巨大な船は真白に輝き、とても美しい。
その美しい船には、更に変わった特長があった。
厚肉の巨大な翼の様な機関が、船の左右を覆う様に浮かび……独立して白い船に寄り添って飛んでいたのだ。
この不思議で美しい船を見た者は……まさか、これが王都を破壊尽くした万能戦艦エゼケルが元になっているとは、夢にも思わないだろう。
この白く美しい船こそ、リネトアの知識を得たレナンが、アステアの星に点在していた32基の自動生産プラントを全てエリワ湖に集め、そして……エぜケルを改修して造り上げた船だった。
その船は、ソーニャ達の待つ天井の無い広間の真上に、ピタリと停止したのだった。
◇ ◇ ◇
「……推進機関停止……到着しました、マスター」
「ああ……皆、集まっている様だな……」
白く美しい船のブリッジの中、白色で構成されたその空間は、リング状の巨大なスクリーンが支配する先進的な場所だった。
その広いブリッジの中央に置かれた、丸いコックピットに座しているレナンは、眼前にポップUPされた画像に映るソーニャ達の姿を見て呟く。
画面上のソーニャ達は、巨大なこの船を見て驚き慌てている様子だ。
「……ソーニャ……何とか、元気そうだ……」
レナンはソーニャ達の驚く顔を見て、クスリと笑いながら立上がった。
今の彼は黒いボディスーツを着ている。筋骨隆々となった彼の肉体を表わす、そのスーツは……肩と腰に金属性のパーツが嵌め込まれていた。
スーツの表面には線状の光りが走る不思議な形状だ。そのスーツを着るレナンの首には、真黒首輪が巻かれている。
そんなレナンに寄り沿う様に、オニルのアバターが近寄る。そのアバターは丸いタツノオトシゴの様は奇妙な形状だ。
「……オニル……地上に降りるぞ。兄弟達に声を掛けろ」
「はい、マスター」
レナンの声にオニルは従い、彼等はブリッジを後にするのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は9/15(水)投稿予定です、宜しくお願いします!
追)一部見直しました