275)黒き鎧
治療を終えたレナンにAIのオニルが、大剣と鎧を彼に献上する。最初に大剣を確認したレナンに、オニルは次いで声を掛けた。
「それと……ボディアーマーですが」
大剣の仕上がりに納得して呟くレナンにオニルは、もう一つ……浮いている黒い首輪を示した。
それは……ボディアーマーと言う割には、あまりにも様相が異なる。
だがレナンは疑問に思う様子も無く、その黒い首輪を左手で掴み……迷う事なく、そのまま首に嵌めた。
"カキン!!"
レナンの太くなった首に、その真黒い首輪は隙間無く装着された。
「……サイズ的に問題は無いようですね……。マスターは強制強化により、筋組織は大幅に肥大化し、身長も20%程伸びましたので……」
「そうか……? 自分では自覚が無いが……でも、確かに腕は別人の様に太くなったな。それに、足や胸の筋肉も太く、ぶ厚くなったみたいだ。たった一週間程度で、ここまで変わるとは……」
首輪を巻いたレナンの肉体をオニルが観察しながら状況を伝えると、彼も自分の手足や体を見て感心して呟く。
レナンは知らなかったが……彼の身長は頭一つ程伸びて、筋組織が大幅に発達し、肉体は筋骨隆々となった。
その姿は、少年から大人の逞しい男へと成長していた。
「イレギュラーとは言え、強制強化プログラムは強力な負荷を外部と内部より与えながら、同時に特殊なエネルギーを加える事で強制的に肉体を鍛え成長させる事が出来ます。
同時に注入したナノマシンにより、筋力を大幅に強化しており……肉体が損傷を負ったとしても、内部のナノマシンが治療を行います。その他……戦闘技術についても、新たに追加で圧縮学習を行いました」
「……なる程、あのゼペドとか言う奴らも……同じ技術で強化されていた訳だな……。あんなゲスでも強かった筈だ」
「王族であるマスターの戦闘力は、彼らリネトア正規兵を遥かに凌駕しています。 その上で、今回の強制強化で更なる戦闘力の向上が図れました。もはや、正規兵ではマスターには到底及びません」
「……まだ、全然足りないさ……。俺は、もう負ける訳にいかないのだから……。所で、鎧には例の機能を?」
オニルの分析に、レナンは満足する事なく呟き、問い返す。
「はい、マスター。そのボディアーマーの操作方法は……圧縮学習で既に、マスターはご存知の筈です。アーマーの機能をお試し下さい」
「……ああ……着装……」
オニルに促されたレナンが一言呟く。すると……。
“ヴオン!”
低い音と共に、黒い首輪より粒子が影の様に現われ、一瞬でレナンを包む。
そして……一秒も経たない内に、レナンは真黒く恐ろしげな鎧を纏っていた。
筋骨隆々となったレナンを一瞬で包んだ……その漆黒の鎧は、両肩に大きな肩当てが胸を覆うに装着され、肩当てには巻がりくねった棘が夫を突く様に生えていた。
手甲も足甲も鋼鉄の固まりの様な頑強な作りで、肩当と同様に恐ろしげな棘が生えている。
その形状は、マリアベルが纏っていた鎧に良く似ていた。だが、レナンの鎧は……彼女が纏っていたものより、更に恐怖を感じさせる形状で重厚感がある。
何より違うのは、その兜だ……。
第二形態のレナンで在る事を示すかの様な……野太く凶悪な角が刃の様に前に伸び、面当ての部位は吊り上がった稲妻の様な目が赤く光っていた。
右手に持つ、マフティルから作られた大剣も……漆黒の鎧と連動している様で、目醒めたかのように刃心に赤い光が走る。
レナンが纏う黒鎧は、良く見れば複雑な形状のプレートが幾重にも重なって作られており、精緻な構造をしている。
そしてオド器官がある首元と、両手両足の中には……半透明の黒い宝石がはめ込まれていた。
凶悪で圧倒的な存在感を持つ黒騎士となったレナン……。
その姿は一目見て死と恐怖を感じさせるものだった。
「……どうですか、マスター? 要求された仕様では……装備するだけで、マスターのエーテルを奪い続け、常に強制強化状態となる様に設計されていますが……上手く機能していますか?」
「あ、ああ……全身を貫く様な……この痛み……治療ポッド内で受けた……強制強化と同じだ……。それに……生気を奪われる様な……これが、そうか……」
「はい、このボディアーマーは通常時には、マスターのご要望通り……常にイレギュラーな強制強化プログラムを履行し続け、マスターの肉体に強固な負荷を与えます。
専用の履行装置では無い為、効果は専用装置より低下しますが、利点として生涯寿命に悪影響はありません。しかし、副作用の強い痛みは常に生じる事となります。
尚、強制強化プログラムの常時履行と併行して……アーマーの機能により、マスターのオド器官を通じエーテルを強制的に奪い続け、ボディアーマー内に蓄積します。
こうして、マスターの要求事項通り、ボディアーマーの通常着用時は、恒久的に……マスターの肉体とオド器官の強化を行います。
ですが、例えば戦闘時等で……マスターが望めば蓄積したエーテルを転化して、爆発的な戦闘力向上を図れるパワードスーツとして機能します。なお、必要に応じ……障壁の展開も可能です。その戦闘形態への切替はマスターがテレパスで、指示を与えばいつでも瞬時に切替可能です。
また……マスターのご要望通り、エーテルの強制吸収効果は外部からも行える為、戦闘時では……この効果を適用した戦術が使用できます。
具体的には……敵性対象のエーテルを強制的に奪って無力化する事や……エーテル力を利用した攻撃を吸収し無効果する事も可能です。
以上で簡単ではありますが、ボディアーマーの機能について説明を終了します。 ……マスターの要求事項は、設計上クリアされていると考えられますが、如何でしょうか?」
レナンの呟きに、オニルは淡々と鎧の設明を行った。
「……上出来だ……。良くやった、オニル」
オニルの設明を受けた、レナンは満足そうに答えた。
「ありがとうございます、マスター。ですがAIである私には理解出来ません。第二覚醒状態となれる、今のマスターには……ボディアーマーによる常時強化など、行う必要は無いのでは?」
「……俺はこの前に部分覚醒した右手の力だけを頼り……結果、大敗して全て失った……。だからこそ、出来る事は全部やって……もっと強くなりたいんだ……。弱かった俺の所為で、死んだマリアベルに報いる為にな」
AIであるオニルの問いに、レナンは後悔と共に強い決意を持って答えたのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は9/12(日)投稿予定です、宜しくお願いします!