272)黒き異形より白き輝きへ
レナンが治療ポッドの中で……イレギュラーな強制強化プログラムの激痛に耐える中……。
エリワ湖の底に横たわる中級万能戦艦エゼケルと、周りに配置された32基の自動生産プラントに、大きな変化が始まる。
エゼケルを中心として……2重の同心円状に配置された、全ての自動生産プラントが全て光り出す。
そして……プラントの頂上部に稲妻と共に、5m位の光球が現われた。その光球から光が左右に延び始める。
それは32基全ての自動生産プラントに及び、互いの光はプラント同士を結んだ。
丁度、2重の光の輪がエセ"ケルを囲む形だ。
そのエゼケルも湖底に横たわっていたが……ゆっくりと浮き上がり……船頭部を湖面に向け、垂直に起き上がる形で静止した。
真っ青ぐに止まった、エゼケルは2重の光の輪の中心に留まっている。
"バチバチ"バチ!!"
稲妻がほとばしる様な音と共に、エゼケルを中心に半球状の光の壁が発生する。
不思議な事だが、光の壁の内側には水が無く、半球のドーム内には空気が満たされた。
光の壁が生み出した半球のドームの内側で、垂直に浮かぶエゼケル。
やがて32基の自動生産プラント頂上部の光球より、黒い霧の様な粒子が現われ……中に浮かぶエゼケルを覆う。
そして黒い霧は巨大なエゼケルを、すっぽりと覆い尽くすと……霧に包まれたエゼケルの外装甲が独りでに外れ、解体が始まった。
同時に解体された外装中に黒い霧が纏わり付く。すると解体されたパーツは、徐々に先程とは違う形状となって再生されていく。
真っ黒だった、そのパーツは再生されながら……輝やく様な純白へと色を変える。
レナンがオニルに伝えた、新しい姿へとエゼケルを変える為に……。
彼が指示した戦艦エゼケルの新しいデザインは……圧縮学習に際に見た夢から得られていた。
あの映像の中で……人工惑星より飛び立とうとしていた、白く美しい宇宙船……。レナンはその船を一目見て衝撃を受けたのだ。
その船は輝く様な純白で、洗練された流線形の形状をしており、今の黒く醜いエゼケルとは真逆の形状だ。
人工惑星の周りを飛ぶ宇宙船は無数に見られたが……レナンは、その白く輝く船に目を奪われたのだった。
あの見た映像が、唯の夢では無く……実際に起きた大古の記録映像だと、レナンは確信していた。
映像によれば……突如生まれた混沌の怪物によって、引き起こされた大災厄……それより逃がれる事が出来たのは、人工の月リネトアだけだ。
その他……沢山の衛星も、無数の巨大な船も、繁栄を極めた人工の惑星も……。そして、あの美しい白い船も、全て滅んでしまった。
だからこそレナンは、白く輝く精緻な宇宙船を復活させたかったのだ。
そんなレナンの強い意志を受け……中級万能戦艦エゼケルは、32基の自動生成プラントによって……生まれ変わっていく。
王都に破壊をもたらした黒く異形で恐ろしげな、今のエゼケルの姿から……あの白く美しく輝いていた大古の船へと。
こうして中級万能戦艦エゼケルの大改造が始まったのだ。
◇ ◇ ◇
「ゴボ! ゴボボ!」
治療ポッドの中で、治療と共に……無茶な強制強化プログラムを同時に行なっている、レナンが痛みに苦しみ口より大量の息を吐いて悶える。
(ぐう! ……聞いてはいたが、これ程の……痛みとは……くっ! ……だが、分る……、急激に強くなっている事が……)
“はい、マスター。イレギュラーな強制強化でしたが……その効果には、影響が無かった模様です。但し重大な仮懸念事項と大きな副作用がマスターに生じる事となりましたが……いずれにせよ、強制強化プログラムにより……マスターの筋力や骨格も強化され、オド器官も大幅に強化されます。
このプログラムにより、マスターの身長や体格も大きく変わる事になると予想されます。あくまでもイメージではありますが……マスターの体は、急激に成長している様な事だと考えて下さい。
然しながら……重大な懸念事項徒念事故と副作用については、強制強化に見合う内容とは考えられず、放置すべき問題ではありません。マスター、イレギュラーな強制強化プログラムを今すぐ中止しますか?”
(うう……不要だ……。今より強くなれるなら……寿命や痛みなど……大した問題では無い。 あぐ! プログラムは止めるな……。そ、それより……艦の改造は……どんな、状況だ?)
オニルはイレギュラーな強制強化プログラムにより、レナンの生涯寿命の減少と、副作用の激しい痛みを傾念して、プログラムの中止を改めて問うた。
再三の推奨にも関わらず……レナンの意志は固く、変わる事が無かった。彼は自分自身への問題よりも、エゼケル改造状況について尋ねる。
“……はい、マスター。現状、マスターの提案通り……32基の自動生産プラントを直結連動させ、急ピッチで本艦の修復及び改造を進めております。その進行状況は……現在、45%の進捗率です”
(ふぐッ……わ、分った……所で、この艦の自動生産プラントは、稼動可能か?)
レナンの問いに、オニルは状況を冷静に伝える。対して彼はオニルの回答を聞いて……やろうとしていた"ある事"の為に続けて問う。
“はい、マスター。本艦の自動生産プラントは、既に修復を完了しております”
(なら……俺の血液を採取して、進めて欲しい事がある……。これが計画案だ)
オニルの答えに、レナンはテレパスで計画案を送る。
“……これは……マスター、本当にこの通りに進める……お考えですか?”
(ああ……構わないから、や、やってくれ……それと、これも頼む)
レナンの案を知ったAIのオニルは、その常識外れた案に……彼に問い返すが、レナンは構わず……更に次の案をオールに送る。
“……マスター、貴方の計画に……AIとして困乱します……。貴方達の表現を用いれば……”驚く“と言う言葉が適当でしょうか……。AIの私では提示する事が出来ない、数多くの計画……。これがAIオニルとしての限界かと、検証していましたがそれだけでは無い様です。
以前……本艦を不正使用していたメラフや……それ以前のマスターにも、この様な想定外の指示は与えられませんでした。マスター、貴方の指示を受ける事で、……AIである私は、更に進化を遂げるでしょう……“
(あぐ……! 無茶振り……させられ喜ぶとはな……。ククク……おかしなAIだ……。つっ……俺と主と認めるなら……全ての指示に従え)
“はい、マスター!”
AIオニルの喜ぶような回答を聞いたレナンは、痛みに耐えながら指示を下すと……オニルは力強く応えたのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は9/1(水)投稿予定です、宜しくお願いします!