270)救いの光
ラニより伝えられた、レナンからの救いの光。
その光の波は、そのまま王都を突き抜けたが……その後も、次から次へと段続的に立ち上る光の柱から、途切れる事なく放たれる。
“ヴオン! ヴオン! ヴオン!”
光の波はしばらくの間、低い音を立てながら続けて放出され……王都の民、全員がそれを浴びた。
“ヴオン ヴオン…… ヴ……ン……”
やがて……光の波は除々に収まる。
光を浴び続けた王都の民は、困乱して戸惑っていたが……有る事に気が付き、口々に叫び出す。
「!? キ……キズが……! 治っている!?」
「私の子も……酷い火傷だったのに……! ああ、神様……! 感謝します!」
「オレも……もうダメかと思ったが……」
「怪我だけじゃない! エーテルが、尽きたエーテルが……満たされている……! 回復魔法がまだ使えるぞ!」
「それに見ろ! 王都の火が……全て、消えている! 奇跡だ!!」
不可思議な光を浴びた住民達は、傷が癒え……体中にエーテルが漲った。 また、王都を焦していた火炎も全て、消え去ったのだ。
この光により……命を失い掛けていた者達は、生気を取り戻した。
また治療を行っていた魔法師達は尽きたエーテルが満たされ、回復魔法が再度使える様になった。
その様子をテントから出て見ていたソーニャ達は……。
「……こ、これが……! レナンの言っていた、救い……!?」
「あああ……! 凄い! 凄いです! 白き勇者の……レナン様!!」
次々に元気になった王都の住民達や、掻き消えた大火を見てソーニャやアルフレド王子は興奮して叫ぶ。
そんな中、レナンの声を伝えたラニは静かに話す。
「……いいえ……白き勇者様の救いは……まだ、終わりではありません……。詳しい事は分りませんが……この場所に、沢山の贈り物を送るとの事です」
「え……それは一体?」
ラニの言葉を聞いたアルフレドが問うた時……王城前の広場に、突然光の球が現われる。
“ヴン!”
低い音と共に現われた光の球は、あっと言う間に大きくなった後……、一際眩い光を放って消えた。
光が消えた後に現われたのは、山の様に積まれた……不思議なケースに入ってる、大量の食糧や水、薬品だ。
それらはレナンがエゼケルの機能を使って送らせた救援物資だった。
「何なの……コレは……?」
「み、見た事が無い入れ物に入っているけど……この透明な容器に入っているのは……水でしょうか? これも、白き勇者のレナン様が?」
突然現われた大量の救援物資に……ソーニャとアルフレドが驚き戸惑う。
「……だ、大丈夫です……白き勇者様が……私に、これらの使い方を……教えてくれました……。これは、変わった形をしていますが……食べ物や水、そして……お薬です。白き勇者様が言われるには……今の王都に必要な物を取り急ぎ用意したとの……お言葉です。……先程の活力を生む光や……この食べ物やお薬は、これからも続けて……お与えになるとの事です……」
ラニは……レナンから伝わった“声”より送られてきた救援物資について、ソーニャやアルフレド達に伝えた。
アルフレドは、直ぐに配下の者に指示を出し、与えられた救援物資を王都の民に分配させる。
配られた、大量の食糧や水、そして薬品は……王都の民に取って見慣れない形状であった為、戸惑いが生じたが……。
飢えや苦しみから逃れる為に、口にすると……食料や水は驚くほどの美味さであり、薬品は飲めば……傷や痛みが見る間に消える等、劇的な効果を見せた。
その様子を見た、王都の住民は……白き勇者の名の元に配られた、大量の救援物資に一斉に群がった。
こうして、エゼケルの力を使いこなすレナンは……王都の民に沢山の救いをもたらしたのだった。
◇ ◇ ◇
(……上手く……いった様だな……本当に良かった)
治療ポッドの中から……映し出された映像より、レナンは王都の様子を見て安堵した。
その映像は重傷を負った者達が完治し、喜び合う人々の状況や……奇妙な形状の食糧を恐る恐る口にする人々の状況を映している。
エゼケルから放たれた光は、周囲から集めた膨大なエーテルを用いた……極大全体回復魔法とも言える効果を持っていたのだ。
同時に光は……過剰とも言えるエーテルを放出する事で……枯渇した人々のエーテルを満たし、王都を焼く炎を冷却し消火する魔法効果を生む様に、調整されていた。
その光は、王都の民にとって大きな救いとなった。
同時にレナンが送った救援物資は、エゼケル内で生産された物資であったが、それらは……リネトアの超高度な科学力を元に生み出されていた。
救援物資の内、食糧は棒状の固形物であったが……生物にとって必要な重要栄養素やミネラルがバランスよく配合されており、これだけで一日に必要な栄養が得られる高い栄養価を持っていた。
又、救援物資の1つである薬品は小さなタブレット状だったが……この薬品には鎮痛剤や抗生物質の他に、治療用ナノマシンが含まれており……飲むだけで肉体の再生力を高め、ケガや病気の治療を行う事が出来た。
配布された救援物資も、始めて目にした者達には戸惑いがあった様だが……実際口にする事で大きな効果を体感し、王都の民達にとって喜び受け入れられた。
レナンは自分が指示して行った、緊急支援は成功した様子を見て……一安心すると共に、次の段階に移行する為の指示を行う。
(……オニル……このまま緊急支援を定期的に行え。それと……ラニ殿を介して、此方の状況を連絡しろ)
“はい、マスター。その旨対応いたします。然しながら……此方のテレパスが通じるのが彼女しか居ないのが、不効率と考えられますが”
(俺のテレパスを受信出来るのが、今の所ラニ殿しか居ない以上……仕方が無い事だ。ラニ殿は古くより存在する巫女の一族……。テレパスの受信感度が常人とは異なるのだろう。テレパスの受信役はラニ殿に頼むとして……、引き続き王都の緊急支援を継続しつつ、この艦の復旧と改造にすぐに取り掛ってくれ)
“はい、マスター。それでは……今よりアステア各地の自動生産プラントを、この地へ全て転移させる様に指示を送ります。……王位継承者権限を発動……支配権を上書きしました……”
レナンの指示を受けてオニルが答えた直後……アステア各地に設けられた、自動生産プラントが一斉に起動を始める。
……ここ、アルテリアの森奥地にある……黒い卵状の自動生産プラントもそうだ。
ティアが龍を追って王都へと飛び立った後、無人となったこの地で……巨大な黒い卵状の建造物は、突然全体を震わせ眩く音を立てて輝き出した。
“ギイイイイン!!”
甲高い音を立てて震えるそれは……頂上部に天使の輪の様な、巨大なリング状の光を生み出した。
そして……頂上部に光のリングを生み出した巨大な建造物は、ゆっくりと浮き上がり始めるのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! テンポが悪いので、この章は週二投稿で頑張って見ます。また元に戻るかもですが……。そんな訳で、次話は8/25(水)投稿予定です、宜しくお願いします!