269)悲嘆の都
崩壊した王都で救助活動をする中……どうにもならない状況を、アルフレド王子に詰め寄る家臣に対し……。
オロオロするばかりのアルフレド王子に代わり……大声を上げて明確な指示をするのは、仮面を被った特級冒険者であるクマリだ。
「……ああ……す、済まない……アンタの言う通りだ……」
彼女に指摘された家臣は、落ち着きを取り戻し、謝罪した。
クマリは自分が救った大勢の者達を引き連れ、王城前広場にやって来た。リナやジョゼ、パメラ達学園の生徒達もクマリに連れられて来た。
この危機に……沢山の者を救い、特級冒険者として格別の実力と経験を持つクマリの指示に、諌められた者達は素直に頭を下げ、彼女の指示に従うのだった。
「……無礼な言い方だが……殿下を助けてくれた事を、感謝する」
そんなクマリに、護衛騎士のデューイは礼を言う。対してクマリは答えず、続いて指示を飛ばした。
「レニータとベリンダ! 傷が治ったばかりの所、悪いけど……連中をフォローしてやってくれ! ルディナは引き続き治療を担当だ! パメラ達も手伝いな!」
「おおう……」
「……お前に指示されるのは癪だが……もっともな事だしな……従おう」
クマリに指示されたレニータとベリンダは、戸惑いながらも……彼女に従い動き出した。
レニータとベリンダの傷も深かったが、ルディナ達の治療により、やっと動ける様になった所だった。
白騎士の彼女達が素直にクマリに従うのは、彼女の決意を理解しているからだ。
冒険者として、好きに生きて来たクマリが……ガラにも無く、こんな事をしているのは……紛れも無くマリアベルの為だ。
死んでしまった彼女の代わりをクマリが……務めようとしている事を、レニータとベリンダ達には良く分っていた。
「……ありがとうね、クマリさん……。 それじゃパメラちゃん、手伝ってくれる?」
「は、はい! ルディナさん!」
「私も手伝います!」
「私も!」
ルディナはクマリに礼を言ってパメラに声を掛ける。パメラが元気良く答えると、彼女の友人達も、ルディナに応えた。
「……残るは……アンタ達だが……今は、仕方が無いね……。リナ、悪いけど……2人を見てやってくれ……」
「ああ……分ってる……」
クマリに促されたリナは、今だ遺体に縋り付いて、激しく泣く2人の少女を見て……悲しそうに呟く。
その2人の少女とは……ソーニャとジョゼだ。
ソーニャはマリアパルの遺体に、ジョゼは従姉のリースの亡骸に縋って泣き続けている。
2人は慕っていた者達の死を受け止められない様だ。
「……ここは踏ん張り所だよ……。マリちゃんだって、リースだって……あんた達に、いつまでも泣いて欲しい訳じゃないだろう。私は王都を見て……動けない奴が、他に居ないか見てくるよ」
「「…………」」
クマリは泣き続けるソーニャとジョゼに……優しく声を掛たが、彼女達は……遺体の前に縋り付いたまま、返事を返せない。
クマリは構わず、王城を出ようとしたが……。
「……ク、クマリさん……あ、あの……!」
「何だい、王子さん……?」
「うぐ ぐすっ! 色々……! 助けて頂いて……ありがとうございます……!」
「ふん……。マリちゃんの代わりをやってるだけだ。マリちゃんが居れば、絶対こうするだろうって事をさ。それと、此処に居ないバカ弟子と、レナン君の為にもね……。王子さん、アンタも辛いだろうけど……負けず、頑張るんだよ……!」
涙ぐみながら礼を言ってきた、アルフレド王子に……クマリは明るく答えながら、王城を後にする。
対してアルフレド王子は、去りゆく彼女の背中をずっと見送るのだった……。
◇ ◇ ◇
クマリが去ってからも、ずっとマリアベルの亡骸に縋って、泣き続けていたソーニャ……。
どれ程、泣いたか分らない程だったが……、ふと、レナンが一向に戻らない事を、今更ながらに気が付き……急に不安になって、幽鬼の様にフラフラと立ち上がる。
その様を……死んだリースに縋って、泣き続けていたジョゼが見て……か細い声で問う。
「……どうしたの……?」
「……レナンが……戻らない……」-
問うたジョゼに対し、ソーニャが呆然と呟いた時だった……。
そこに……フラフラと、汚れたローブを纏った幼い少女が広場に入ってきた。
その少女は 神託の巫女の一族であるラニだ。
彼女はおぼつかない足取りながらも、何とかソーニャの元へ真っ直ぐ向かう。
そして彼女の前に立ったラニは……。
「……白き勇者の妹君様……! 御声を聞きました……。白き勇者様の御声を……!」
ソーニャの前で、新たな巫女ラニは大声で叫ぶのだった。
◇ ◇ ◇
ソーニャの前で、叫んだラニ……。
それにより、悲しむばかりだったソーニャは……流石に落ち付きを取り戻して、ラニを連れ出す。
ちなみにラニは、アルフレド王子にも伝える事があると言い、彼もラニの所に呼ばれた。
ラニはテントの奥に連れられ、彼女の前には、ソーニャとアルフレドの2人が居た。
「……それでラニさん? でしたか……。貴女の事は、マリアベル姉様から聞いた事があります。ですが……こんな状況下で、いい加減な世迷い事を言えば……私は許しません」
ようやく落ち付いたソーニャが、ラニに厳しい目を向けて言うと……。
「待って下さい.ソーニャさん。彼女達巫女の事は信頼出来ると思います。ラニさんが訴えた破滅の神託は……謀らずも正しかった事が……証明されてしまいました。もっとも……父上は彼女達の話を、聞こうとはしませんでしたが……」
「……あ、ありがとう御座います……アルフレド殿下……。それでは、お話しさせて頂きます。白き……勇者様の声が突然聞こえたのは、先程の事です……。
私は、王城近くの避難所に居たのですが……あの方の声を聞いて……そして、その内容に驚き……何としてもお伝えせねば……と思い、ここまで来ました……」
アルフレドの言葉に、ラニは礼を言うと共に、自分の決意を語る。
「……ラニさん……私の所に来たのは、どうしてですか? それとレナンの声とは……?」
「はい……頭の中に聞こえた……白き勇者様の声は……どうやら、私にしか届かないみたいで、妹君の貴女様と……アルフレド殿下の元に、御身の声を伝えて欲しいと……。
それで白き勇者様が……御二人に伝えたい事とは……白き勇者様の、持てる最大の御力を使って……王都に救いをもたらすと……」
「え……どう言う、事でしょうか……?」
ラニの言葉に、ソーニャが問い返した。
「……詳しい事は……私にも分かりません……。ですが……白き勇者様は言われました。もうすぐ……異形の船と共に沈んだ、エリワ湖より……光を放つと……。それは……その光は……王都の民にとって……大きな救いの力になると……」
ラニがそう答えている時だった。突然暗がりの夕闇の中……眩い光が天に向かって真っ直ぐ立ち上る。
「……おい!? な、なんだアレは!?」
「あの方向……エリワ湖の方が!?」
テントの外側に居た者達が、光の立ち上ると見て……、口々に騒ぎ出す。
立ち上る光は、一層に輝き出し……そして――。
“カッ!!”
光は爆発した様に、眩く輝くと……天を突く光の柱を中心に、光の波が輪の様に広がり……王都を包み込んだのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は8/22(日)投稿予定です、宜しくお願いします!




