267)世界の真実
圧縮学習が完了し、強制睡眠で深く眠っていたレナンは、ゆっくりと目覚める。
治療ポッドの中で目覚めた彼に、AIのオニルが呼び掛けた。
"マスター……教育プログラムは、問題なく完了しました。 ご気分は如何ですか?"
オニルの問いにレナンは……。
(問題ない、オニル……不思議な気分だが……圧縮学習で与えられた知識に、全く違和感が無い。大体の状況が、これで理解出来た……)
“圧縮学習による教育プログラムは、確立された信頼度の高い技術です。失敗する確率は極めて低いと言えます"
上書きで知識を獲得したレナンは、違和感が無い事に戸惑うが、オニルは淡々と状況を伝えた。
(オニル……質問だ。教育プログラムの際中に見せた映像は何だ? 最後に見た青い惑星は、このアステアだと理解したが……)
“……情報検索中……。 その情報は管理者権限により……開示が制限されています……"
レナンは教育プログラムの途中に見た映像に関して問うが……AIのオニルは情報開示を拒否した。
(……管理者権限と言えば……本国リネトアの最上位クラスだな……。 何でそんな情報が……? やはり……あの人工の月は……本国リネトアと言う事か……では……あの混沌の怪物は、一体何なんだ……)
“……その情報を閲覧出来る権限は、マスターには御座いません”
(……教育プログラムのバグか? 考えにくい状況だ……何か、気持ち悪い意図を感じるな……だが……今は、その事に構っている余裕はない。過去の映像の様だったし……映像の事はとりあえず置いておこう……。先ず考えるべきは、これからどうするかだ……)
オニルに、再び情報の開示を断わられたレナンは、現時点で自分がやるべき事に、集中する事とした。
(……概ね……状況は理解出来た……。そして……この国が、このアステアが、如何に拙いかと言う事も……)
レナンは教育プログラムを受けた事で……自分の立場と、この口デリアを始めとするアステアと呼ばれる世界が、どう言う状況が理解した。
(オニル……現状況を整理しよう。 このアステアに対する、本国リネトアの主な侵攻計画と……リネトア現政権に関する情報を、ピックアップしてくれ)
“はい、マスター”
レナンの指示を受けたオニルは治療ポッドの中で幾つものデータを表示する。
そこには……ベルゥが率いる新生軍と、レナンが生まれたリネトア王家の情報も表示された。
レナンは眼前に アップされた各種データを見ながら思案する。
(……アステア……この口デリアがある星……。植民地星として占領されていたとは……。住んでいる者達が……誰も気付かないとは、皮肉だな……)
レナンはアステアの情報を目で追いながら……今は亡き口デリアの王、カリウスを皮肉る。
口デリアの国王カリウスだけでは無い。 アステアと言う星に住まう口デリアの民や、 ギナルの皇国民達を初めとする、全ての者達は……自分達が植民地星に住んでいる事実を誰一人知らないだろう。
(……そして……リネトア……支配する側の星……いや、衛星か……。人工の衛星に乗り……深宇宙から、空間を割ってワープを繰返し、このアステアの星系に辿り着いた……)
レナンは、人工の星であるリネトアについて思索した後……、オニルに気になった事を問う。
(オニル……リネトアを管理している、“管理者”と言う存在は……何故、こんな状況を放置している? 人工の衛星を建造し、星ごとワープさせる程の技術力を持った連中だ。リネトアのクーデターなんて、どうとでも対処出来るだろう?)
“マスター、その情報は管理者権限により……制限されています……"
レナンの問いにもAIのオニルは形式通りの回答を、オウムの様に繰り返すだけだ。
うんざりしたレナンは、別の指示を出した。
(……もういい、オニル。管理者について……出来るだけの情報を開示してくれ)
”はい、マスター"
レナンの指示に応えたオニルは“管理者”と言われる存在の情報を、彼の眼前に表示した。
(……リネトアの地下深く……コアエリアにて人工の星リネトアを支える存在か……。彼らは、 グリアノス王朝が起こってから……一度も関与してこない……。リネトアの王朝は突然成立し……その後10 万年もの間、変わる事も無く、争いも無く維持された……。
これも不思然だが、王家の起こりも謎だ……。そして突然のクーデターによる滅亡……。やはり、不思然過ぎる。まるで……長くこうなる事を待っていた様な…… いや、促しているのか……。
どうして……ヴリトなんて種族が現われた? この存在は生物として余りに歪だ。 そして……奴らが言っていた"角持ち"……。何故王家だけが、更に格別した力を持っている?)
レナンは思索しながら、自らの血筋であるグリアノス王家の起こりと滅亡にも、何らかの意図に依って支配されている様な、そんな気持ち悪さを感じた。
(……いずれは、リネトアのコアエリアに向かう必要があるかもな……だが、今はこのアステアだ。グリアノス王家に依る長過ぎる程の統治を……新体制派とやらに依るクーデターで、グリアノス王家は滅亡した。その新体制派を率いていたのが、ベルゥとか言う女だ……。 この女はりネトアの制覇だけで無く……ここアストアを狙っている。
圧縮学習で得た情報によれば……新体制派は、リネトア本国で大規模な反攻作戦によって甚大な被害を受けた様だが……新体制派は、依然大きな勢力を保っている。
寧ろ、アステアの資源を求めて、すぐにでも侵略を行う筈だ。対して……このアステアの地は余りに無力。この星を守る存在は誰も居ない……)
レナンは圧縮学習で得た知識を元に状況を整理しながら、ある事をオニルに問う。
(オニル……このエゼケルと僕だけでベルゥ達の侵攻を止める事は出来るか?)
“……不可能です……新体制派が保有する艦隊は、メルカヴァ級だけで100隻を超えております。 それに加え、エゼケルと同等の中級戦艦を多数保有し、尚且つ移動要塞と化した墓所を有しております。
対してマスターが保有するのは、このエゼケル1隻のみ……。戦力差は絶望的です。唯一可能性があるとすれば……マスターが第三形態へと覚醒し、直接戦われる事です。“
(……第三形態……巨大な龍へと姿を変える事か……。オニル……僕が、その龍になる為にはどうすればいい?)
困難なアステア防衛の唯一の対抗策を示したAIのオニル。対してレナンは対抗策である龍への変身方法について問うが……。
“第三形態への覚醒条件は、グリアノス王家の秘事とされ……情報は公開されておりません……。 マスターが第三形態への覚醒が出来ない現状では、新体制派の侵攻を防ぐ事は不可能です”
(……そうか……僕がその龍になれれば良いが……。第二形態の時はどうだったか……。あの時は、奴らにマリアベルを殺されて……。まさか!? いや、そんな事は在り得ない。……なら、今の僕が龍になるのは……難しそうだな……)
レナンはオニルからの回答を受けた後、第三形態について思索する。第二形態へと成れた際……マリアベルの死が切っ掛けだった事は彼も十分、理解していた。
彼女を失った事で起こった絶望感、そして封じ込めていたマリアベルへの愛情……そうした感情の爆発により、龍人の姿である第二形態へと変身できた。
“ならば、第三形態は……?”
そこまで考えたレナンの脳裏に……笑顔のティアの姿が一瞬浮かび、恐ろし過ぎる仮説が生まれたが……。
彼はすぐさま、その考えを放棄し第三形態へ至る事を断念するのだった。
いつも読んで頂き有難う御座います!
この話からアイパッドのneb〇というソフトで書き始めました! 原稿は基本手書きなので、テキスト化するのに使っています。解読機能にビックリです。
次話は8/8(日)投稿予定です、宜しくお願いします!