25)黒騎士との戦い-1(お見合いは剣戟と共に)
黒騎士マリアベルの挑発に乗ってしまったレナンだったが、彼は大切な友人を傷付けられた事が我慢ならなかった。
対してマリアベルは短剣を仕舞い、バルドから離れて背中の身の丈程も有る大剣を構えた。
一方のレナンはその体を白く光らせながら、ブロードソードを右手に持つ。構えもせず剣も下げたままだった。
レナンは一見気だるげに立っているだけに見えるが、マリアベルにとって、隙が無く野獣の様な獰猛さを感じとった。
「先ずは、試させて貰おう!!」
そう叫んだマリアベルは全力で駆け、刹那にレナンに肉薄した。そして巨大過ぎる大剣を軽々と振り上げ、レナンの頭上から切り付けた。
“ガイン!!”
しかし、彼女の大剣は難なくレナンの剣に受け止められた。マリアベルは身の丈程ある大剣を両手で振り降ろしている。
彼女は有る血筋の影響で人外の膂力を持っており、鍛えた大男すら持上げる事すら敵わないこの大剣を自在に扱える。
それを思い切り両手で振り降ろしているのだ。その破壊力は木の幹すら両断出来るだろう。
だが、その大剣をレナンは何の苦労も無く片手で持ったブロードソードで受け止めた。彼は身体強化魔法を重ね掛けしている為、その体は白く輝いている。
対するマリアベルは渾身の力を込めて大剣を振り降ろそうとする。
「ぬうぅ!!」
しかし、強化魔法を多重掛けしたレナンは涼しい顏で軽く受け止めている。
「おのれぇ!」
黒騎士マリアベルは大剣を引き、レナンに対し目にも止まらぬ速さで斬撃を繰り出す。
“ガイン!” “ガキン!” “ガガン!”
マリアベルはその大剣の巨大さにも関わらず羽の様に軽々扱い鋭い斬撃を与えるが、対するレナンは感情を消して機械の様に淡々とマリアベルの斬撃をいなす。
(……先程の腰低く穏やかな印象とは……別人だ……一体どれ程の力を、コイツは秘めている!?)
剣を交えたレナンを見て、黒騎士マリアベルは驚嘆しその危険度を認識した。
次いでマリアベルは大剣を引き一撃必殺の突きを放った。しかし……。
“キイン!!”
レナンはそんな音と共に彼女の突きもブロードソードで難なく防ぐ。
「……もう終わり……? それなら僕の方から行くよ?」
レナンは小さく呟いて、いきなりマリアベルの視界から消えた。
消えたと認識する間に彼はマリアベルの懐深く潜り込んで鋭く強い掌底を喰らわした。
“ドゴオ!!”
身体強化を多重掛けしたレナンの強力な掌底を受けたマリアベルは後方に吹き飛ばされた。
吹き飛ばされたマリアベルはその衝撃で膝を付いてしまうが、何かを呟くレナンの声を聞きぞっとする。
「天の光集いて 我が敵を穿つ刃と為れ! 雷刃!」
“ガガン!”
マリアベルの頭上に光が迸り、地に向かって一筋の雷光が走った。
レナンが唱えたのは下級雷撃魔法だ。もっともレナンは腐肉の龍を貫いた上級魔法を幾つも使い熟せるが、流石に人間相手では殺してしまうと加減して、下級魔法を選んだ様だ。
下級雷撃魔法を放たれたマリアベルは、咄嗟に避けて事なきを得た。しかし……。
「雷刃! 雷刃! 雷刃! 雷刃!」」
レナンは下級魔法を続けて発動させ、そして広範囲に発生させた。彼にとって黒騎士が避ける事は織り込み済みで、マリアベルが避ける事が出来ない範囲まで魔法を展開していた。
従って、彼女はレナンが仕掛けた雷撃魔法に直撃する。
“ガガァ!”
「グウゥ!!」
下級とはいえレナンの電撃魔法は強力で、喰らったマリアベルは膝を付いた。
そこにすかさずレナンの斬撃が迫る。咄嗟に大剣で防いだが、身体強化を多重掛けした斬撃は強力で街道外れの木立まで吹き飛ばされた。
“バガン!”
「アグッ!!」
太い木の幹にぶつかった黒騎士マリアベルは荒い息をして木の幹に背中を預けるが、それをのんびり待つレナンでは無い。
彼は恐るべき速さでマリアベルに肉薄し、多重掛けで強化された斬撃を見舞った。
「クソッ!!」
レナンが放った斬撃は水平に薙いだものだったが、マリアベルは悪態をついて横に転がって避けた。
“ズパン!!”
そんな気持ちのいい切断音の後、マリアベルが背中を預けていた太い木はあっさりと切断された。
“メキメキメキ!”
そんな音を立てて切断された太い木は倒れていく。
倒れていく木を一瞥もせず、レナンはマリアベルに飛び掛かる。そして右手で上段から切り掛かった。
マリアベルは体勢を崩していたが辛うじて大剣でレナンのブロードソードを大剣で受け止めた。
“ガキン!”
飛び掛かったレナンは長く伸ばした黒い前髪が揺れ、前髪の奥に隠された茜色の瞳が見えた。
マリアベルは黒い前髪が乱れた事で、その奥に見えたレナンの端正な顔と、美しい茜色の瞳に一瞬見惚れてしまった。
その事でマリアベルは動きが刹那止まった。
レナンの上段切り自体が罠とも知らずに、レナンを見て隙を作ってしまったのだ。その刹那の間をレナンは見逃さない。
「……雷刃」
レナンは小さな声で呟くと黒騎士マリアベルに下級雷撃魔法を浴びせた。
“ガガァ!”
「ウグゥ!!」
マリアベルがレナンの斬撃を防いだ隙に、彼は躊躇なく下級雷撃魔法を放った。
マリアベルの頭上に生じた雷光は彼女の頭上から足に向けて貫いて電撃を与えた。二回目の電撃を喰らったマリアベルは流石に膝を付いた。
しかし彼女はレナンを前に呟き笑い出す。
「アグゥ……ふう……ま、まさか……この私を歯牙にも掛けんとは……フフフ……ハハハ!……此れは何が何でも連れて帰らんとな!……」
レナンは彼女が何やら呟き笑い出した事を怪訝に思いながら黒騎士マリアベルに一方的に伝える。
「……もう終わりで良いですか? 僕達忙しいので失礼します……さぁ、バルド、ミミリ……行こうか?」
「お、おう」
「……うん」
そう言ってバルドとミミリに立ち去る様に促した。しかし膝を付いたままのマリアベルはレナンを引き留める。
「……待つがいい、少年……まだ、勝負は終わっていない」
そう言って黒騎士マリアベルは立ち上る。対してレナンは落ち着いて返答する。
「いいえ、これ以上何度やっても同じです。今の貴方では僕に勝てない……」
「アハハ! 確かに! 今のままでは君に勝てない……だが、君が龍を大地ごと抉った技を持つ様に……私にも有るのさ! 特別な“力”が! だからこそ、私は黒騎士なんだよ!!」
そう叫んだ黒騎士マリアベルの体に怪しい赤い光が突如纏わり出したのだった……。
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追)サブタイトル見直しました!
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