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264)ティアの戦い②

 こちらに向かって飛んでくる龍を見て、馬車に乗る者達は恐怖でパニックとなる。



 「ヒ、ヒィ! あ、あの龍が!?」 


 「……何てことだ……」



 迫る龍を見て若い女が悲鳴をあげ、初老の男が呆然と呟く。



 「「「「…………」」」」



 馬車に乗っていた者達は、龍に対する恐怖がこびり付いているのか、絶句して固まっていた。




 龍は棘の魔獣が呼んだ様で、真っ直ぐ馬車を目指して飛んで来ている。



 「……ご丁寧に、後始末って訳……。何が何でも王都から生きては出さないつもりね……」


 ティアは向かってる龍を見て忌々しそうに呟く。恐らく、この龍を倒しても、直ぐに増援が来る様になっているのだろう。



 アルテリアの森に有った、巨大な卵状の建造物が放つ光の柱より、飛び出した無数の龍が迷わず王都を目指すのを目の当たりにしたティアは、龍が何者かの命令で動いている事を理解した。

 


 「……多分……あの黒くてデカい奴が親玉か……」



 ティアは空から見えた王都で、王都上空に浮かんでいた黒い異形の船エゼケルこそが、龍達の司令塔だと予測する。



 (あの黒くてデカい奴を破壊すれば……龍達を止められるかも知れない……)



 何となく、そう感じたティアだったが、それが限りなく不可能な事は無数に舞う龍を見て、流石に分かった。


 

 だが……。



 「……でも……やらなくちゃ、だね……。レナンだって、マリアベルだって……きっと、戦ってる。だったら……私の戦いをするだけ……!」



 ティアはそう呟いて、右手の力を発動する。



 “キイイイン!!”



 そして倒れた馬車を難なく起こすと……初老の男に向け、叫ぶ。



 「ここは引き受ける! 貴方達はアルテリアに向かって!」


 「し、しかし!? 貴女様を置いては……!」


 「いいから行きなさい! 子供達が死んでもいいの!?」


 「……すみません……!!」



 ティアの叫びに、初老の男は深々と頭を下げて礼を言った後、皆を引き連れ馬車に乗る。




 ティアはそれを見つめた後、かつてレナンが龍と初めて戦った際、今の自分の様に……皆を逃がす為に、レナンが一人で立ち向かった事を思い出し、フッと笑う。



 「……ほんの少しだけ……レナン……アンタに並んだ気がしたわ。唯の思い込みだけど……。ホント、私って救いようのないバカよね……。それでも……負ける気がしない……!」



 ティアはそう叫び、右手を高く上げギガントホークを呼ぶ。


 “キュイ!!”


 呼ばれたギガントホークは、鳴き声と共にティアの横に降立つ。ティアはギガントホークに乗ると龍に向かい飛んだ。



 ティアは自分自身を囮にして、龍を引き付け馬車を逃すつもりだった。



 「……ただの囮になるつもりは無いわ……お前の首を頂いてやる……!」



 ティアはギガントホークに乗りながら、獰猛な笑みを浮かべ叫ぶ。こうしてティアは馬車を逃す為、たった一人で龍と戦うのだった。




  ◇   ◇   ◇




 「……だいぶ……じ、時間は……稼いだ、かな……あぐっ!」



 ティアは意識朦朧で、這い蹲りながら呟いた。




 彼女は囮となって単身戦ったが……ギガントホークは龍の尾で叩き落とされ、落下したティアは、何とか龍に反撃を加えたものの、驚異的な龍の再生力で、あっという間に与えた傷は回復する。



 ギガントホークは死んではいない様だが、ティアの呼掛けにも反応せず、飛ぶ事も出来ない様だ。



 ティアは単身で龍が放つ光線や、噛み付き攻撃を避けながら果敢に戦い続けたが……遂には龍の長い爪を受け、深い重症を負ってしまう。



 特に腹部に受けた傷は酷く血が止まらない。恐らく内臓に少なくないダメージを受けている様だ。このまま放置すれば、間違いなく死に至るだろう。



 “……キイイイン……”



 秘石の力を使い切ってしまった為か、満足に力も発動せず……同時に秘石から生気を奪われる事により、意識を手放しそうな脱力感が彼女を襲う。


 それでも、体中に刻まれた傷による痛みで、何とか意識を手放す事は耐える事が出来た。



 「……クッ!……」



 ティアは痛みに悶える中、首を龍の方へ向けると……燃える王都の方から別な龍が、3体こちらに向かって来る。



 どうやら追撃の為に飛んで来た様だ。



 ティアと戦っていた龍は、後からの龍と合流するのを待っている様だ。粘り続けたティアを確実に始末する為だろう。



 「……予想通り……ご丁寧な事ね……あぐ……ううう」



 ティアは激痛に耐えながら、何とか剣を支えに立ち上がる。




 もはや歩く事すら困難なティア一人に対し、龍は4体……。




 どう考えても勝てない。だが……。




 「……勝ち目は無い……だ、だからと言って……レナンも、マリアベルも……痛っ! こんな時……ぜ、絶対に逃げ無いわ……。うぐ……だったら……私だって……!」



 ティアは爪で抉られた腹部を押さえながら呟く。足も斬り裂かれ血が溢れる。足の傷は骨まで達しているだろう。



 負った傷も致命的だったが、秘石を使い切った副作用で、今にも意識を失いそうだ。



 今のティアは完全な戦闘不能だった。



 しかし……自分が追い掛けているレナンとマリアベルの事を思うと……逃げ出す訳にいかなかった。



 そうしている内に、龍は4体揃い……空を旋回している。同時にティアを襲う気だ。



 「……さぁ! 来るがいい……!!」



 ティアが龍に向かって叫ぶと、4体の龍は一斉に彼女に向かって襲い掛かる。




 そんな中、ティアは覚悟を決めて此処にいないレナンに思いを馳せた。




 (……レナン……アンタに、もう会えなくなるかも……。でも! アンタは生きて……! 大好きだよ!)




 ティアが剣を構えてレナンに祈る最中、4体の龍は彼女に向け急降下し、眼前に迫る。


 

 ティアはもう、剣を振り上げる力すら残っていなかったが、差し違える心算を剣を握り締める。




 もはや、此処まで、ティアがそう思った時――。天より眩い光が降り注いだ! 



 “キュン!!”



  空気を切り裂く様な音と共に、降り注いだ光は、4体の龍を弧を描き正確に突き刺さる。



 「!?」



 “キシャアアア!!”“ギキイイ!”



 4体の龍は天から降り注いだ光に貫かれた後、飛ぶ力を失った様で、地に落下して……。



 “ボポン!!”



 地面に激突した龍達は、大きな音を立てて爆散し、砂の様に崩れ去った。




 それを見たティアは……誰が龍を倒し、自分を助けてくれたかを理解し、自然に涙が零れ落ちる。



 「……あはは……レナン……アンタ、やってくれたのね……。ホント……アンタには……かなわ……ないよ……」




 ティアはそう呟いて、ゆっくりと倒れる。




 「……お、おい! アンタ!?」



 倒れたティアに叫ぶ者が居る。ティアは返事する事も出来ないが……呼び掛けたのは、先程助けた、馬車の若い男だ。



 後ろから初老の男も駆けて来る。どうやら彼等は、ティアを案じて近くで待機していた様だ。



 ティアは自分が誰かに抱かかえられた、と理解したと同時に、意識を失ってしまった。



 「……な、何て……酷い傷だ……。どうしよう親父……?」


 「うーむ……出血も多い……。ワシらを助ける為に、こんな無茶を……。この御方のお蔭でワシらは救われたんだ。何としても、お助けせねば……! この御方は、アルテリア伯爵家の御嬢さんと言われていた。ひとまず、応急処置をしつつアルテリアへ向かおう」


 「ああ、分った。とにかく馬車に乗せる……!」




 二人はティアの傷口を、自分達の服で止血した後、馬車に彼女を乗せて……全速力でアルテリアへ向かった。



 ティアが負った傷は深く、彼女が回復するのはかなりの時を必要とする事だろう。




 この事より、ティアは真実を知る機会を失い……運命に翻弄され、復讐に駆られる事になってしまうのだった……。


 いつも読んで頂き有難う御座います! この話でティア戦いは終わり……次話から新章となりまして……レナンの物語になります。


 彼が世界の秘密を知り、知識を得て……黒騎士となる様が描かれます。


 次話は7/18(日)投稿予定です、宜しくお願いします!


※一部直しましたが、矛盾が有り元に戻しました。何度も申し訳ありません。

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