262)見守る妻達②(次なる光へ)
死んだ筈のマリアベルは、空中で浮かぶ美しい銀髪の女性から……自分が彷徨える魂となった事を知る。
そしてマリアベルは彼女から、自分と彼女が彷徨う理由を聞くのだった。
その中で、女性から聞きなれない地名と、女性の容姿から……ある事に気が付き、マリアベルは彼女に問う。
「アステア……それでは、そなたは……レナンや、あのゼペドとか言う連中と同族か……? あの強力な力で……この地へ来たと言う事だな……?」
銀髪の女性が語る経緯に、マリアベルは問う。
彼女がレナンや王都を滅ぼしたゼペド達と同じ種族なら……在り得ない事を起こす事も可能と思ったからだ。
「……はい……私は彼や、彼等と同じく……ヴリト……。私は遠きリネトアの地より、この星へと迷い込みました。……私達ヴリトには、強い力が在ります……。
この私も生前……あの子を支え導くために、自らの力を使い続けて来ましたが……霊魂の状態となった、今は……生前よりも、感じ取る力が……更に強くなりました……」
「感じ取る……? 一体、何をだ……?」
女性が静かに話した後、マリアベルが問うと……彼女は――。
「“あの子”にとっての未来を……」
そう言って眼下で泣き続けるソーニャを明確に差し示した。
「!? ソーニャ!? 一体、どう言う事だ!?」
美しい女性が語る言葉に驚くマリアベル。まさか、ここに来てソーニャの名を聞くとは思わなかったからだ。
「……私にも分りません……ですが、貴女の妹君が……“あの子”を修羅の道より救い……深く愛される、かけがいのない存在になると……何故か、強く分るのです……。彼女こそが……“あの子”アレスの……光であり……未来であると……。
私は……この星に辿り着いてから……貴女や彼……そして、“あの子”の光となる妹君の事を……ずっと見ていました……。
そして……私が事前に、感じ取った様に……貴女も自らの身を犠牲にして……彼を、覚醒へと導きました……。そして、彼の覚醒は……“あの子”の未来にとって必要な事だと……分るのです……」
マリアベルの驚きに構わず、女性はソーニャの事やマリアベル自身とレナンの事を話す。
そしてソーニャやレナンが……彼女が言う“あの子”に関係が在ると確信し、マリアベルは女性に問うた。
「……そなたは何者だ……? そして、そなたの言う“あの子”とは……ソーニャやレナンとどう繋がる……?」
「申し遅れました……私の名はクラウディア……。“あの子”の妻として、あてがわれた女です。……私の一族は……古くから“あの子”が生まれた王家に……仕える家系でした……。内乱により……王家が滅亡した時……まだ若かった私は、王家の血筋を守る為……そして王家の復興の為に……生まれたばかりだった“あの子”の妻として……選ばれました。
ですが……“あの子”の妻となった私は……幼い“あの子”を……王家復興の為、戦いの道具にしてしまった……」
「……余りに……似ているな……そなたと、この私は……」
涙ながらに語る美しい女性、クラウディアの半生を聞いて、マリアベルは驚きながらも、共感し小さく呟く。
マリアベルとクラウディアの人生は、妻となった経緯も、互いに犯した罪も……同じだったからだ。
「……私の死で……“あの子”は……絶望の余り……狂気に満ちた血染めの修羅へと、陥りました……。それを受け止め……正しく導く事が出来るのは……“あの子”と同じ……王家の力を持った……彼……つまり、レナン ジメイラ グリアノス殿下だけです……。
そのレナン殿下が……救われ、真の力を得るには……彼の姉、ティアの縁が必要です……。そうで無ければ……レナン殿下は……貴女を失った悲しみで……闘争の果てに“あの子”と同じく……闇へと陥るでしょう……。
そして……“あの子”、アレス ジメイラ グリアノス殿下の心を救えるのは……貴女の妹君である……ソーニャ……。
私は……亡霊となり果てましたが……それでも、死して感じた未来を……見守り、導きたいと……彷徨っています……」
「……レナン……ジメイラ グリアノス……それが、アイツの本当の名か……。そして……レナンには……血の繋がった兄弟が、いるのだな……?」
クラウディアの話を聞いた、マリアベルは……少しほっとした様子で尋ねる。拾われて天涯孤独と思っていたレナンに、本当の名と家族が居る事を知ったからだ。
「ええ……その通りです。“あの子”アレスはレナン殿下の弟君に当たる御方……。幼かったレナン殿下は……侍女のエンリ様が、命を賭けて……このアストアへとお連れしたのです。ですが……生まれたばかりの“あの子”は逃す事が出来ず……祖国リネトアで私達が守り、育てました。
そして……リネトアを救う為に……私は生前……“あの子”を私自身の手で……闘争の炎獄へと……突き落したのです……。優しく、素直だった……幼いアレスを……迷う事無く。それが……何と、何と……罪深い事か……。
ああ……“あの子”が真に救われるまで……私には……穏やかに……眠る事など……」
マリアベルの問いに、美しいヴリトの女性クラウディアは、答えながらも……感極まって両手で顔を覆い……蹲って泣き出す。
それを見たマリアベルは……。
「……なるほど……私も見届ける必要がありそうだ……。レナンとソーニャ……そしてティアの行く末を……。それに“あの子”とやらも、レナンの兄弟なのだろう? ……ならば、レナンの妻として……私は無関係では無い……。クラウディア、そなたともな……!」
マリアベルはそう言って、彷徨える亡霊であるクラウディアに……力強く手を差し出す。
「ああ……マリアベル……私と共に……“あの子”とレナン殿下の生き様を……見届けてくれるのですか……?」
「どうやら……私もそなたと同じ、彷徨える亡霊らしいからな……。一人よりも二人の方が楽しかろう? 好きな男の為に……どうせ、そなたも命を賭けて来たのであろう? 似た者同士なら……長い旅路も、気が楽であるしな」
戸惑い問うクラウディアに、マリアベルは笑いながら答える。対してクラウディアは差し出されたマリアベルの手を、そっと掴んで立ち上った。
「ありがとう……マリアベル……こんなに心強い事はありません……どうか……私と一緒に……“あの子”とレナン殿下……そして、彼らを支える、少女達の生き様を……共に祈りながら……見届けましょう……」
「ああ……クラウディア……同じ妻として……夫共の戦いと……後妻達の奮闘を……ハラハラしながら、見るとするか! 凹んだり、道を踏み外したら……大声で怒鳴ってやろう」
クラウディアとマリアベルは、共に手を取りながら……微笑み語り合う。
そして……マリアベルはレナンが、光の弾丸となって描いた……空の軌跡を見ながら呟く。
「……レナン……もう、この身では……お前を抱き締める事は出来ない……。本当にすまない……。でも、お前の事は誰より愛している……だから、ずっと……お前を見ているぞ……!
そして、ソーニャ……お前は孤独では無い……お前を必要としてくれる者が、きっと現れる……。私が見守り続けるから……絶対、負けるなよ……!
それから……ティア……。我が夫レナンを、お前に返すのは……ちょっと口惜しいが……お前以外には、レナンを任せれん……。レナンと……ソーニャの事を頼んだ……!」
マリアベルは、クラウディアと手を取りながら……残して来た者達を想い、涙を溢しつつ呟いた。
こうして、死したマリアベルは彷徨える魂となり、クラウディアと共に……レナンとティア……そして血染めの少年“アレス”とソーニャの生き様を見守る事となったのだった……。
いつも読んで頂き有難う御座います!
漸くこの話で、ソーニャの事が書けました。マリアベルの義妹、悪徳令嬢ソーニャは、箱庭2のヒロインとなります。
プロローグで書いた通り、この物語は箱庭1と箱庭2でセットになっています。
漸く書けますが、箱庭1はレナンとティアの物語で……箱庭2は血染めの少年でレナンの弟アレスとソーニャの物語です。
そして箱庭3は転生したマリアベルの物語です。レナンもティアも登場する予定です。
考えるだけでもムチャクチャ長いのですが、箱庭3までは何とか仕上げたいと思います。とりあえず、先ずは頑張ります。
次話はティアの奮闘を描きます。次話は7/4(日)投稿予定です、宜しくお願いします!




