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261)見守る妻達①(彷徨う者)

 「……見て下さい……うう……マリアベル……お姉様……ぐす……レナンが……王都を……このロデリアを……あぐ……救ってくれました……。お姉様が……ぐす……愛した……この国を……うぅ……。でも……私は、これから……どうすれば……」



 光の軌跡を描いて黒き異形の船をエリワ湖へと、沈めたレナンを見ていたソーニャは……亡くなったマリアベルを愛おしそうに抱えながら……その頬に手を添えながら囁いた。




 滂沱の涙を拭おうともせず、動かなくなった彼女に……何処までも優しく……。




 「終わったわね……マリアベル様……本当に……うぐ……あ、ありがとう……御座いました……。それから……みんなも……ぐす……ううぅ……今まで……ご苦労さま……あああ……!」



 ソーニャに続いてルディナはマリアベルに声を掛けながら……亡くなった彼女の横に、並べられたオリビアやリース、ナタリーの遺体に声を掛けた。


 ルディナは涙の所為で、途中で声が続かなかった。



 「……み、見ろよ……お前ら……あぐ……レナンが……レナンの奴が……やって、くれたぞ……うぐ……ううう……!」


 「……後の事は、任せてくれ……お前達……戦士達の魂が集うと言う、バルハラにて……マリアベル様と共に、見守っていてくれ……。私もすぐに行く」



 並べられたオリビア達の遺体の前で、レニータが空に描いた光の軌跡を指差して、号泣しながら……オリビアに声を掛ける。


 沈着冷静なベリンダは、涙で目を真っ赤にしながら……淡々と死んだ仲間達に囁いた。



 深い悲しみにくれるソーニャ達……。王都は滅亡の危機より救われたが……失われたものは余りにも大きかった。



 王都崩壊を機にソーニャ達も激動の渦に巻き込まれていく事になる……。





  ◇  ◇   ◇




 

 「……ソーニャ……ルディナ……レニータ……ベリンダ……そんなに悲しむな……レナンがやってくれただろう……。お前達は、どうか……強く生きてくれ……」



 ソーニャ達が悲しみに暮れて、さめざめ泣く中……その様子を上空で見つめる者達が居た。



 その一人は殺されて死んだマリアベルだった。マリアベルは、悲嘆にくれる彼女達を泣きながら、優しげに見つめて呟く。



 空に浮かぶマリアベル達の姿は……眼下に居るソーニャ達には、見えていないのか……全く認識されていない様だ。



 そして、もう一人……。



 そんなマリアベルを見つめる、銀髪で茜色の瞳を持つ……幻想的な程、美しい女性が空に浮かぶ。




 その女性は白い肌を持っており、銀髪と茜色の瞳を持つ事より……レナンやゼペド達と同じ、ヴリトと言う種族の様だ。


 彼女は長い銀髪を伸ばし、不思議な意匠のドレスを着ている。


 そのドレスはマリアベルが見た事も無い、不思議な材質で作られており……きめ細かく光りを放っていた。


 ドレスはボディラインがはっきりと出る形状で、彼女の素晴らしいプロポーションを際立たせている。



 凡そマリアベルが目にして来た多くの美女を全て集めても、目の前の女性には敵わないと思ってしまう程の美しい女性が、そこに居た。


 彼女はマリアベルを何処までも、優しい顏で見つめるが……その茜色の瞳は涙を湛える。



 マリアベルは、その不思議な衣裳を着た美しすぎる女性を見て……ある存在を思い浮かべた。


 美しい彼女に多少の気後れを感じながら、軽い調子で問う。




 「……で? 確かに私は、レナン達に看取られて死んだ筈だが? ああ……もしや……さしずめ、そなたは大衆娯楽小説で定番の……転生を司る女神さま、と言う訳か? 女神さまならば、転生では無く……どうせなら、オリビア達と共に生き返らせて欲しいのだが……?」



 マリアベルは、目に涙を溜めた美しい女性に問うた。しかし、彼女は小さく首を振り、悲しそうに答える。



 「……確かに、貴女は死にました……。この私と同じく……。私と貴女は、いわゆる……肉体を失った、霊魂の様な存在……。そして、この私は……女神様など……立派な存在では在りません。

 ……どちらかと言えば……私を慕ってくれた、“あの子”を……修羅の道へと突き落した……最低の極悪人です……」



 マリアベルの問いに、女性はそう言って静かに泣く。どうやら女神では無いと理解したマリアベルは……砕けた調子で、もう一度彼女に問う。



 「……それを言うなら……私も似たような者だ……。立場を利用して、レナンを寝取った泥棒猫さ……。フフフ……騎士を気取ってはいたが……思い返せば、ろくでも無い女だったな……。

 成程……ならば、私とそなたは……男をかどわかした大罪で、炎獄に送られると言う訳か? それでオリビア達と共に行けぬと?」


 「いいえ……私と違い……貴女は、彼を……光へと導いたのです……。貴女は、その身を犠牲にして……彼を覚醒させ、彼と、この国を救った……。私などとは……比べようも無い……。それに対して、私は何と言う罪深い……あああ……」



 マリアベルの問いに女性は否定し、さめざめ泣く。



 「……私が死ぬ前に……この私を見つめていたのは、そなただな……? オリビア達は何処だ? そして……私に何の用だ?」


 「貴女の大切な友人達は……先に輪廻の旅へと向かいました……。巡る輪廻の中で……きっと、また出会える事でしょう……。そして……貴女の事ですが……私が、貴女を呼び止めた訳では有りません……。彷徨う私の元に……貴女が来たのです。……もしかすると……私が、貴女の生き様を……ずっと見ていた所為かも、分りませんが……」



 強い口調で問うたマリアベルに対し、その女性は……またも悲しそうに呟く。



 「……つまりは……私も、そなたと同じく……彷徨える亡霊、と言う事か……」


 「はい……恐らく……。そして、貴女と私が彷徨う理由は……無関係では有りません……。恐らくは、“あの子”……アレスは強く悔やみ……私は囚われているのでしょう……。私が、“あの子”の事を悔やむ様に……。私はともかく、“あの子”の力は絶大……。彼……レナン殿下と、同じく……。

 故に私と、“あの子”は……互いに呼び合って……私は彷徨い、囚われているのだと思います。……貴女と同じ様に……。

 私は、“あの子”の行く末を強く願う余り……彷徨って……この遠き地に来ました……。そして此処で……彼、いえ……レナン殿下を愛する……貴女の事を知ったのです……」



 マリアベルの言葉に、女性は涙を湛えながら静かに答える。



 マリアベルは女性がレナンの事を知っている様で、しかも“殿下”と呼んだ事を疑問に感じたが……彼女の話に腑に落ちる所があり、手を額に当て自分の事を振り返りながら呟く。



 「……確かに……私はレナンと……残して来たソーニャ達の事が、心配でたまらない……。未練がましい話ではあるが……」


 「私もです……私自身の手で……炎獄へ突き落した……“あの子”を案じる等……許される事では有りません……ですが……私は、祈り願いざるを得ませんでした……。“あの子”を幸せな未来を……。すると……不思議な事ですが……この遠きアステアへと導かれ……ここロデリアに辿り着きました……」



 美しい銀髪の女性は、そう言って静かに泣くのであった……。


  


いつも読んで頂き有難う御座います! この話では、死んだ筈のマリアベルが出て来ます。この物語で彼女は、大事な局面で出て来る事になると思います。


 次は、マリアベルの前に姿を現した女性とのエピソードです。


 次話は6/27(日)投稿予定です、次話も宜しくお願いします!


 追)誤記を見直しました

 追)一部見直しました。

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― 新着の感想 ―
[一言]  こんばんは、美里野さん。御作を読みました。  マリアベルさん、死してなおおいたわしや……。  ソーニャちゃんも悲痛ですね。友達も頼れる存在もみんな失ったし、レナン君もややこしい事になってる…
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