260)抗う彼女達②(歓喜する王都)
学園でリナやジョゼ達……生き残った者達を助け、脱出したクマリ。リナ達を連れながらクマリは話す。
「……王都が、こんな風になっちまったからね……。私は生きてる奴らを、拾って回ってるのさ。木漏れ日亭の奴らも無事だ……。安心しな」
そう話しながら、クマリは慎重に周囲を伺う。クマリ達は、建屋の中を進みながら……龍の目を掻い潜る。
「もう少し行ったら……地下の下水道に入れるマンホールが有る。私が助けた奴らは取敢えず、皆そこに放り込んだ……。綺麗な場所とは言えないが、お前らも我慢しろよ?」
「……クマリさん……白騎士隊や……レナン君は……見掛けませんでしたか?」
慎重に周りを見渡して進むクマリに、ジョゼは尋ねる。自分の従姉である白騎士隊のリースが気になったのだ。
「……白騎士隊は見えないが……レナン君なら、戦っている様だ……王城でな。少し前……光が降り注いで、龍共を倒したんだ。しかし、すぐに復活しやがったけど……。レナン君が王城で戦ってるなら……マリちゃんやソーニャちゃん達白騎士隊も、一緒に居るだろう……」
「……そう……ですか……」
クマリの言葉にジョゼは小さく呟く。
「……着いたぞ……あのマンホールだ……丁度、建屋の死角になっているから、奴らからも見つかりにくい……。慎重に行くぞ」
「「「「「はい」」」」」
クマリの言葉に、リナやジョゼ、そして助けられた生徒達が答える。
龍はその大きさ故に、広場や街路を歩き回っているが……クマリ達は連立する建屋の中を、息を潜めて進んでいる為に、気付かれてはいない様だ。
丁度、近くにいた龍が、広場の奥へと向かった。チャンスとばかりにクマリが指示を出す。
「今だ……! 行くぞ!」
クマリの声に従い、リナ達が建屋から飛び出しマンホールへ向かうが……。
“キシャー!!”
何と、建屋の屋根より龍が……建屋の隙間に居たリナ達を見下ろし、大声で吠える。
その龍の叫び声を聞き……広場の奥に居た龍も、クマリ達に気付いてこちらへ向かって来る。
「……まずいね……ここは私が引き受けた……素人のアンタ達は、さっさと行け!」
「で、でも!」
「足手まといさ! 早くしろ!」
集まり出した龍に、クマリはリナ達に先にマンホールへ向かう様に叫ぶ。
リナが戸惑うが、クマリ大きな声で指示しながら、両腕の鉤爪を装備し、屋根から見下ろす龍に相対する。
見下ろす龍は、大きな口を開け……光を溜め始めた。光線を放ち全てを薙ぎ払う心算だろう。
「ちぃ! 間に合うか!?」
クマリは光線を放とうとする龍に向かい、飛び上がった。しかし、龍達は周到だった。
“シャアアアアア!!”
広場に居た龍が、強引に建屋の隙間に首を伸ばして吠えながら、リナ達を襲おうとする。
リナ達は、今まさにマンホールの中に一人ずつ、降りている所だ。
マンホールの中は暗い為、どうしても慎重に降りるしかなく、多くの生徒達がマンホールの傍に集まっていて逃げ場も無い。
上からは光線を放とうとする龍……。下からは喰い付こうと広場から迫る龍。
マンホールの存在を、龍に知られた以上、奴らは中に居る者達も、見逃しはしないだろう。
もはや、全て終わりかとクマリは絶望の中、死を覚悟した時……。
“キュキュン!!”
――眩い光が、天から降り注ぎ……龍を貫いた!
“キシャアアア!?”
貫かれた龍は動きを止めた後、苦悶の叫び声を上げ……いきなり音を立てて爆散する。
“ボボオン!!”
「……レナン君か……!!」
目の前で爆散した龍を見て、クマリは喜び叫ぶ。
眼前の龍だけ無く、広場に居た龍達も全て爆散し、砂の様に崩れ去っていく様をクマリは見た。
その様子を見た……リナやジョゼ、パメラ達生徒らも恐る恐る広場へ出ると……。
王都は破壊し尽され、大火が至る所で立ち上り、余りにも沢山に遺体が転がる無残な惨状だったが……破壊と死を振り撒いていた龍達は、全て崩れ去っていた。
「お……おおお……!」
「やったぞ!! 助かったんだ!!」
龍達が全て殲滅されたのを見て……巧妙に隠れていたのだろうか、死を免れた住民達が外に躍り出て、喜び叫ぶ。
「……レナン君に……また、助けられたな……」
立ったまま呆然と、喜ぶ住民達を眺めるリナ達の後ろから、クマリがホッとした様子で話した。
「これを……あのレナンが……」
リナは、あれ程いた無数の龍達が、全て一掃された事に驚き呟く。
彼女が驚くのも仕方が無い。リナはレナンの強さを今まで見聞きして、理解していた心算だったが……今回のは凄すぎた。
王都に酷すぎる惨状は広がるが……滅亡の危機は去った事で、王都の住民達に笑顔が戻った。
「……やっぱり……ぐす……お前の弟は……凄い、奴だな……ティア……」
リナは歓喜する住民達を見て、リナは涙を流しながら呟く。
そんな中……。
「お、おい!! アレを見ろよ!!」
「空に人が!? それも……光り輝いている!!」
助かった王都の住民達が、空を指差し一斉に叫ぶ。
マンホールの下に隠れていた人々も、外に居る生徒達の呼掛けに次々に外に出て、皆一様に空を見上げ感嘆の声を上げる。
その声に釣られてクマリやリナ達が、王都の住民達が指差す方を見ると……レナンが空に浮かんだまま、その体から眩い光を放っていた。
「レナン君!?」
「レ、レナン様と言えば……白き勇者!? 白き勇者が、王都を救ったのですね!?」
太陽の様に眩く輝き、空に浮かぶレナンを見てジョゼが驚き叫ぶと……彼の事をティアから聞いて知っていたパメラが大声で問う。
そのパメラの声を受けて、周りに居た生徒達や、住民達は感激の声を上げる。
「白き勇者が王都を……!」
「ああ……何と言う輝き! 美しい……!」
「白き勇者……万歳!」
「「「「白き勇者、万歳!!」」」」
空で輝くレナンを見て、救われた住民達は歓喜の合唱を始める。その声は広がり、他の住民達はも、揃って歓声を上げた。
大切な者を亡くしたのか、号泣しながらレナンを称える者達も居た。
そんな中……空に浮かんでいたレナンは、更に一際輝いて……光の軌跡を描き、黒き異形の船へと飛ぶ。
彼は凄まじい勢いで飛び、黒き船に迫っても減速する様子は見られない。
そして……レナンは、そのまま黒き船に激突した。
“ドガガガガガアアン!!”
レナンが激突した事で黒き船は、小さい爆発を繰り返しながら、ゆっくりと落下し始める。
そして……そのままレナンと共にエリワ湖へと、盛大な水しぶきを上げ……黒き船が沈没する。
その様子を見た、王都の住民達は大歓声を上げた。
「「「「うわああああー!!」」」」
その響き渡る声は、この忌まわしい地獄が終わった事の歓喜と……多くの者を失った悲しみが混ざり合っていた様だ。
それを示す様に、全ての者は等しく涙を浮かべていた。
リナやジョゼ、パメラ達学園の生き残りも……皆、抱き合って滂沱の涙を流す。
クマリも、この時だけは仮面をそっと外して、静かに涙を流したのだった。
王都滅亡の危機は……レナンと、そして、マリアベル達の尊い犠牲によって辛うじて救われた。
しかし、この傷痕は余りに大きく……生き残った者達の人生を、少なからず変えてしまう事になる。
そして、それは……クマリ、それにリナやジョゼ、パメラ達の4人も同じだった……。
いつも読んで頂き有難う御座います! この話でクマリ達の話は終わりです。彼女達4人は、これからも活躍してくれる為、このエピソードを用意しました。
次はソーニャと……死んでしまったマリアベルのエピソードです。
次話は6/20(日)投稿予定です、次話も宜しくお願いします!