24)黒騎士来襲
レナン達3人の様子を森の木立から隠れて見ていた黒騎士マリアベルは歓喜に震えた。
「……只者……では無い。あの斬撃……あの怪物を一瞬で……同じ事は、私には出来ない……。
ククク……ハハハ!! 奴は! 本物だ! フフフ、一体どの程度の男か楽しみだ……。このまま“縁談”と洒落込むか……」
そう嬉しそうに呟いて、黒騎士マリアベルは背中に差した大剣を握り締めるのだった。
◇ ◇ ◇
メガワスプを両断したレナンだったが、その死骸を前に固まっていた。
「さて、どうしようか? コレ……」
そう切り出したのはレナンだ。彼とバルド達の懸念は、ヒトクイグモとは別に、突如舞い降りたメガワスプの処遇だ。この怪物は、討伐したヒトクイグモよりも価値が高い。
次いで口を開いたのはバルドだ。
「まずはクモの方を優先しようぜ。蜂は完全におまけだし、レナンに助けて貰わなければ俺ら終わってたかも知らねーしな。 蜂に関してはレナンが決めてくれよ」
バルドの言葉を受けたレナンは、ヒトクイグモとメガワスプを此処で解体し、討伐証明部位と素材だけをレテ市のギルドに持ち運ぶ事に決めた。
余計な部分を削ぎ落とし、必要な部位だけ持って行くとしても重くて運べない重量となるが、いつもの通りレナンが身体強化魔法を重ね掛けして運ぶ事になった。
やがて巨大クモの頭部や胴部、そしてメガワスプの毒針や羽等、その他状態の良い必要素材を出来るだけ掻き集めて幾つもの麻袋に入れて、それらを丈夫なロープで一纏めに括った。
その大荷物は総重量200kg程度になったが、レナンは重ね掛けして白く光った体に、巨大なお土産を背負って歩き出した。
直径2m近い、その袋詰めの塊りは絶対一人では持てない重さだが、レナンは風船の如く軽々と担いで街道に向かい歩き出す。
その様子にバルドは苦笑しながらレナンに声を掛ける。
「いつもすまねぇな! 相棒!」
「……悪いと思っているならバルド、言わせて貰うけど……さっきの蜂! ミミリを守る為庇ったのは凄く良かったけど、戦う事を放棄したらダメだろう?」
バルドに声を掛けられたレナンはここぞとばかりに苦言を言う。対してバルドはバツが悪そうな顔で横を向いて呟く。
「やべぇ……レナン先生が説教状態になっちまった……ミミリ何とかしてくれ……」
「はぁぁ……バル君、どうしてレナン君の眠れる猛獣起こしちゃうのかな?」
レナンの説教モードが始まった事により、バルドはミミリに助けを求めるが、ミミリも溜息を付いて呆れ顔で答える。対してレナンはミミリにも苦言を言う。
「ミミリも他人事じゃないよ? 大体ミミリは弓に頼り過ぎだ。折角、魔法を憶えたんだから上手く活用しないと」
「うぅ……こっちに飛び火したよ……」
「アハハハ! 怒られてやんの!」
レナンは剣と魔法についてバルド達に指導する事が多々あった。その為、彼らからは“先生”等と称され冷やかされていた。
そのレナンに怒られたミミリを見て、バルドが指を差して笑うがレナンがすかさず突っ込む。
「バルド、君だって一緒だ。僕は君に身体強化の魔法を教えただろう? 大事な時に使わずにいつ使うんだよ?」
「うわっ……こっちに返って来たぜ……えーっと……呪文の詠唱があんまり、覚えて無くて……」
「えへへ……私もバル君と同じで……急には出来ないって言うか……」
バルドの言い訳にミミリも照れながら追従する。対してバルドは顔を輝かせてミミリの手を握り答える。
「だろう!? 流石、俺の嫁! こんなトコまで気が合うな!」
「ちょ、ちょっと! バル君、レナン君の前だよ!? 恥ずかしいよ……」
バルドに手を握られたミミリは顔を真っ赤にして小さく抗議する。横に居たレナンは深く溜息を付きながら、二人に告げる。
「ハァァァ……仲が良いのは結構だけど、あんまり見せ付けないでよ……。でも二人ともそんな元気が有るなら、ギルドの訓練場で特訓できそうだね?」
「げ! レナン先生! まさかの逆恨みか!? ミミリ、ティアを呼べ!」
「うん! 今の事、手紙でティアちゃんに報告しないと!」
レナンの苦言に対しバルドとミミリは冷やかして返した。対してレナンはがっくり頷きながら呟いたが……。
「全く……荷物持ってる僕の身に……? 誰か……来る! 二人とも下がって!」
何かを感じたレナンはバルド達に大声で呼び掛け、担いでいた大荷物を下し構える。
するとレナン達が歩いていた街道横の木立から真黒い異形の鎧を纏う黒騎士が現れた。
漆黒にして鋭利な刃状の突起が恐ろしげで凶悪なその姿は不吉としか感じられない。
レナン達一向に走る緊張感。さっきまでの楽しげな雰囲気は吹き飛んでしまった。現れた異形の黒騎士に対し、バルドが大声で詰問する。
「何者だ、アンタ!? 俺達に一体何の用だ!?」
問われた黒騎士は鷹揚に語る。
「フフフ……君とその娘には用は無い……。有るのは……その黒髪の君だ……」
黒騎士マリアベルはレナンを指差して告げた。対して彼は静かに言い放った。
「……初めまして……僕に何の用ですか? 見ての通り、忙しいので出直して頂きたいのですが?」
「手間は取らせないさ……ちょっと私と仕合って頂きたい」
突然現れた黒騎士にレナンは警戒心を抱き、はっきりと拒絶したが、マリアベルは構わず続ける。
「お断りします。僕には貴方と戦う理由は有りません。誰かと戦いたいのなら、ギルドで依頼を出せばいい。さぁ、二人共……早く戻ろう」
「お、おう」
「うん……」
マリアベルの要望をきっぱり断ったレナンはバルド達を促すが、対する彼女は構わず語る。
「……私は強者との戦いを望んでいてね……そんな中、ある噂を聞いたんだ……。
街道に現れた中規模災厄指定魔獣であるキンググリズリーの首をあっさり切断し討伐。その死体を放り投げてブツ切り……。
そして……恐るべき龍相手に対等以上の戦いを経て、最後には大地ごと滅ぼした……。そんな怪物が居るとね……信じられない事にそれは一人の人間がやったって噂さ。
……それは、君が全部やったんだろう……?」
静かに語るマリアベルに驚いたのはバルドの方だった。秘密な筈のあの戦いを知っている黒騎士に思わず大声で問う。
「な、何でお前が、その事を知ってるんだ!?」
「……バルド、落ち着いて……」
興奮して叫ぶバルドをレナンは冷静になる様に促す。対して黒騎士マリアベルは……。
「……ほう? そこの少年は色々事情を知っている様だ……是非教えて頂きたいのだが?」
「お前に教える事なんか、何もねェ!」
「ククク……ならば……体に聞くまでだ……例えば、そこの少女にでもな?」
バルドに強く拒絶されたマリアベルはミミリを指差し静かに呟いた。
指差されたミミリは青い顔をして後ずさりする。その様子を見たバルドは激高し、叫びながら黒騎士マリアベルに飛び掛かる。
「てめぇ!!」
激高したバルドは剣も構えず、マリアベルに飛び掛かったが、あっさり彼女に足を払われて転がった。
“ドザァ!”
そして短剣を突き付けられて問われる。
「さぁ……先程の事について……詳しく教えてくれないか……?」
「だ、誰が言うかよ!?」
「そうか……なら……彼女に聞くとするか……」
バルドに拒絶されたマリアベルは、短剣をミミリに向けた。すると……。
「……いい加減にしろ……。そんなに僕と戦いたいって言うなら……やってやる……」
強化魔法の重ね掛けで白く輝く姿のレナンが怒りを抑えきれない、と言った様子でゆっくりと黒騎士マリアベルに悠然と迫るのであった。
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追)一部見直しました!
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