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256)彼女と共に

 マリアベルを惨殺したゼペド達に向け、強い怒りと憎しみの余り震えながら呟くレナン。


 

 そんな彼を見たゼペドは……。



 「……コイツはもうダメだな……飼われていた期間が長すぎたのか……。もはや矯正は不可能だ。……飼い主である下等動物が死んだだけで……その乱れよう……。お前は“ヴリト”の戦士に相応しくない。結局……殺すしか無さそうだ。だが、安心しろ……お前を殺した後、他の奴らも全員バラバラにして引き裂いてやる……そこの下等動物の様にな……」



 マリアベルを亡くし、泣きながら自分達に向け、怒りと憎しみの目で睨み付けてくるレナンに対し……ゼペドは見下した笑みを浮かべながら言い放った。



 そして……ゆっくりとレナン達に近付く。どうやら本気でレナンやソーニャ達を殺す心算だ。



 ゼペドの強い殺意を感じたレナンは、滂沱の涙を流しながら……フラフラと立ち上る。



 「ククク……小僧、自ら殺される為に、俺の前に立つか……」


 フラフラと立ち上ったレナンを見て、ゼペドは嘲笑する。



 しかし……レナンは答えず、目を瞑ったまま顔を上げ……ハラハラと涙を流しながら、呟く。

 

 「……マリアベル……君は……弱い癖に……いつも強がって……誰かの為に、戦って来たね……最後まで……。本当、君はバカだよ……。でも、僕は……そんな君の事が……どうやら、どうしようもなく……ハハハ……」


 「レ、レナン君……」



 マリアベルを想いながら静かに泣いて呟くレナンに、目を真っ赤にしたルディナが憐れんで彼の名を呼ぶ。




 「何だ、コイツ? 恐怖で頭がおかしくなったのか?」


 「かもねー? 残念だけど、この子はダメっぽいからさ。さっさと殺して、後ろのメスで遊ぼうよ! この街を徹底的に燃やしながらさ!」



 メラフは鼻で笑いながらレナンを見下し、アニグは、マリアベルの傍で泣き続けるソーニャ達を嫌らしい目で見ながら叫ぶ。



 対してレナンは……すっと右手を横に伸ばして、ソーニャ達を庇う仕草を見せた。


 「……む?」



 そんなレナンにゼペドは訝しむ。しかしレナンは構わず泣きながら小さく呟く。


 「……マリア……ベル……」


 彼の呟きと同時に……何処からか甲高い音が響き出す。



 “……キイイイン”


 「……マリアベル……君は自由に生きろって言ったから……僕はそうさせて貰うよ……。このレナン……今こそ誓おう……マリアベル、汝の魂と共に常に在り……共に戦うと!!」



 レナンがそう叫んだ瞬間――。




 “カッ!!”


 

 彼の体が突然光り輝く。



 「う、うわ!!」

 「なんだ!?」



 レナンが放つ光に圧倒されてメラフとアニグは驚きの声を上げる。



 “ギイイイイイン!!”


 レナンの体が放つ光と共に甲高い音が鳴り響く。



 レナンの変化にマリアベルに縋り付くソーニャやレニータ達も驚いた。



 

 そんな中……当のレナンは光りながら変化する自分を余所に……ただ、マリアベルの事を考えていた。



 (……マリアベルの魂と……共に戦うと誓った時……僕を縛っていた“何か”が切れた様に感じた……。ああ……きっと僕は……マリアベル、君を愛してしまっていたんだ……。でも、気付かない振りをして……自分を縛っていたのか……。マリアベル……君を近くに感じるよ……だから、一緒に……!!)



 レナンは光に包まれながら、マリアベルへの愛を受け入れた。



 今までの彼は、ティアや故郷の事を考え……自分の本当の気持ちに向き合わず、巻かれた首輪の如く、自分自身を縛っていた。



 レナンはマリアベルの誓いと共に、自分を縛り付けていた枷を断ち切ったのだ。


 その瞬間……!


 “パキン!!”



 彼の意識の奥で、何かが割れる音がした。


 途端にレナンは自分の額より、凄まじい力が溢れ出るのを感じ……彼の体は更に光り輝いた。




 「な、何だ!! この尋常では無い“ヴリル”は!? こ、これが一個体が放てる力だと言うのか!?」


 ゼペドは激しく光るレナンを見て、大いに狼狽して叫ぶ。



 ……やがて光は収まり、レナンは自分の体を見つめると……何と右手だけでは無く、左手も両足も、体自体も……ゼペド達の様な、龍と人を掛け合わせた様な姿になっていた。



 そして、両手両足、首元にゼペドがオド器官と呼んだ、宝石状の器官が眩く輝いている。


 それに、太くて長い尾が生えていた。



 全く不思議な事だが、これら異形の体はレナンに取って、何の違和感も無く……生まれた時から、この体だったかの様に感じた。




 異形の体になったレナンが、自分の手足を不思議そうに見つめていると……ゼペドが怯え狼狽しながら叫ぶ。


 「ば、馬鹿な!? “角持ち”だと!? よもや、“箱庭”に始祖の血を引く王族が居るとは!! ま、まずい! 奴がもし、第三形態まで覚醒したら……大変な事に……! や、奴を殺せ! 一刻も、一刻も早くだ!!」



 ゼペドはレナンの額を見て大騒ぎしている。レナンはそっと自分の額の方に手をやると……太い一本の角が生えていた。



 何故だか分らないが、その角から圧倒的な力が現れてくる。



 そんな異形の姿にレナンに向け、涙顏のソーニャが不安そうに彼の名を呼ぶ。


 「……レ……レナン……?」



 ソーニャが不安となったのは……王都を無茶苦茶にして、マリアベルやオリビア達を殺した、ゼペド達白き神の姿と……今のレナンの姿は酷似していたからだった。



 だが、そのレナンは……。



 「……うん……大丈夫だよ、ソーニャ……僕はマリアベルの心と共に……常に在るから……ここは任して」


 「レナン……」



 レナンは不安そうに呼び掛けたソーニャに向け、振り返って笑顔で優しく伝えた。



 異形の姿となり、額から恐ろしげな角を生やしているが……その声はどこまでも優しい。


 ソーニャは、その言葉に、その笑顔に……彼の言葉通り、レナンがマリアベルの心と共に有る事を確信した。



 だから、ソーニャは初めて本心でレナンの事を想い、その名を呼んだ。



 レナンはそんなソーニャと、生き残ったレニータ達に微笑み掛けた後、ゼペド達に向き合う。



 レナンの顔は滂沱の涙を流した為か、目は赤く頬には涙の痕が残るが、強い自信に満ち溢れた表情をしていた。


 

 「……何故だか分からないけど……負ける気がしない……。ああ、そうか……君と共に在るからか……。さぁ……! マリアベル、共に戦おう……!!」



 そうレナンが叫んだと共にレナンの異形の体が一瞬光輝くのであった。


いつも読んで頂き有難う御座います。


追)一部見直しました

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