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255)さよならマリアベル

 「……返答は? 早くしろ……殺すぞ……」


 

 王都を破壊し、マリアベル達を殺す様に迫るゼペド。その問いにレナンの答えは最初から決まっていた……。



 レナンは大切な者達を守る為、ずっと戦って来た。


 父トルスティンと故郷を守る為、そして何よりティアを守る為に……。




 首輪を巻かれ、王都を連れて来られてからも……それは変わらなかった。




 そして今は……自分を従属する敵である筈のマリアベルの為に戦おうとしている。


 マリアベルだけでは無い。自分を陥れ無理やり王都へ連れて来たソーニャや白騎士隊も大切な存在だった。



 レナンは、マリアベルが助かるなら命なんて惜しく無い……そう思っている自分が、何故か不思議だった。


 だが、その想いは紛れも無い本心だった。



 その想いが何なのか若いレナンは、この時知らなかったが……この後、それがマリアベルに対する深い愛である事を、レナンは直ぐに思い知る。



 レナンはマリアベル達の為に戦おうと……マリアベルをそっと床に寝かせて立ち上った。


 不安そうなソーニャにレナンは微笑みかけて穏やかに話す。



 「……僕が囮になる……だから、マリアベルと皆を連れて、此処から逃げて」


 「レ、レナン……」

 


 死を覚悟して戦いを挑もうとするレナンに、ソーニャは敬称も忘れ、その名を呟くしかなかった。



 (出来るだけ……時間を稼いで、マリアベルとソーニャ達を逃がさないと……)



 レナンは、自分が囮になろうと……命を賭ける覚悟を決めた。


 この場よりゼペド達を引き離し、時間を稼ぐ心算だった。勝てる見込みは無かったが、命を賭ければ、時間を稼ぐ事は可能だろう。



 そう思ってゼペド達へ戦いを挑む為に歩もうとすると……マリアベルが、レナンの指をそっと掴んだ。



 とても弱々しく……とても優しく……。



 マリアベルは震える手で、レナンを引き寄せ……血に濡れたその手をレナンの頬に沿える。


 そして何より愛おしそうに撫でながら、レナンに囁いた。



 「……わ、私はレナン……お前に出会って……うぐっ……生まれ変わったんだ……。それまでの私は……ただ生きているだけ……でもお前と、出会って……はぁ、はぁ……私は……生き返ったんだ……」


 「もう良い……しゃべるな……!」



 苦しそうに話すマリアベルにレナンは、大きな声で制止する。しかし……彼女は止らない。



 「でも……それは……あぐ……私の我儘だ……。お前の気持ちを……ないがしろにして……お、お前が愛したティアと、お前を引き裂いた……うぐ……ハァハァ……済まなかった……。こ、この有様は……その報い……お前が気にする必要は無い……。でも……出来る事なら……あぐ……ハァハァ……ソーニャと皆の事を……頼む……。うぅ、ソーニャ……わ、私が居なくとも……負けるな……」


 「全部分ってる、だから、そんな事言うな!」

 「お姉様! ば、馬鹿な事言わないで!!」



 息も絶え絶えで話すマリアベルは、ソーニャ達の事をレナンに託す。レナンとソーニャは大声で叫びながら、マリアベルが逝こうとするの必死に止める。



 しかし、マリアベルは最後の力を振り絞って……彼女が愛する者の為に、縛っていた(くびき)を解き放とうとする。



 「い、今こそ……言おう……あぅ……ハァハァ……ず、ずっと言わなくては、と思いながら言えなかった……言葉だ……“汝、その魂よ。自由なれ”……」

 


 マリアベルは目に涙を溜めながら囁くと……レナンの首に巻かれていた、忌まわしい赤い首輪が一瞬光を放ち、力を失う。


 マリアベルが、力を失ったレナンの首輪に触れると……独りでに外れ彼女の手に収まる。



 「……こ、これで……お前は……ハァハァ……じ、自由だ……ぐう……好きに……い、生きろ……レナン……ずっと……ずっと……愛していた……」



 そう囁きながら、マリアベルは逝った……。



 レナンの頬を大切そうに撫でていたその手は……力なく糸が切れた様にくずれ落ちる。


 しかし……もう片方の手には、レナンの赤い首輪を握り締めていた……。




 「うわああああー!! いやだー!!!」



 事切れたマリアベルにソーニャが覆いかぶさって大声で泣いた。



 その様は……沈着冷静な彼女とは思えない程に、取り乱している。


 横に居たルディナもボロボロと涙を流して、ソーニャにしがみ付いて泣いていた。


 助かったレニータとベリンダも皆、マリアベルに縋って声を上げて泣く。



 対してレナンは……。



 「……ははは……何だよ……マリ……アベル……起きてよ……起きろ……起きろよ!」



 泣いているレニータを押し退けて、眠っている様な安らかな顔をしたマリアベルを起こそうと、揺さぶる。



 「ふ、ふざけるな!! お前は! 僕を、僕を……王都に無理やり連れて来て! こ、こんな終わり方って有るか! 僕は、お前のモノなんだろう! お前は、僕を! 置いて……!」


 「うう……レ、レナン……もう……止せ……マリアベル様は……うぐ! す、すでに……!」



 亡くなったマリアベルを揺さぶり叫ぶレナンに対し……レニータが泣きながら制止する。



 レナンがマリアベルを揺さぶって叫んでも、彼女は目を覚まさない。



 そんなマリアベルの顔にボトボトと落ちる涙を見て、レナンは自分が滂沱の涙を流している事に初めて気が付く。



 「マリア……ベル……マリアベル……マリアベル……! うおおおおー!!」



 レナンは何度もマリアベルの名を呼んで、狂った様に叫びながら涙を流す。


 レナンだけでなく、ソーニャやルディナ達もマリアベルに縋って泣き叫ぶ。



 そんな中……。



 「……苦しんで死んだか……長くいたぶる心算だった故に、少し気が晴れたぞ……」


 「ずっと君がムカついていた首輪の主だったみたいだからねー。亜種の女とは意外だったけど……」


 「しかし……首輪の小僧も、余程飼い慣らされていた様だ……。晴れて自由になった筈なのに……みっともなく泣いているな」



 ゼペド達は空中でずっと、マリアベルが徐々に苦しみ死にゆく所を、観察していた様だ。


 丁度、虫の足を引き千切って、弱って死んでいく様を見る心境なのだろう。


 マリアベルが苦しんで死んだ事を見て、ゼペドは満足げに呟くと、アニグも彼に同意する。


 対してメラフは泣き叫んでいるレナンを見て小馬鹿にした。



 「……お前ら……マリアベルだけは……彼女だけは……殺すべきじゃ無かった……」



 レナンは亡くなったマリアベルを抱えながら怒りで震えながら呟くのだった。



いつも読んで頂き有難う御座います! 


 今回で、プロローグに在る通り……ヒロインの一人であるマリアベルが亡くなりました……。


 彼女が死なない展開も考えたのですが、それはもう、箱庭では無くなるので、この展開にした次第です。


 死んでしまったマリアベルですが……彼女は本当の意味でのレナンのヒロインであり、最も大切な人でした。


 そんな訳で、マリアベルは亡くなった事に間違いありませんが、彼女は色々な形で出て来ます。


 次話は5/19水 投稿予定です、宜しくお願いします!


 追)一部見直しました。

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