253)黒騎士マリアベル
マリアベル達に取り囲まれたゼペドは、下らなさそうに彼女達を見回した後……軽く右足を軽くタックする。
すると……。
“グオン!”
ゼペドの右足の床が爆散して弾け飛び、石や木材がマリアベルやレナン達を襲う。
「キャアア!!」「うわあ!」
大量の石や木材による攻撃を受け、レナンは咄嗟に結界を展開して、マリアベル達を守る。
レナンが展開した結界は、彼女達一人一人を包んで、床材の砲弾から守ったのだ。
「……はぁ、はぁ……だ、大丈夫か、皆……?」
「あ、ああ……助かったぞ……」
苦しそうな声で、レナンは白く光る右手を前に出しながら問うと、守られたマリアベルが礼を言う。
「……ふうん……? 良く躾けられているね、君。……同じヴリトとして……ムカつくよ」
「全くだ……だが、アイツは右手しか覚醒出来ぬ。故に……こうしてやれば、処理は簡単だろう」
マリアベル達を守ったレナンを見て、アニグが忌々しそうに呟き、メラフが同意しながら……右手でレナンを指差す。
するとメラフの指先から光の矢が放たれレナンに向かう。
レナンは結界を展開しており、床の瓦礫同様、光の矢を防ぐ筈だったが……メラフが指先を回すと、光の矢はレナンの障壁前で、突然消え去った。
そしてレナンの障壁内部に光の矢は転移し、彼の右腕に輝く宝石状器官に突き刺さる。
「あぐ!!」
宝石状器官を貫かれたレナンは、痛みで蹲り……彼が展開していた結界は全て消失した。
「レ、レナン!?」
「……ヴリトの体に宿る、このオド器官は……周囲のエーテルを無尽蔵に吸収する。そのオド器官を一時的にでも破壊すれば、エーテルを練って技を生む事は困難となるのだ……」
蹲ったレナンを見て、マリアベルは声を上げるが……彼女を遮る様にゼペドが自らの胸に輝くオドと呼んだ宝石状の器官を指差しながら呟く。
レナンはゼペドの言葉通り、右手の輝きは弱まり……満足に力を発動出来なくなった。
弱ったレナンを見て、マリアベルは……。
「……レナン、そこで大人しくしていろ……私が奴らを倒す」
絶対絶命な状況の中、マリアベルはレナンに声を掛け……不敵に笑みを浮かべ、ゼペド達に向き合うのだった。
マリアベルと共に、白騎士隊は改めて、ゼペド達を取囲む。
「……ふむ……改めて見れば、下等動物とは言え……、それなりの器量だな? 亜種と言うのも面白そうだ……。どうだ、この俺の家畜になれば、命だけは助けてやるが?」
「そうだねー、どうせすぐ死ぬかもだけど……楽しみは必要だね」
「女の騎士か……確かに、実験動物としても……高い耐久性が期待出来そうだ」
マリアベル達を見たゼペドは……嫌らしい目で彼女達を見た後、従うのが当然の様に言い放つ。
ゼペドの言葉にアニグもメラフも同調し、マリアベル達を虫けらでも見る様に、見下しながら答えた。
ゼペド達が放つ絶対強者としてのプレッシャーに、オリビア達は膝を付きそうだったが……。
「ふん……神と自称する割には……そこらの下賤な酔っ払いと言う事は変わらんとは、何とも笑える話だ。その髪と瞳の色は、我がレナンと同じだが……その心根は、ドブの様に醜いな。
この身は既にレナンのモノ……。レナンが我がモノであるのと同じだ! 醜い偽神よ……。陛下と殺された者達の無念……この剣に掛けて晴らしてくれる」
「よ、よせ……マリアベル……逃げるんだ……」
力強くゼペドに言い放ったマリアベルに勇気付けられ、オリビアを始めとする白騎士隊も気を引き締めて、ゼペド達に剣を向けた。
対してレナンはレナンはソーニャ達に抱きかかえられながら、マリアベル達を制止する。
マリアベルの言い放った言葉と、レナンの態度を見たゼペドは……。
突然、異形の身となった左手から、眩い光を放った。
“キュド!!”
光は音より速く飛んで、廃墟となった王都を超えて、城壁に直撃する。
“ドガガガガアアアン!!”
直撃した光は、轟音を響かせ大爆発を起こした。城壁の周りに密集していた沢山の建物は消滅しただろう。
大爆発の後……豪炎が立ち上り、王都に更なる地獄絵図が展開される。
その様子を見たソーニャが絶望の声を漏らした。
「……ああ……何て事なの……」
ソーニャだけでなく、白騎士隊の面々も破壊され豪炎を上げる王都の惨状に、絶句していた。
そこへ……この破壊をもたらしたゼペドが怒りに震えながら呟く。
「……そうか……その小僧の飼い主は……貴様と言う訳か……亜種の下等動物よ。旧体制派の残党とは言え……誇り高きヴリトの首に……従属の首輪を巻くなど……!! 不遜にも程がある!! 亜種の下等動物よ! 貴様はただ殺すだけに飽き足らぬ! 手足を切り落とし、腹を掻っ捌いて! 苦しみの内に殺してやろう!!」
そう叫んだゼペドは、マリアベルの前に立ち塞がる。
「い、いけない! マリアベル、逃げろ!!」
ゼペドの強力なプレッシャーに、危険を感じたレナンが、マリアベルに叫びながら……彼女に向けて結界を展開しようとして、無理やり立ち上がり右手を伸ばした。
レナンの声を聞いたマリアベルは振り返って……彼に笑顔を見せた。レナンを安心させる為だろう。
そして、マリアベルは大剣を振り被ってゼペドに飛び掛かった。彼女に続いてオリビア達も斬り掛かる。
ゼペドは馬鹿にした笑みを浮かべ……異形の右手を光らして高く上げる。
ゼペドが光った右手を振り降ろすと……。
“ビュン!!”
光線が右手から弧を描いて放たれ……その光はマリアベル達を難なく貫通した。
“ドササ!”
光線を喰らったマリアベルはゆっくりと崩れ落ちる。マリアベルだけで無く、オリビア達も同じ様に倒れたのだった……。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は5/12水 投稿予定です、宜しくお願いします!
追)誤記を修正しました。