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247)白き神の降臨

 城下町に地獄絵図が広がる中――王城は、混乱の極みと言った様相だった。



 国全体の中枢である、この王城に被害が今だ受けていない事は不幸中の幸いと言えた。


 王城内は、王都へ民の救出へ向かう者と情報の収集に向かう者が入り乱れ、大混乱していた。



 大混乱していたのは、此処……玉座の間でも同じだった。



 「……一体! 何が起っているんだ!?」

 「何だ、あ、あの魔獣の群れは!?」

 「い、いや! それより、あの浮かんでいるのは何なんだ!?」

 「城門にも、きょ、巨大な化け物が!」



 王都の危機と言う事で、玉座の間に集められた国王の側近達は、口々に叫び合い収拾が付かない状態だ。



 それは彼等だけでは無い。今や、この王城自体がこんな様子だった。



 この場にはロデリア国王カリウスが、もの言わず静かに座している。


 その横にはアルフレド王子が、青い顏で落ち着き無い様子で座っていた。


 彼等の周りには、近衛騎士達やアルフレドの護衛であるデューイが守りを固める。



 この玉座の間に、レナンやマリアベルも居た。


 それだけでは無く、ソーニャ達白騎士隊や騎士隊を纏める各騎士団長達も一堂に集められ、国王の前で一様に待機している。



 その中でレナンは、もう我慢ならないと言った様子でマリアベルに訴える。



 「……マリアベル……僕は、もう行くよ……。こんな事をしている間に、王都は……!」


 「落ち着けレナン! 王都に駆け付けたい気持ちは、我々も同じ。混乱した状況下では、統率された組織が肝心なのだ」



 怒号が飛び交う玉座の間で、整列し出動を待たされているレナンだったが……王都の惨状を知り、一刻も早く此処を飛び出したくてマリアベルに訴えたが、彼女に諌められる。



 「……お兄様の気持ちも、良く分りますわ……。組織の中枢である彼等が、あの様子では……」



 レナンとマリアベルの会話を耳にしたソーニャも、混乱するばかりの側近達に呆れ、レナンに同意する。



 「……無能共が……」



 白騎士隊の中で気が短いベリンダが、彼等を見て吐き捨てる。


 貴族で構成された側近達は、決断力に乏しく未曽有の事態に右往左往するだけだ。



 「……ゴメン、マリアベル。もう待てないよ」


 「ま、待て! レナン!」



 痺れを切らしたレナンが、そう呟いて踵を返そうとしたが、マリアベルが制止する。



 そんな中……。



 「者共、静まれぃ!!」



 混乱した状況の中で……王座に静かに座っていた国王カリウスが、一括する。


 すると、玉座の間は水を打った様に静かになった。



 「愚か者共が! 国を治めんとする我等が乱れれば、騒乱は収まらぬわ!!」

 


 一括され慌てて跪いた側近達に向け、国王は怒鳴り付けた。



 漸く落ち着いた玉座の間で、国王カリウスはマリアベルとレナンに静かに命じた。



 「……黒騎士マリアベル……そして白き勇者レナンよ……。ロデリア国王として命ず。王都を蹂躙する痴れ者共を叩き潰し、平定せよ」


 「「は!」」



 国王の命にマリアベルとレナンは跪いて答える。



 「……白き勇者レナンは、マリアベルの指揮に従い、敵を殲滅せよ。各騎士団は雑兵を排しながら、王都の民を守れ」



 ロデリア国王カリウスの命に、この場に居た騎士達は奮い立った。この国王は横柄だが、沈着冷静で力強い言葉を発する。


 この時ばかりは、レナンも流石に国王の言を認めざるを得なかった。



 落ち着きを取り戻し、士気の高まった一同を見渡し、国王カリウスは更に続ける。



 「この程度の事で、このロデリア王国は揺るがぬ! ここに白き勇者と余が居る限り……」



 「……へぇ……この程度ねぇ?」



 国王の言葉を遮り……軽い調子の若い男の声が、何処からか玉座の間に響いた。



 その直後……。



 “ゴガガガアアァン!!”



 王城を揺るがす衝撃と共に、破壊音が鳴り響く。


 玉座の間は突然、上空から大量の瓦礫が降り注ぎ、土砂煙が立ち込めて周囲は真っ黒となった。



 しかし、この場では感じた事が無い強風が吹き、土砂煙が消えると……屋内だった筈なのに空の光で照らされる。



 「……何が……こ、こ此れは!?」



 頭を手で覆っていた側近の一人が、周りを見て大声を上げる。



 その声を聞いてマリアベルは土砂煙の晴れた玉座の間を見て、愕然としながら呟く。


 「……い、一体……どう言う事だ……」



 マリアベルが驚くのも当然だ。王城の一番高い塔に設けられた玉座の間だったが……天井を構成していた塔の上層階が吹き飛ばされていたのだ。



 上層階が忽然と無くなり、玉座の間からは見える筈の無かった空が丸見えとなった。



 しかし……その空には、無数の龍が舞い……漆黒の異形な船が浮かぶ。


 眼下の王都は、見渡す限り破壊され、幾つも炎が立ち上っている。


 地上では龍が民を貪り、4か所の城門では……以前戦った巨獣が街を破壊していた。



 「て、天井が!? 塔が……崩壊したのか!?」

 「な、何という状況だ……! これでは、この国は…!」

 「……まさか……これ程とは……」



 異様な空と、地獄絵図となった王都を見て……玉座の間に居る者達は、驚愕の声を上げた。そんな中……。



 「……何と言う脆い建造物だ……。フン、所詮は下等動物が作った物だな……」



 騒然となった玉座の間の上方より声が響く。



 その場に居た皆が声がした方を見ると……不思議な形状の衣装を纏った3人の男が、宙に浮かんでいた。


 男達は3人共が、レナンと同じ……銀髪に白い肌、そして茜色の瞳を持っている。



 「だ、誰だ……あの男達は……」


 「そ、空に……浮いている……!?」



 次々に起こる異常過ぎる出来事に……その場に居た皆が状況を理解出来ない。しかし、空に浮かぶ男達を見て……何人かがうわ言の様に呟く。



 男達は、どよめく者達の声を無視して、静かに玉座の間に降り立った。



 そして、国王カリウスを見て、男の一人が見下した様子で問う。



 「……王は貴様か?」



 そう問うたのは、空から降りてきた3人の男の内……筋肉質で体格が良く、端正な顔を持つゼペドだ。



 彼は、玉座の間に座るロデリア国王カリウスを見て、冷たく問うたのだ。



 明らかに危険な状況に、国王の傍に控えていた近衛騎士達は、武器を構えてカリウスの守りを固めた。



 「……如何にも余がこの国の王……カリウス フォン ロデリアだ……。この騒ぎは貴様らの仕業か? 名を名乗れ」


 「下等動物に応える義理は無いけど……ギナルの連中が言うには“白き神”らしいよ、僕らは……。今までギナルの連中に、この国の侵攻を任せてたけど……上手く行かないんでね……直接、やらして貰ったって訳。……神様としてお願いするよ。君達には悪いんだけど、一人残らず死んで欲しいんだ」


 国王カリウスの問いに軽薄そうな男、アニグが答えたのであった……。




いつも読んで頂き有難う御座います! ゼペド達の降臨により、いよいよ本格的に王都崩壊に至ります。ですが、レナンが力の限り抗うシーンが続きます。


次話は4/21(水)投稿予定です、宜しくお願いします!

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