23)冒険者達
互いの得られた情報を伝え合った黒騎士マリアベルと、その妹ソーニャ。概ねの情報交換を終えた中、マリアベルが自分の考えを口に出す。
『……ソーニャ、私はレナンと言う少年と仕合ってみようと思う。連れ帰って戦えませんでした、等とは言えんからな。どの程度戦えるのか、この目で見て置きたい』
「しかし、お姉さま……危険です! もし、彼が噂通りの強さだとしたら……」
レナンと直接戦うと言うマリアベルの言葉を聞いてソーニャが制止する。
『大丈夫だ、ソーニャ。私は此れでも腕には自信が有る。それに……自分の伴侶になるかも知れん男を、直接品定めしてやろうと思ってな……フフフ……仕合と言う名の見合いだよ』
「……お姉さまがそう言われるのなら……。とにかくお気を付けて下さい」
『ああ、分っている。何も心配は要らんさ』
心配そうなソーニャに対し、マリアベルは自信たっぷりに答えた。
こうしてレナンは黒騎士マリアベルに一方的な仕合と言う名の見合いを仕掛けられる事となった……。
◇ ◇ ◇
一方、渦中のレナンはバルドとミミリと共にレテ市近くの森にてヒトクイグモの討伐を請け負っていた。
ヒトクイグモは全長2mの巨大なクモで、蜘蛛の巣を張らず、ハエトリグモの様に獲物に跳躍し襲い掛かって捕食する危険な魔獣だ。
ヒトクイグモはその名の通り、人間も襲うが、運べる大きさの獲物であれば何でも捕食する。
森を歩く狩人や木こり達がこの怪物に襲われる事が有る為、冒険者にとっては討伐対象になっていた。
その為、バルド達はレテ市の冒険者ギルドで依頼を受けてヒトクイグモの討伐を行なおうとしていたが、視界の悪い森の中から襲い来る巨大なヒトクイグモ討伐は二人では荷が重いという事で、レナンが共に参加していた。
レナンは普段は中央都市アルトで隠居した父からは領地経営を、そして家庭教師のオルディや騎士のライラから色々な事を学びつつ、冒険者として活躍していた。
特に領民に仇成す魔獣駆除や、盗賊捕縛等を積極的に請け負っていた。
そのレナンだが以前の面影からはガラリと変わっていた。彼は父の指示で髪を黒くし、前髪も目を隠す様に長くしていたからだ。
尚、バルドやミミリもレナンやティアの協力により伯爵家に居るライラやオルディ達から剣術や魔術指南をレナンと共に受けていた。
もっともレナンとしては剣術や魔術指南を受ける必要などもはや無かったが、復習の意味と、バルド達の模範として接していた。
学ぶ機会が与えられたバルドやミミリはメキメキと成長し、今では二人共が3級冒険者になっていた。
レナンとバルド達は共に依頼をこなす事が日常的になり、今日も3人は共に依頼を受けヒトクイグモ討伐に出た、と言う訳だった。
ちなみにティアは王都の学生寮に居る為、レナン達と行動を共に出来ない。3人の近況を知っているティアはいつも悔しがるのであった。
そしてレナン達3人は、森にてヒトクイグモに迫る。3人を捕食する獲物として認識したヒトクイグモは3人に襲い掛かった。
巨大クモはまず、近くに居たバルドに標的として構える。この怪物は狩猟態勢に入ると跳躍して飛び掛かってくるのだ。
レナンがミミリに叫んで指示を出す。
「ミミリ! バルドが狙われている! 距離を置いて矢で牽制して!」
「う、うん! 分ったよ、レナン君!」
そう言ってミミリは矢を放った。
“ビス! ビシュ! ドシ!”
ミミリの弓の腕前は受けた教育のお蔭か、上達し外す事無くヒトクイグモが持つ台形状の胴体に命中した。
胴を矢で射ぬかれたヒトクイグモは一瞬怯んだ。その隙を見たレナンがバルドに叫ぶ。
「バルド! チャンスだ!」
「任せろ!!」
“ダン!”
そう叫んだバルドは怯んで身構えたヒトクイグモに飛び掛かり、剣で頭部を突き刺した。
“ズシュ!!”
頭部を深く剣で刺されたヒトクイグモは長い手足をばたつかせたが、やがて動かなくなり絶命した。そう様子を見たバルドとミミリは絶叫する。
「ウオオオ!! ヤッター!!」
「キャー!! 私達って凄い!」
そう言い会って抱き合い、ハイタッチする二人にレナンは苦笑しながら忠告する。
「ハイハイ、仲が良いのは分るけど、あんまり騒ぐとヤバい魔獣呼んじゃうよ? このクモ、早く開けた場所まで持って行こう」
「分りました! 先生!」
「レナン先生……寂しいのはティアが戻る夏までだからな……もう少しの辛抱だぜ?」
レナンの忠告にミミリとバルドが茶化して話す。対してレナンは慌てて答える。
「何だよ、その先生って。それに僕はティアが居なくたって、べ、別に寂しくなんか無いよ!?」
「はいはい、そんなセリフはその赤い顏を何とかしてから言うんだな。とにかくこのクモ広場まで持って行こうか、先生?」
顔を赤くしたレナンに対しバルドが冷静に突込み、レナンに聞き返した。
「だから……何で先生って……もう、いいよ……とにかくこのクモは僕が運ぶから、バルドは先頭、ミミリは後方で警戒しながら移動しよう」
「あいよ」
「はい、レナン先生!」
そう言って歩き出す3人。レナン達は森を歩く。街道近くの平野部にてヒトクイグモを解体し素材と討伐証明部位と回収する考えだった。
ちなみにヒトクイグモは数百キロの重さだが、レナンがいつもの様に自身に強化魔法を掛けて難なく担いでいた。
やがて彼らは目的の平野に辿り着いた。
此処は木こりが木々を伐採して広い草地となった場所だ。そこで3人がヒトクイグモの解体を始めたが、レナンが何かに気付いて呟く。
「……何かに見られている気がする……」
「オイオイオイ、止めてくれよ! お前の勘は当たり過ぎるんだから」
「いや、大丈夫だ……複数の視線を感じるけど……片方は敵意を持っていない様だし……もう一方はそんなに脅威を感じな……」
“ブブブブブブ!!”
バルドとレナンが話している途中に突如羽ばたく音と共に、巨大な何かが空から降りてきた。それは……。
「おおお!? おい、メガワスプだぞ! そ、それ!!」
突如現れたソレを見てバルドが驚愕して叫ぶ。メガワスプとは巨大過ぎる蜂だ。
メガワスプは全長3mで6枚の羽を持つ巨大な蜂の様な魔獣だ。この怪物は非社会性で群れを作らず単独で狩をする。
そしてジガバチの様に獲物を毒針にて麻痺させ巣に持ち帰る特性が有る。持ち帰った獲物は卵を産み付けられ、孵化した幼虫に生きたまま喰われるのだ。
メガワスプはバルド達の周りをグルグル回りながら飛び掛かる機会を伺っている。空飛ぶ巨大な魔獣の来襲にバルド達は慌て叫ぶ。
「くそ! 気を付けろ、ミミリ! 俺ら狙われてんぞ!」
「う、うん! でも、動きが早過ぎて!」
ミミリは襲い来るメガワスプに矢を放とうとするが時折飛びながらグルグル回り襲おうとする巨大な怪物に狙いを定められない。
「キャア!」
ミミリは草に足を取られて転んでしまった。そこへメガワスプは一気に襲い掛かる。
「ミミリ!!」
バルドは叫んでミミリに覆い被さった。絶体絶命、バルドはそう思ったが……。
“ズパン!!”
そんな音がした、とバルドとミミリが顔を上げると、頭から胴部まで綺麗に両断されたメガワスプが二つに分かれ崩れ落ちる所だった。
二人の前には剣を振り降ろしたレナンの後ろ姿が見えた……。
「……大丈夫だった? 二人とも……」
難なくメガワスプを両断したレナンは黒くなった髪を風で靡かせながら二人に手を差し伸べるのだった……。
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追)一部見直しました!




