245)破滅の軍団(レギオン)
アルテリアの森の奥……不可思議な光が天に立ち上るのを見て、ティア捜索を行っていたライラ達は光の元へ走った。
そこで見たのは、龍とマトモに戦い合うティアの姿だった。
ティアは、現れたライラ達をチラリと一瞬見たが、構わずに龍への攻撃を続ける。
「……炎の槍よ! 貫け!!」
ティアは右手に炎の槍を生み出し、龍に向け投げ放つ。放つと同時に後方で控えるユラにティアは叫んだ。
「ユラさん!!」
「……裁きを与えよ、崩雷撃!!」
“ガガガガガン!!”
ティアの必殺の槍と、ユラの上級雷撃魔法は同時に、龍へと直撃し……大爆発を起こした。
「やった!!」
「す、凄いぞ! ティア様!!」
火球に包まれた龍を見て、バルトやベルンが歓喜の声を上げるが……。
「……いいえ、まだよ」
ティアだけが静かに呟く。その言葉通り……火球の中から龍がゆっくりと現れる。
龍はティア達の攻撃で、多少のダメージを受けた様だが……あっと言う間に回復していく。
「……モグ……やっぱり簡単じゃ無いね、龍殺しは……」
ティアは懐から、焼いた毒蛇を齧りながら呟く。
(攻撃が通らないなら、何度でも……!)
そう決意してティアが再度攻撃を仕掛けようとした時だ。
“キシャアア!”“キイイアァ!”“キシャアァ!”
上空から複数の龍の声が響く。
「な、何だ!?」
その声に驚いたダリル達が、上空を見ると……。
何と、無数の龍が空を舞っている。何時の間に現れたのか、もの凄い数だ。
「ちぃ! お呼びじゃないのよ、団体さんは!」
ティアは背筋に冷たいモノを感じながら、空を見て悪態を付く。
突如、天に現れた無数の龍……。その余りの数に、ライラ達やユラも絶句して……この世の終わりと言う様な顔を浮かべていた。
この数の龍が一度に攻めてくれば……ティアがどれ程に強かろうが、この場に居る者達は全員殺されるだろう。
戦慄した空気の中、ティアが諦めない覚悟で剣を握り締めた時だった。
“キシャアアアアア!!”
一際高い叫び声を上げた龍が、北西に向かって飛び去った。すると……天を舞っていた無数の龍も付き従う。
そして……。
“キイヤァア!”
地上でティアと戦っていた龍が、彼女に構わず……突然飛び立ち龍の群れに合流する。
空を覆い尽くさん程に現れた無数の龍達は、あっという間に北西の空へ飛び去った。
龍の飛び立った後も、卵の様な黒い建造物は、頂上から光を立ち上らせている。
しかし、龍が居なくなったこの場は、静寂が訪れた。
突然去った龍を唖然とした様子で立ち尽くすティア……。
そんな彼女に……。
「ティ、ティアちゃん!!」「ティアお嬢様!!」
立ち尽くすティアの元へ、ミミリやライラ達が一斉に集う。
「……ミミリ……ライラ……それにバルド達も……どうして、ココに……」
「馬鹿野郎!! お前の事が心配だからに、決まってるだろうが!!」
集まった仲間達に、驚いた様子で尋ねるティアに……バルドが我慢できず大声を上げた。
「……皆……ゴメンね……」
ティアは仲間達に向け、申し訳無さそうに謝る。ミミリとライラは泣きながらティアの手を取り再会を喜んだ。
「……やれやれ……助かったわね、ティアちゃん……」
そんなティア達の元へ、後方支援として戦っていたユラが声を掛ける。
「何だったのかなー? あんなにいっぱい……みんな、北西に飛んで行ったけど……」
「……北西……北西って言えば……まさか!?」
不思議そうに問うたユラの言葉を聞いて、ティアは有る事に気が付き叫ぶ。
「た、大変よ!! 今すぐ行かなくちゃ!!」
ティアはライラ達の方を向いて叫んだ後……森の奥に控えさせていたギガントホークへと走る。
「い、いきなり、どうしたのティアちゃん!?」
突然走り出したティアに、ミミリが大声で問う。ティアはギガントホークに跨りながら、気付いてしまった恐るべき事実を皆に伝える。
「奴らが飛んで行った北西! その方向には王都が有る!! 奴ら、王都を襲う気なのよ!!」
「「「「!?」」」」
ティアの大声を聞いてユラやライラ達は驚愕して絶句する。
「私は王都へ戻る! ライラ達はギルドで緊急事態と伝えて!!」
ティアは叫ぶだけ叫ぶと、ギガントホークを駆り自らも北西の王都に向け飛び立つ。
空高く上がったティアは、天に立ち上る光が……此処だけでなく遥か彼方に幾つもある事に気が付いた。
そして恐ろしい事に……天に立ち上る光から、黒いモヤの様な何かが……王都に向かって飛んで行く様を見た。
その黒いモヤが……大量の龍である事は、疑い様が無かった。無数の龍が彼方此方から王都へ集結しているのだ。
あの恐ろしい龍がアリの大軍が如く一斉に王都を襲えば……待っているのは鼠一匹すら生き残れない地獄だ。
ティアはそんな恐ろしい光景が一瞬想像してしまったが、首を振ってそれを否定する。
「急いで! ……どうか無事でいて……!」
ティアはギガントホークに指示を出すと、大切な者達の無事を必死に祈った。
そこにはリナやジョゼやパメラ達……学園の親友達、師匠のクマリ……木漏れ日亭の家族等……王都で知り合った親しい者達の顔と……何より大切なレナンの後姿が脳裏に浮かぶ。
そして何故か……敵である筈の、ソーニャとマリアベルも浮かんだのだった。
ティアは王都に居る大切な彼等の無事を痛切に祈りながら、北西へと向かうのであった。
いつも読んで頂き有難う御座います! 次話は4/14(水)投稿予定です、次話も宜しくお願いします!