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242)忌まわしい首輪

 「今日も御指導、有難う御座いました!」



 王城内に有る訓練場から元気な声が響く。その声はロデリア王国のアルフレド王子だ。



 「……いいえ、僕は大した事はしていません。全ては殿下、御一人の御力です」



 感謝するアルフレドの言葉に、レナンは本心を伝える。


 レナンはアルフレドに請われて、彼に剣の指導をする様になって一年程経った。



 レナンの言葉通り、アルフレドは元々素質も有り、何より努力家だった為……彼の実力は目に見えて向上した。



 「レナン殿の御指導のお蔭で、アルフレド殿下もメキメキと腕を上げられました。僭越ながら、私からも御礼申し上げます」


 「そーだな、突っ立ってるだけの朴念仁とは訳が違うな」


 「レニータ! それは私の事では有るまいな!」



 訓練場に居た白騎士のレニータはデューイをからかい、彼の怒りを買う。


 何故か、レニータは毎朝のアレフレド王子とレナンの特訓に合して、訓練場を利用する。



 「お止めなさい、アルフレド殿下の御前ですよ? デューイ殿も毎回ご免なさい」



 そんなレニータに注意するのは、同じ白騎士のルディナだ。



 「デューイ殿、毎朝呼んでもいないのに……絡むレニータを、どうか許してあげてね……。その本心は、いじらしく……乙女心そのもの……」



 ルディナはレナンに付き添うと言う建前で、よく此処に来るが……本当の目的はデューイに好意を持つレニータを弄るのが目的の様だ

 


 「な、何言い出すんだ、ルディナ! よ、よよ余計な事を言うじゃ無い!」



 ルディナの冷やかしに慌ててレニータが制止するが……。



 「いじらしく? 乙女心? ルディナ殿……失礼ながら、この男女にそんなモノが?」



 “ドガァ!”



 意味が今一つ分っていないデューイが、空気を読まない発言をした。それにブチ切れたレニータが彼を蹴っ飛ばし……二人はそのまま言い合いになる。


 そんな二人の様子を見て、アルフレドやレナン達は可笑しそうに笑った。



 しかし……。



 「……それではアルフレド殿下と、皆さん……僕はそろそろ、戻ります……」



 レナンは楽しそうに笑った後……急に夢から覚めたかの様に、感情を無くした。そして挨拶の上、丁寧に頭を下げ訓練場を出ようするが……。



 「あ、あの! レナン様、お、お待ち下さい!」



 アルフレド王子が慌ててレナンを制止した。



 「レ、レナン様には、父が余りにも失礼な事を……! レナン様だけでは有りません! レナン様のお姉様や、マリアベル姉様にも! お、王子として父のした事、お詫びします!」


 「で、殿下……!」



 アルフレドは呼び止められて振り返ったレナンに頭を下げ、誠心誠意謝罪する。

 


 謝罪したアルフレドを制止する為、デューイが慌てて声を上げ駆け寄ったが……アルフレドは頭を上げようとしない。




 建国祭後の謁見時での出来事は、アルフレドやデューイ達もその場に居て見ていた。



 アレフレドは自分の父であるロデリア国王の横暴な態度が、レナン達に申し訳ないと強く感じていた。




 また、父に対し自分が何も出来なかった後ろめたさが、彼には有った。


 アルフレドは、父に対しレナン達やマリアベルの処遇改善を訴えたが……“政治を知らん子供が口を出すな”と一蹴され、悔しい想いをしただけだった。



 そんな想いからアルフレドはレナンに謝ったのだが……。



 「……アルフレド殿下……お気遣い頂き有難う御座います……。そのお気持ちだけで十分です……」



 レナンは力なく笑って訓練場を出たのであった。




  ◇   ◇   ◇





 訓練場を出たレナンは回廊を歩きながら、先程の事を思い出していた。



 それは、訓練場でレニータをからかうルディナの様子が面白くて笑った事だ。


 レナンは囚われの身だ。その筈なのに、この王城の暮らしが苦にならなくなっている。



 先程の出来事もそうだ。いつも出来事で普通に楽しんだ自分が居る。



 

 日常だけでは無い、マリアベルとの夜も同じだった……。




 家族と故郷を盾に、命令されて仕方なくマリアベルとの夜伽を行っている筈なのに、今は受け入れている。



 そんな自分が嫌になり訓練場では態度に現れてしまったのだ。



 レナンが自己嫌悪に陥る理由に、ティアの様子が変わった事だ。彼女はレナンを取り戻す為に、学園を辞め一人強くなる為に戦っていると噂に聞く。



 彼女からの定期的に来る手紙が、やたら明るく元気な様子でティア自身の事を記されているが、それがレナンを心配させない為の嘘だと分った。



 自分を助ける為に、必死で戦っているティアを余所に、この囚われの境遇を受け入れ……尚且つ楽しんでいる自分に嫌気が差し、落ち込んでいたのだ。




 (雁字搦めに縛られた自分の身が恨めしい。こんな首輪さえ無ければ……今すぐにでもティアを探しに行くのに……)



 レナンはそう思い、憎らしい思いで自分に巻かれた赤い首輪に触れる。



 彼の力を持ってすれば……こんな首輪など一瞬で灰に出来るだろう。



 だが、首輪を外し……この場を逃げ出してティアの元へ向かえば……待っているのは父トルスティンの処刑と……故郷アルテリアの滅亡だ。


 レナンが本気で抗えば、ロデリア王国軍など蹴散らせる。



 だが、王国軍は絶え間なく挙兵し、泥沼の内乱に発展する事は間違いない。そして……戦いの果てに苦しむのは、いつだって民達だ。


 その戦いでどれ程の王国民が犠牲になるだろうか。



 過去に起こった内戦による悲劇を父より教わってきたレナンには、我が身可愛さでロデリア王国の内戦を生む様な事は出来なかった。



 だからこそ、この赤い首輪が忌まわしかったのだ。




 回廊で一人落ち込むレナン。そこへ……。



 「……勇者様……」



 彼にか細い小さな声で呼び掛ける者が居た。


 声を掛けられたレナンが振り返ると……そこには、幼い少女が一人で立っている。



 レナンはその少女に見覚えが有った。



 確か、神託の巫女であるダキムと共に居た……見習いの少女ラニだ。



 「……ラニ殿……ダキム様は如何なされた……?」


 

 此処にダキムが居ない事に戸惑いながらレナンは彼女に問うた。



 「お師様は……亡くなり……ました……」


 「え……?」



 俯いて発したラニの意外過ぎる言葉に、レナンは驚き言葉を失う。



 「……お師様は……“神の呪い”を受け……悶死なさいました……受けた神の声は……激しい怒りより……呪いとなって、お師様の心を蝕み……苦しみ抜いて……」



 ラニは絞り出すようにダキムの最後をレナンに伝えたのだった。


いつも読んで頂き有難う御座います、次話は4/4(日)投稿予定です、宜しくお願いします!

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